山粼武司の強打者診断

パ・リーグ編

 今季のセ・パ両リーグでは、才能を高く評価されてきた"原石"たちが飛躍の気配を見せつつある。彼らの現在地はどこにあるのか。中日、オリックス、楽天で活躍し、NPB通算403本塁打を誇る山粼武司氏に、各選手の技術論や課題などを聞いた。まずは、パ・リーグで期待の強打者3人についての分析をお届けする。


現在はケガで離脱中も、日本ハムで飛躍が期待される清宮

【清宮幸太郎(23歳/日本ハム)】

 清宮については、昨年に体を絞って18本塁打を打った。体を絞ったことがすごくいいことで、才能の片鱗を見せたけど、本人もそれほど活躍をしているとは思っていないんじゃないかな。ただ、徐々に彼らしさが出てきて18本塁打を打ったという"数字"が、今年、来年以降に20本、30本と目指していく上で大きな経験になったと思います。

 彼のバッテイングを見ていると、いまだに高校時代の財産でやっている部分が大きいとは感じます。高校時代に100本以上打ってるわけだから、それ自体は悪くないですよ。

 でも、プロは投手のレベルが格段に上がるから、高校時代のように「ホームランのミスがヒット」とはならない。彼がタイトルを狙うような選手になりたいなら、「ヒットの延長線上がホームラン」と意識を変えるべきタイミングに差し掛かっているよう感じます。これは技術的なことよりも、打席での意識やイメージの話。それが彼の成長につながると、個人的には思っています。

 技術的な部分で言うと、ほぼ引っ張りにいっていることが気になる。その上、ツーシーム系のアウトコースのボールの捌きがうまくないですね。なぜかと言うと、振り出しと同時に腰とバットを振り始めているから。これではどうしてもアウトコースが届かない。シュート系の逃げていくボールに対して当てるようにコンタクトしてますが、その姿勢は個人的に目につきますね。

 今の清宮は腰が開いたところでトップを作ってスイングしているけど、トップが浅くなってしまうからアウトコースを打つのがうまくない。球速が速い投手が相手だと、アウトコースは泳がされて当てる打撃になってしまうという悪循環になりつつある。

 もし彼が広角に打ち分けようと思うなら、今のフォームでは厳しい。やはり、本気でタイトルを目指すならアウトコースへの対応、自分のタイミングでトップの位置を作る、ということを矯正していってほしいです。

 清宮が30本打てるかどうかは、今の段階では明言できません。厳しいことも言ったけど、彼は持って生まれた力があるし、素材は間違いないのでかなり期待している選手です。打撃の内容も、1軍に慣れてきて徐々によくなってきている。将来的には本塁打王を争っていけるだろうし、プロ野球人気を考えてもそうあるべき。やっぱり清宮の"飛ばす力"は魅力がありますよ。

【安田尚憲(24歳/ロッテ)】

 高校時代の安田のバッテイングを見た時、「この年の一番の打者。すごい選手になる可能性を秘めているな」と、その素質に惚れ込みました。同い年の清宮や村上(宗隆)と比較しても、安田が一番いいなと感じていたくらい。ただ、現状は伸び悩んでいて、ポテンシャルを充分に活かしきれていないと感じることがあります。

 その理由のひとつは、これはロッテの左バッター全般に言えることですが、膝を曲げて、脇を締めて小さくスイングしてしまうクセがついている。振り抜くのではなく、バットに当てにいくようなバッテイングがどうしても目立ちます。だから、チームの方針が成長を妨げた面もあると思いますね。もちろん状況に応じてそういう打撃も必要ですが、安田のような選手はやっぱり振ってナンボですよ。

 あと、最近の安田を見ていると、上半身と下半身をうまく使えていない。高校時代は、意外と足を上げていなかったんです。バランスだけで言うなら、当時のほうがよかったようにも感じます。プロのスピード、パワーに対応するために最近は足を上げるようになってきましたが、まだ上半身と下半身のバランスがよくないのに、ある程度はバッティングができている。それは彼の持っている能力。上半身と下半身のバランスが安定してくると、もっと打球は飛んでいくと思います。

 どうしても「当てにいきたい」という気持ちが打席でも出ていて、天才的なセンスを持っているから、当たればとヒットは出る。それでも、ホームランバッターになるなら、ボールに対して体を前に持っていくような打ち方をしていたら絶対にダメ。まだまだインパクトと振りが弱いので、ボールが来たところで"パチン"と振れば、10、15mは飛距離が伸びるはずです。

 ただ、トップを引いて待てるようになったのは、プロで成長した部分だとも思う。もっと上を目指すためには、まず上半身と下半身の「軸足への体重の乗り方」を意識していくこと。あとは、まだまだ肉づきも足りないし、「もっと自分が!」と前に出てくるような性格面もスラッガーには大切。そのあたりを改善できるとだいぶ変わるでしょうね。

【野村佑希(22歳/日本ハム)】

 前のふたりと比べると、バッテイングのバランスが一番いいのは野村ですね。彼のいいところは、バッテイングをすごくシンプルに考えているところ。来るボールに対して、バットをスムーズに出す素直なバッテイングをします。

 彼はトップを深く入れないけど、その分、打ちにいく時にすごくコンパクトにバットを振っている。一見、ホームランバッターには見えないコンパクトな振りなんだけど、振り上げる時のフォロースルーが大きいから、強く振っていないように見えてもボールは飛んでいく。要はインパクトが強いんですよ。本質的な部分では中距離打者に映るけど、体の強さからくるインパクトが印象的。彼はフィジカル面に大きな特徴があると見ています。

 清宮や安田と比べて、バッテイングの形が落ち着いている。型ができているから、今は打率が.2割前半くらいだけど、コツを掴んでくると3割も打てると思います。3人のなかでは現状、最も率を残しそうな選手ですね。大きく変えるところもないかな。

 中軸を任されることが多くてプレッシャーも大きいと思うけど、今のスタイルは崩さないほうがいい。とはいえ、4番を任されたりすると、どうしても大きいのを求められるし、そうすると体の開きが早くなります。

 肩や腰の開きが早くなってくると、小さなズレが生じてバッテイングの調子は落ちてくるし、その焦りや力みでバッティングフォームを崩すリスクがある。まだ若い選手だし、まずはシーズンを通して自分のスタイルで試合に出続けること。それができれば、自然と数字はついてくるんじゃないでしょうか。

(セ・リーグ編:巨人でオコエが元気な理由、阪神と中日の「右の大砲」の現状も語った>>)

【プロフィール】

山粼武司(やまさき・たけし)

1968年11月7日、愛知県生まれ。86年ドラフトで中日から2位指名を受けて入団。96年、39本塁打を放ち初の本塁打王を獲得。02年オフ、平井正史とのトレードでオリックスに移籍。04年に戦力外通告を受けるも現役続行を決意し、新規参入の楽天に移籍。07年には43本塁打、108打点で二冠王に輝く。11年に楽天を戦力外となるも、中日と契約。13年に現役引退後は、解説者など活躍の場を広げている。