「日本のボランチといえば川颯太でしょ」を目指し、パリ五輪は「ドイツでもスペインでも全然来いよ!」
サッカー日本代表「パリ世代」インタビュー07
川粼颯太(京都サンガF.C./MF)後編
◆川粼颯太・前編>>京都史上最年少キャプテンは「お前、誰だよ」からのスタート
川粼颯太が初めて年代別日本代表に選ばれたのは、2019年、U-18代表の一員としてスペイン遠征に参加した時のことだ。
まだまだ成長途上にあった川粼は当時、胸を張れる活躍ができたわけではなかった。だがしかし、甲府から単身京都へやってきて、年代別代表経験が豊富な先輩たちの背中を追いかけてきた高校生にとって、大きく前へ踏み出す一歩であったことは間違いない。
以降、川粼が年代別代表に選出されることは、もはや珍しいことではなくなった。
今年3月に行なわれたU-22代表のヨーロッパ遠征では、ドイツ、ベルギーという強豪国を相手にしても、持ち前の果敢な守備を披露。パリオリンピックを目指すチームにあって、中心的役割を担うまでに成長している。
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川粼颯太(京都サンガF.C.)2001年7月30日生まれ
── 年代別代表に選ばれる選手も多い京都サンガF.C.U-18でプレーしてきて、やはり自分も入りたいという気持ちはありましたか。
「ユースの頃からありましたね。学年にひとりくらいは年代別代表に選ばれているっていうのが京都の環境だったので。
常に代表という存在が身近にありましたし、だからこそ(当時U-18代表監督の)影山(雅永)さんがプレミアリーグの試合とかを見に来てくれていた。そういう面では、いつでもチャンスは転がっていると思ってました。
── 2019年に初めてU-18代表に選ばれた時の心境は?
「うれしかったですけど、本当にビックリしました。初めての試合で国歌を聞いた時に、メッチャ震えたことも覚えてます。『やっぱ代表って特別なんだな......』って思いましたね」
── ただ、新型コロナウイルスが感染拡大した2020年に入ると、U-19代表も海外遠征ができず、活動は国内キャンプのみ。どうモチベーションを保っていたのですか。
「その時はまだ、自分が代表の中心になれてないなっていう気持ちもあったので、あまりショックはなかったです。選ばれるのが当たり前の選手だったら、海外遠征に行きたいって気持ちもあったかもしれないですけど。
自分としては、J1で試合に出ていた斉藤光毅(FW/当時・横浜FC→現スパルタ・ロッテルダム)とかと一緒にやれることが本当に刺激になっていたので、国内キャンプでも全然楽しかった。3〜4日くらいの期間でも、自分にとってはすごく大きなキャンプでしたね」
── 結果的に、2021年のU-20ワールドカップは開催中止となりました。
「その頃はまだ、今の自分にとってのオリンピックほど(U-20ワールドカップが)身近なものではなかったですし、絶対に自分が選ばれてそこに出るんだっていう気持ちは全然なかったと思います。
その後、者(貴裁監督)さんに出会ってから、自分が代表に呼ばれたいとか、国際大会に出たいとか、そういうことを思うようになりました。プロ1年目の時は特に、まずはJリーグで試合に出ることに必死だったので、代表のほうにモチベーションを持っていけるほど余裕はなかった気がします」
── 者監督からは代表について、アドバイスされることもあるのですか。
「者さんの口グセじゃないですけど、『代表に選ばれて満足するんじゃなくて、(大事なのは)そこからだろ』っていうことはよく言われていて......。本当にそのとおりだと思います。
代表に選ばれてるからOKじゃない。代表に選ばれて、そこでどういうプレーを見せられるか、どれだけ代表チームにプラスの影響を与えられるかを考えられるようになったのは、者さんの影響かなと思います。
もちろん、京都で試合に出て、どういうプレーをするかも、代表に選ばれるには大事な要素かもしれません。でも、やっぱり代表で何ができるかが大事だと思いますし、京都でいいプレーしていても代表では何もできなかったら、もう選ばれなくなると思うんで。
どういうメンバーで、どういう相手と、どういうサッカーをしても、いつも自分がいいパフォーマンスをすることが大事だと思っています」
── パリオリンピックはU-20ワールドカップよりも現実的な目標になっていますか。
「そうですね。パリオリンピックは出たい気持ちが強いですし、これだけ海外遠征とかにも呼ばれているからには、チームの中心として戦いたい。メンバーに入るだけじゃなくて、もう一個上を目指していきたいです」
── 今年3月のヨーロッパ遠征を見ても、昨年に比べてU-22代表内での序列が上がってきているように感じます。
「昨年の活動に比べたら、直近のドイツやベルギーとの試合は、自分が中心となってチームを動かしてるんだなっていう感覚が、もう全然違いました。そういうところは、大きな成長かなとは思います。
でも、これからは下(U-20代表世代)からの突き上げもあると思いますし、自分が安定の位置にいるとは思いません。自分が序列の1番か、2番か、3番かではなく、もうコイツは絶対的な選手だ、というくらいの価値をつけなきゃいけないと思っています」
── U-22代表のなかでも、ボランチは選手層が厚く、競争が激しいポジションです。
「ボランチには本当にすばらしい選手がいるので、やっぱり彼らとの明確な違いというか、『颯太だからできるプレー』っていうのを見せなきゃいけない。
守備の面では、出足のよさとか、ガツガツとボールを奪いにいくところをもっと上げること。それに加えて攻撃の面でも、ビルドアップもできるし、(相手にとって)危ないシーンにも入っていけるし......っていう、攻守において自分の特長をさらに伸ばすことが大事になると思います」
── ヨーロッパ遠征の時にも、「自分のよさを出しながら、チームのよさを出せるようにしたい」と話していましたね。
「そこは一緒に出ているみんなが自分の特長を理解してくれて、信頼してくれてるのが大きいですね。周りの理解を得られているからこそ、自分の特長も出しやすくなったし、それがチームのよさに直結しやすくなったのかなと思います」
── 昨年秋からヨーロッパの強豪国との対戦が続いています。印象に残っているチームや選手はいますか。
「直近の試合だからというのはありますけど、ベルギー戦は衝撃を受けました。中盤の7番(ラージー・ラマザニ/アルメリア)とか、ボランチの8番(アステル・ヴランクス/ミラン)とかは、スピードだけでなく、強いなかにしなやかさもあった。でも、そういう選手に勝たなきゃいけないと思うと、ゾクゾクしましたね」
── ゾクゾク、ですか。
「絶望感というか、どうしようもないな......とは思いませんでした。こういう相手をどうやって崩せばいいんだろうって考えると、もっと自分がすべきプレーだったり、成長しなきゃいけないところも見えてきましたし。もちろん悔しい気持ちはありますけど、大きな経験だったかなと思います」
── U-22代表も海外組が増えてきましたが、自身の海外移籍についてはどう考えていますか。
「ヨーロッパ遠征で試合に出ていると、こういう選手たちと(日常のリーグ戦で)毎試合やれたらどんなに成長できるだろうって思います。Jリーグのレベルが低いとは思いませんけど、やっぱり、ああやって海外の選手と毎日のようにプレーすることで自分のよさがもっと出てくると思うので、純粋に『海外でやってみたいな』とは思います」
── 昨年のワールドカップでは、日本代表がドイツ、スペインを破る活躍を見せました。あとに続く世代のひとりとして、どんなことを感じましたか。
「日本の試合だけでなく、それ以外の試合からもたくさん刺激を受けた大会でした。イングランドとかでも、自分よりも年齢が低い選手(19歳のジュード・ベリンガム/ドルトムント)が得点を決めてチームを勝たせてる姿を見ると、まだ21歳だからと思ってる自分がバカバカしくなりますし、やっぱりそこに基準をもっていかなきゃいけない。
ドイツやスペインに勝ったことを、やっている選手はジャイアントキリングだとは思ってなかったでしょうし、自分もそれを奇跡だとか思われないくらいの力をつけたいですね」
── 最終的に目指すのは、あの舞台ですか。
「そうですね。世界中が熱狂する大会に出たいですし、そこで勝ち上がっていくって、サッカー人生においてもなかなかない機会だと思うので。自分もそこに出て、日本を勝たせたいというのはあります」
── その前に、まずはパリオリンピックがあります。
「ワールドカップの前にメチャクチャ魅力的な舞台があるので、そこを目指さない理由はないかなって思います。
自分がオリンピックに出る時には、『ドイツでも、スペインでも、全然来いよ!』っていうくらいの気持ちでいられることが、今(日本代表が)目指している(ワールドカップの)ベスト8とか、それ以上のところへ行くためには重要なこと。やっぱり僕自身の目標というか、意識も、もっと上げていかなきゃいけないなと思います」
── 京都でも、U-22代表でも、今季は川粼選手にとってターニングポイントとなりうる大事なシーズンになりそうですね。
「本当にこの1年、どんなパフォーマンスを見せられるかで、先ほどの話にもあったボランチの序列も変わってくると思います。
去年の反省である(試合ごとの)波っていうものを絶対になくして、『この世代のボランチでは川粼がいいよね』ではなく、『J1のボランチといえば、日本のボランチといえば川粼でしょ』って言われるくらいのインパクトを残さなければいけない。
そのためには、毎週、毎週、いい準備をして、いいパフォーマンスを出し続けることが大事だと思っています。
(了)
【profile】
川粼颯太(かわさき・そうた)
2001年7月30日生まれ、山梨県甲府市出身。小学4年生からヴァンフォーレ甲府のアカデミーで育ち、高校から京都サンガF.C.U-18に加入。2020年にトップチームに昇格し、プロ2年目にレギュラーの座を獲得する。今季より背番号7に変更してキャプテンに就任した。日本代表ではU-18から各年代で呼ばれ、昨年はドバイカップU-23や欧州遠征を経験。ポジション=MF。身長172cm、体重70kg。