5月2日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は欧州王者レアル・マドリードをホームに迎え、2−0と勝利を収めている。

 出場停止やケガ、またはスペイン国王杯決勝、チャンピオンズリーグ(CL)準決勝と続く過密日程のための温存などで、カリム・ベンゼマ、ヴィニシウス・ジュニオール、ルカ・モドリッチ、フェデリコ・バルベルデ、ダビド・アラバ、エドゥアルド・カマヴィンガなど多くの主力がいなかったという要因はあるだろう。しかし来季のCL出場に向け、大きな金星だった。

 その殊勲者となったのが、ラ・レアルの14番、久保建英である。4−3−3の右アタッカーで先発。レアル・マドリードのGKへのバックパスをかっさらい、鮮やかに決勝点を決めた。

 スペイン大手スポーツ紙『アス』の久保に対する寸評は、核心を突いていた。

「久保は決定的な選手になることを、自分自身に求めてきた。彼はそれを成し遂げつつある。シーズン8得点目で、8勝目。すばらしいプレスからの先制点だった。(対面した)ナチョを抜くのには苦労していたが、試合を通じてトライすることをやめなかった」
 
 久保は"求める自分"になろうとしているのだ――。


レアル・マドリード戦で決勝点となる先制ゴールを決めた久保建英(レアル・ソシエダ)

 18歳でレアル・マドリードと契約した久保は、世界を驚かせている。しかし彼自身、そのこと自体には少しも甘んじていなかった。ピッチで王者にふさわしいプレーをすることに執念を燃やし、苦しむこともあったが、突き進んできた。

 スペイン挑戦1年目は、レンタル先のマジョルカですぐに定位置をつかんでいる。2年目はビジャレアルという欧州カップに出場するクラブに移籍したが、ウナイ・エメリ監督の守備戦術と合わず、移籍したヘタフェでも同じもどかしさを抱えることになった。3年目は再びマジョルカでプレーし、悪くはなかったが、最後は失速していた。4年目、レアル・ソシエダに入団した時には、「上位クラブで通用するの?」という懐疑的な声もあったが、ピッチに立った彼は、それを声援にひっくり返した。

【厳しいディフェンスにも集中力をキープ】

 久保は現在、ボールプレーを信奉するラ・レアルで水を得た魚となっている。その運命も彼がつかんだものである。シーズン8得点は日本人選手として初の快挙で、その8試合すべてで勝利。まさに不屈のキャラクターだ。

 レアル・マドリード戦は象徴的だった。

 序盤、久保はカウンターからのドリブルで、カバーに来たスペイン代表ダニエル・カルバハルに前に入られ、ストップされる。経験の差を見せつけられたが、少しも諦めなかった。右サイドを中心にダビド・シルバとのパス交換で、ライン間にかい潜り、クロスからチャンスを演出。マークを引き寄せながら、左サイドをオープンにし、それで得たCKを自らニアに蹴り込むなど、決定機も作った。

 攻撃の起点になりかけた久保だが、今度は間合いで守る技に長けるスペイン代表ナチョに持ち味を消される。ナチョのアタッカーにアジャストする熟練のディフェンスは世界屈指で、背を受けてボールをもらったところでは、衝突するような激しさで潰された。こうした硬軟使い分けた守りをされると、次第にしぼんでしまうものだが、久保は集中力を切らさなかった。

 そして後半開始直後、味方のアレクサンダー・セルロートがエデル・ミリトンにふたをし、無理なターンで足を滑らせながらバックパスになったところ、GKの前に張っていた久保は鋭い出足で迫る。そしてひと足早くボールにコンタクトし、左足でゴールに流し込んだ。古巣レアル・マドリードへの敬意だろうか。ゴールパフォーマンスは控えめだったが、チームメイトと抱き合い喜びを爆発させていた。理性よりも本能のほうが強く出る選手だ。

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、久保のコメントを使ってこう見出しを打っている。

「マドリードに勝ったことで、自分の(得点の際の)写真がマルカの誌面を飾るだろうね。思い出に買うことにするよ!」

 サッカー界で絶対的王者になるという一種のナルシズムで、久保は"なりたい者になろうとしている"。その生き方の激しさは簡単に真似できない。だからこそ、多くの人の関心を引く。言い換えれば、それがスター性だ。

 久保は73分に交代でピッチを去るまで、ナチョと敢然と対峙し、その隙を窺っている。相手がアジャストしてくるなら、それを乗り越えるしかない。そこには一流選手同士の間合いがあった。

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は、久保にダビド・シルバと並んで最高の四つ星をつけている。FCバルセロナ系のスポーツ紙だけに、「いつかバルサに戻って来てほしい」という色気もあるのか。宿敵であるレアル・マドリードを撃破した選手は、すべて愛すべき存在だ。

 久保はマドリード撃破の主役になったわけだが、さらなる大きな舞台を求めるだろう。目標に掲げていた二桁得点も、手の届くところまできた。彼が求める"彼"はこんなものではない。