マンチェスター・シティ、プレミア天王山を制して事実上の逆転 最大目標のCL初制覇に向けても視界良好
プレミアリーグの首位攻防戦、マンチェスター・シティ(2位)対アーセナル(1位)。両者は勝ち点に置き換えると70(30試合消化)対75(32試合消化)の関係にあった。消化試合数を考えるとほぼ並んだ状態である。
プレミアリーグ6連勝で迎えたマンチェスター・シティに対し、直近の3試合をすべて引き分けているアーセナル。両者の勝ち点はこの3試合だけで6も縮んでいた。
半分諦めかけていたプレミア優勝が突如、現実的な目標に一変したマンチェスター・シティ。比重は直前まで断然、ブックメーカー各社から本命に推されているチャンピオンズリーグ(CL)に置かれていたはずだ。絶対に勝ちたい試合、絶対に負けられない今季のハイライトゲームは、来月に行なわれるCL準決勝レアル・マドリード戦だった。それが突如、このアーセナル戦も負けられない試合となった。
アーセナルはそれ以上に、このマンチェスター・シティ戦が"絶対に負けられない戦い"に値した。狙うべきタイトルはプレミアのみ。本命の立場で臨んだヨーロッパリーグ(EL)では、決勝トーナメント1回戦でスポルティングに足をすくわれ、敗退している。
ELとプレミアを天秤にかけると優勝に重みがあるのはプレミアになるが、CLとプレミアになるとCLに軍配が上がる。マンチェスター・シティの場合はなおさらだ。ほしいのは、直近の11年間で6度獲得したプレミアのタイトルより、毎シーズン、本命視されながらあと一歩のところで手が届かずにいる欧州一の名声だ。
つまりこの一戦、絶対に負けられない立場にあったのはアーセナルだ。マンチェスター・シティには余裕があった。この差が試合の入り具合に少なからず影響したと見る。
アーセナル戦で2ゴール1アシストの活躍を見せたケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)
試合開始直後、パッと見た段階で、すでにマンチェスター・シティの優位は顕著だった。アーセナルはマンチェスター・シティの枠組みに完全にハマっていた。自ら硬くなったのか、マンチェスター・シティがそれを促したのか、いずれにしてもアーセナルは身動きがとれない状態に陥っていた。
【バイエルン戦とは違う戦い方に】
開始7分、その間隙をケヴィン・デ・ブライネが突いた。最後尾から蹴ったジョン・ストーンズのロングフィードが1トップ、アーリング・ハーランドの足もとに収まる。その横を駆け抜けたのがデ・ブライネだった。ハーランドのポストプレーを受けるとドリブルで前進。その進路、コース取りが秀逸だった。真ん中から右に持ち出したシュートも同様で、鮮やかにゴール右に、胸のすくような一撃を決めた。
1トップのハーランドに対し、デ・ブライネの定位置は4−3−3のインサイドハーフだ。4−3−3は4−2−3−1に比べ、1トップとその下との距離が離れている。ハーランドにはボールを収める力がある、間を持たせる力があると言うものの、デ・ブライネ、さらにはもうひとりのインサイドハーフ、イルカイ・ギュンドアンとの距離が離れると、さすがに孤立する。
それを恐れたのか、この日のデ・ブライネは4−3−3のインサイドハーフにしては高く構えた。4−4−「1」−1の「1」、1トップ脇に近かった。他方、両ウイング、ベルナルド・シウバ(右)、ジャック・グリーリッシュ(左)は、ウイングと言うよりサイドハーフ的で、さらに言うなら独特のポジションをとることが多いサイドバックも、いつになくオーソドックスに構えた。
前半26分、標準的な右SBとしてプレーしていたカイル・ウォーカーが、ハーランドにロングフィードを送る。するとデ・ブライネは、それと呼応するように走った。19分前のシーン同様、ハーランドの脇を走ると、その鼻先にパスが出た。シュートは阻止されたが、筆者にはこれがあらかじめ立てられた作戦に見えて仕方なかった。
その2分後にはデ・ブライネのパスにハーランドが反応。真ん中を縦関係にある2人で崩すシーンが続いた。
両ウイングの活躍が目立った1週間前のCL準々決勝バイエルン戦とは、戦い方の様相が少しばかり異なっていた。ハーランド、デ・ブライネを軸とする中央突破型のサッカーにアーセナルは慌てた。
【レアルより攻撃は充実している】
前半のアディショナルタイムにデ・ブライネのFKをストーンズが頭で決め、2−0としたあとの後半9分、ハーランドとデ・ブライネのコンビが再度、火を吹いた。アーセナルMF、マルティン・ウーデゴールのパスをセンターサークル内でハーランドがカット。ドリブルで中央を大股のドリブルで前進すると、左脇を走ったデ・ブライネへのラストパスを送った。3点目の生まれた瞬間である。デ・ブライネはCBロブ・ホールディングの股間を射貫く、まさに必殺のシュートを決め、ダメ押し点とした。
マンチェスター・シティはこの後、アーセナルに1点献上したが、後半アディショナルタイムにハーランドがゴールを決め、4−1のスコアで首位攻防戦をものにした。
両者の勝ち点差は2に接近。マンチェスター・シティの消化試合が2試合少ないことを考えると、両者の関係は逆転したと見るのが妥当だ。
マンチェスター・シティが逆に、1ゲームほどの差をつけリードしたとみていい。しかし同チームにとって、最もほしいタイトルはやはりCLだ。事実上の決勝戦と言われる次戦、レアル・マドリードとの準決勝で、どんなサッカーを見せるか。
「サッカーの攻撃に必要なものは左右と真ん中、計3本の攻撃のルートがバランスよく確立されていることだ」と筆者のインタビューに答えたのは、レアル・マドリード元監督のビセンテ・デル・ボスケだった。現在のマンチェスター・シティは、そうした理想型に近い状態にある。左右のバランスでいうと、左に力点が置かれたレアル・マドリードより攻撃は充実している。
終盤を迎え、マンチェスター・シティの脚色のよさが際立つ欧州の2022−23シーズン。最後に笑うチームはどこなのか、目を凝らしたい。