パリ五輪世代の細谷真大(柏レイソル、21歳)は、売り出し中のストライカーと言えるだろう。2022年はJ1でチーム最多8得点を記録し、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。東アジアE−1選手権では、日本代表にも選出されている。

 5月3日、湘南ベルマーレ戦。細谷はシーズン4得点目を決めている。自陣内からかき出したクリアに近いパスだったが、鋭い反応でディフェンスと並走しながら受けると、スピードとパワーで競り勝ち、GKと1対1になって冷静に股を撃ち抜いた。放胆な抜け出し、単純なスプリント力、動じない力強さ、仕留める精度など、彼らしいゴールだった。結局、これが決勝点になっている。

「チームが苦しい時に決めるのがFWの仕事だと、今年はこだわってやっている」

 細谷はそう言って、今シーズン2勝目となる試合を振り返った。

「味方がボールをとった瞬間、サイドバックの裏を突こう、というのはチームとしての狙いだったので、抜け出したあとは自分の形に持ち込めて、うまく流し込めました。(最後のタッチで)中に持っていって角度がなかったので、あそこは股しかなかったですね。クオリティや冷静さはまだまだですが、ひとつ成長できたところで......」

 細谷はすでにJリーグを代表するストライカーのひとりだろう。


湘南ベルマーレ戦で決勝ゴールを決めた細谷真大(柏レイソル)

 日本人ストライカーは群雄割拠の様相を呈している。

 得点ランキング上位に、僅差で多くの日本人FWがひしめき合っている。日本人では大迫勇也(ヴィッセル神戸、32歳)が7得点でトップ。町野修斗(湘南ベルマーレ、23歳)、鈴木優磨(鹿島アントラーズ、27歳)、そしてストライカーではないが伊藤涼太郎(アルビレックス新潟、25歳)が6得点で続く。小川航基(横浜FC、25歳)、浅野雄也(北海道コンサドーレ札幌、26歳)、山岸祐也(アビスパ福岡、29歳)が5得点で追いかけ、それ以下も4得点の細谷を筆頭に虎視眈々と上位を狙う。

 このなかから、熾烈な"戦国時代"を一統するような日本人FWは台頭するのか?

【総合力が高い大迫勇也と鈴木優磨】

 長く日本代表のエースFWだった大迫が、今もトップストライカーなのは間違いない。大した工夫もないロングボールも収められるし、動き出しの質や速さは他の追随を許さず、彼が前線にいるだけで「戦術」になる。武藤嘉紀と並んだ陣容は、迫力満点。直近の名古屋グランパス戦でも、駆け引きでマークを外し、軽々とヘディングを流し込んでいた。

 Jリーグに復帰した当初、大迫は明らかにコンディションが悪かった。また、チーム戦術との不具合(アンドレス・イニエスタ中心の戦術では、どうしてもプレスをつかえず、ラインを下げてしまうため、持ち味が出なかった)もあったが、最近は存在感を取り戻している。名古屋戦の2点目となるアシストも、体の使い方だけでマーカーを置き去りにした。ポストワークの質の高さも含め、今も日本代表に選出されても不思議ではない水準だ。

 ただ、まもなく33歳のFWがいつまでも"覇権"を握るようだと新たな風は吹かない。

 その点で、成熟を迎えつつある鈴木の総合力の高さは特筆に値する。大きな体躯を駆使したポストプレーは、Jリーグでは大迫と並んでトップレベル。昨シーズンはチームの不振に引きずられたが、ヘディングも強く得点パターンは多彩だ。見かけによらず、マークを外す駆け引きは繊細で、細かい動きの積み重ねは芸術的ですらある。大迫が不調だった当時、カタールW杯の日本代表でも有力な存在になり得たはずだ。

 その猛々しい振る舞いは、しばしば物議を醸すが、チームのため、勝利のため、であることは間違いない。むしろ、最前線の選手としては必要不可欠な気概とも言える。森保一監督との確執も伝えられるが、日本代表FWの一番手の座を争ってもおかしくない素材だ。

 カタールW杯日本代表に選出された町野は、高さが武器だろう。直近の柏戦、オフサイドでゴールを取り消されたシーンや、得点となるCKにつながった場面も、バックラインから蹴り込まれたロングボールをヘディングで競り勝ち、味方に配球していた。また、ストライカーに必要とされる「運勢」を持っている。昨シーズンは日本人最高の13得点。ラスト2試合3得点の固め獲りで、W杯代表に滑り込んだ。

 ただ、現状では高いレベルでの経験が乏しいと言えるだろう。強力で老獪なディフェンス相手には分が悪く、ディテールの精度の低さが出る。FKのブレ玉など飛び道具も華やかだが、予備動作やターンなどの細かい技術を高められるか。

 伏兵は、現在3得点の宮代大聖(川崎フロンターレ、22歳)かもしれない。シュートセンスは天性。ボールの置きどころがよく、振り足が速く、普通ならないはずのタイミングやスペースで格別のシュートを狙える。どのポジションに入っても必要な技術を持っており、インサイドハーフやサイドアタッカーとしても適応できる。サッカーセンスの塊だ。

 センスに恵まれすぎているのか、物足りなさもある。クロスに飛び込む泥臭さ、体勢が悪くてもゴールに打ち込む執念、それを続けられる粘り、単純な対人でのパワー.....川崎のエースFWだった大久保嘉人を模範とすべきだろう。

 細谷を含めて日本人ストライカーは群雄割拠。混沌の時代を誰が勝ち抜くだろうか。