4月29日、今夏、FIBAワールドカップの主開催地であるフィリピン・マニラで予選ラウンドの抽選会が開かれ、2大会連続出場の日本はオーストラリア、ドイツ、フィンランドと同じグループEに入ることとなった。


同じアジアで対戦することも多いオーストラリアに対して、どこまで食いつけるか

 8つのグループでもっとも厳しい組のひとつに入った。地元の沖縄アリーナという「ホーム」の環境でプレーできるとはいえ"アカツキ・ジャパン"は相当な苦戦を覚悟しなければならない。

 抽選の結果を受けてトム・ホーバスヘッドコーチ(HC)も、共催国(もうひとつの開催地がインドネシア・ジャカルタ)の日本がまったく優遇を受けられなかったことに無念さを滲ませた。だが「もう、やるだけ」と気持ちを切り替えて大舞台への準備を進めていくと語った。

 8月25日、世界ランク36位の日本は11位のドイツとの対戦で大会の幕を開ける。同国は2002年大会では銅メダルに輝くなどのヨーロッパの強豪で、今大会の予選ではルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)のスロベニアを下すなど、2勝0敗という高い勝率で勝ち進んできた。レベルの高い昨夏のヨーロッパ選手権でも銅メダルを獲得している。

 日本開催の2006年大会(当時の名称は世界選手権)でもドイツと日本は同組となっており、同じく初戦で当たっている。この時はダーク・ノビツキー(元マーベリックス)に27点を許し、81−70で破れた。

 ドイツはサイズとフィジカルを生かしたスタイルで、ペイント内からの得点が多い。予選ではオフェンスリバウンド(平均13.8本)で全体の1位を記録しており、セカンドチャンスからも点をとってくる。

 ロサンゼルス・レイカーズで八村塁と同僚のPGデニス・シュルーダーや、モリッツとフランツのバグナー兄弟(ともにオーランド・マジック)といったNBA勢も多く、日本は我慢の試合を強いられるだろう。

 前回大会直前、2019年のさいたまスーパーアリーナでの強化試合では86−83でドイツに勝利しているが、渡邊雄太(ブルックリン・ネッツ)に言わせれば「あの時は全然、ドイツはコンディショニング的にも仕上がっていなかった」とし、本来の同国は「まあ強いです」と冷静だ。

【日本近いプレースタイルのフィンランド】

 ドイツ戦から2日後に対戦するのが、今回でW杯2度目の出場となるフィンランド(世界ランク24位)だ。初出場の2014年には22位に沈んだが、代表全体のレベルが上がりつつあり、開催国以外では本大会を一番乗りで決めた。

 フィンランドは身長があり当たりにも強い反面、オフェンスではスペーシングを広く取り、3Pも多用するスタイルで、その意味では日本に近い部分があると言えるかもしれない。昨夏のヨーロッパ選手権では最終的に優勝したスペインとの試合では激戦を繰り広げ、力量の高さを示し、7位という総合順位以上の躍進の印象を与えた。

 この北欧の国とは2021年東京オリンピック前の沖縄での強化試合で敗戦しているが、その際のフィンランドは若手中心だったため、ほとんど参考にはならない。

 中心は2022-23シーズンのNBAモスト・インプルーブド・プレイヤーに選出され成長著しいラウリ・マルカネン(ユタ・ジャズ)だ。213cmと長身ながら外でのプレーも得意な彼とマッチアップするのはジョシュ・ホーキンソン(信州ブレイブウォリアーズ)になるかと思われるが、誰がつくにせよ1人で止めるのは不可能だ。

【アジアの宿敵オーストラリア】

 そして29日に行なわれるグループ最終戦は、世界ランク3位のオーストラリアと当たる。W杯予選等でも比較的頻繁に対戦するため、互いのプレースタイルなどはわかっている。その点についてホーバスHCは「プラスとマイナスがある」と話しており、難しさはある。

 オーストラリアは東京オリンピックで銅メダルを獲得しているが、2024年パリ大会での金メダルを目指し、今大会でもそこへ向けてモチベーション高く挑んでくるだろう。サイズがありインサイドでの強さと層の厚さを生かした組織的なスタイルが特徴ながら、近年では個の力にも秀でる選手も出てきている。

 注目はPGながら203cmの長身を持つジョシュ・ギディー(オクラホマシティ・サンダー)で、NBA1年目の2021-22シーズンには史上最年少でトリプルダブルをマークし、2022-23シーズンはさらにチームの中心としてスーパースターへの階段を着実に上がっている存在となっている。

 そのほか、ジョー・イングルス(ミルウォーキー・バックス)やパティ・ミルズ(ブルックリン・ネッツ)といったベテラン勢や、Bリーグ・島根スサノオマジック所属で東京オリンピックメンバーのニック・ケイといった馴染みの顏もロスター入りの可能性が高い。

 今大会のアジア予選で日本は、オーストラリアに対して完敗と呼べる内容で全敗(0勝2敗)しているが、7月のアジアカップでは、破れはしたものの終盤、富永啓生(ネブラスカ大)が3Pを連続で炸裂させるなど、日本のペースでオフェンスを展開しながら差を一気に詰め、相手の指揮官からも「日本の選手たちは自信を持ってプレーしていた」と賛辞を贈られている。ホーバスHCも「最後まで諦めなかった選手たちを誇りに思う」と話し、世界レベルの相手に彼のスタイルが一定程度、通用することを示せたのは明るい材料だ。

 2018年には、千葉で行なわれた前回のW杯アジア予選で、当時、世界ランク10位だったオーストラリアを破る大アップセットを演出し、翌年の本大会出場につなげた。(日本協会によれば公式戦で日本とオーストラリアが対戦したのは9度で勝利したのはこの試合のみ)互いの戦いかたをよく知る両者がどのような手札を切ってくるかも、楽しみだ。

【世界で結果を残せるか】

 32チームが参加するW杯。1次ラウンドの上位2チームが進出し、2次ラウンドの各組2チームが決勝ラウンドに駒を進める。

 今大会、アジア勢最上位で終わると、来年のパリオリンピックへの切符が手に入る。その意味では得失点差などがそこに絡んでくる可能性もあり、日本はどのような試合展開になろうとも、全力でのプレーが求められる。

 2019年のW杯では0勝5敗、その2年後の東京オリンピックでは0勝3敗と、日本は近年の世界大会で立て続けに全敗を喫している。しかし、大舞台での格上との対戦に萎縮していた2019年から、東京オリンピックではその部分で成長があった。今回はさらに自分たちの実力に近いパフォーマンスが見られるのではないか。

 ホーバスHCは、自軍の選手たちには誰が相手だろうと自分たちのプレーを貫きとおしてほしいとメッセージを送る。

「相手がドンチッチでも『どうしよう』となるんじゃなく、バスケットはバスケット。相手の国も、彼らのユニフォームのうしろの名前も関係ない。うちのバスケットをやりたい。

 この間のWBC(の決勝・アメリカ戦前)での大谷翔平選手のメッセージが最高でした。相手にいい選手が集まっているのはわかっているけどこの試合のなかでは忘れてください、と。そういうメッセージは私もいつも言っています」

 昨年のFIFA男子サッカーW杯では大会前、厳しい組に入ったことで期待感が大きくなかったところから日本はドイツ、スペインという強豪国を撃破し、世界を驚かせた。3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でもアメリカなどメジャーリーグ所属選手が大半を占める国々には勝てないのではという声のなか、最後は劇的な形で通算3度目の優勝を遂げた。

 身長が問われるバスケットボールで日本が世界を相手に勝つのは無理だという声は、つねにあった。が、八村や渡邊といったNBA選手が活躍し、ホーバス氏というオリンピックで結果を出した指揮官が、世界と伍して戦うために速いテンポと3Pを武器としてサイズの不利を反対に利したスタイル構築に務め、チームは徐々に手応えを深めてきた。

 日本はこれまで世界大会で苦杯をなめ続けてきた。今年のバスケットボールW杯では、その壁を破り世界を驚かせるパフォーマンスを日本のファンは待っている。

※所属は2022-23シーズンのもの