FC東京・仲川輝人が取り戻した稲妻のような鋭さ 先制弾&2度のVAR介入ファウル誘発で勝利に貢献
アルビレックス新潟は第9節を終了して10位。今季6シーズンぶりにJ1に復帰したその余勢を駆り、FC東京とのアウェー戦でも攻撃的なサッカーを展開した。ボールへの鋭い反応をベースに、開始直後から一気呵成に攻める、そのサッカーに感心していた矢先だった。
FC東京の守備的MF小泉慶は、自軍のペナルティエリア内で新潟MF伊藤涼太郎のパスをカットすると、仲川輝人にボールを預けた。
Jリーグでも小柄(161センチ)な仲川は、新潟の左SB堀米悠人の強烈なプレッシングを、身のこなし鋭く、くるりと回転するようにかわすと、脇を走る左ウイング、渡邊凌磨にボールを預けた。
ハーフウェイラインを越え、さらにドリブルで長躯前進する渡邊。仲川もその斜め前方を、100メートルを10秒台で走るとされる快足で疾走した。目の覚めるようなカウンターだった。
渡邊からリターンを受けた仲川は冷静だった。動から静へ態勢を切り替えるや、けれんみのないシュートをポスト左隅に、置きにいくように流し込んだのである。
仲川にとっては横浜FC戦、湘南ベルマール戦に続く今季の3点目にあたる。しかし過去の2ゴールより、この新潟戦の先制弾のほうに筆者は高い価値を覚える。復活をアピールするゴールに見える。
アルビレックス新潟戦で今季3得点目を決めた仲川輝人(FC東京)
横浜F・マリノスの一員として、2019年シーズンの得点王兼年間最優秀選手に輝いた仲川は、その後3シーズン、精彩を欠いていた。出場時間は半減。得点も3年間で11ゴールに終わっている。そのタイミングでFC東京に移籍してきた。再び輝くことはできるのか、シーズン前、こちらの目は多少なりとも疑心暗鬼になっていた。
その心配は杞憂に終わった。その躍動は、外国でよく使われる「クラック」という言葉がよく似合う、弾けるようなアクションだ。単に速いだけでなく俊敏だ。電気が走るような、稲妻のような鋭さを備えている。
試合は前半12分、新潟が伊藤のFKで同点に追いつけば、前半34分、ディエゴ・オリヴェイラが強烈なシュートを決め、再びFC東京がリードする展開で推移していた。
【世界にまず存在しないタイプの選手】
仲川が再び見せ場を作ったのは後半の12分だった。FC東京の右SB中村帆高が、対峙する新潟の左ウイング三戸舜介を潰したそのこぼれ球を拾うと、仲川は相手の真ん中をスポードドリブルで切り裂いた。
まずCBの千葉和彦をひらりとかわす。次なる相手、舞行龍ジェームズのタックルを、軽業師のごとくアクロバットに越えようとしたその瞬間だった。足が掛かり、仲川は空中に大きく放り出された。VARのチェックが入るのは当然だった。判定はPKだ。
仲川は先制点のみならず、PKもゲットした。キッカーのディエゴ・オリヴェイラが、これを外したため、スコアは動かなかったが、仲川の存在感はこのワンプレーでさらに上昇した。
ダメ押しは後半20分のプレーだった。自軍ペナルティエリアで、交代で入ったばかりの新潟FW小見洋太がシュートを放つ。ブロックされたそのこぼれ球を拾ったのが仲川だった。自陣エリア内から始まったそのドリブルは、ハーフウェイライン手前まで40メートルも前進した。背後から執拗にマークしながら追いかける小見をブロックしながら、である。
だが仲川は倒れない。小見はやむなく反則行為に出た。判定はイエローカードだったが、レッドカードの可能性ありということでVARが入った。
判定はイエローから変わらなかったが、仲川は舞行龍ジェームズから受けたタックルと、このタックルと合わせて大きな反則を2度にわたり浴び、それぞれVARを介入させたことになる。これまでこうしたケースはどれほどあっただろうか。滅多にない話であることは間違いない。
大活躍の証である。仲川は小見から浴びたこのラフプレーで足を痛め、後半22分という早い時間にベンチに退いたが、その活躍はまさにマン・オブ・ザ・マッチ級に値した。
仲川のプレーには人の目を釘づけにする力がある。速いだけでなく、俊敏でありダイナミックだ。世界にはまず存在しない類の選手。世界のサッカーファンは日本のファン以上に驚くだろう。
日本代表に選ばれたことは1度しかない。しかも東アジアE−1選手権だった。現在30歳。もうひと花、咲かせてほしいものである。