U−20日本代表にとって最大の壁は初戦のアフリカ最強セネガル U−20W杯の対戦3カ国を分析する
U−20W杯展望(後)
5月20日に開幕するU−20W杯。客観的に見て、日本は非常に困難なグループに入ったと言えるだろう。セネガル、コロンビア、イスラエル。どのチームもとても強く、展開を予想するのは難しい。
なかでも一番の難敵は、まぎれもなく初戦の相手、セネガルになる。
セネガルU−20代表は、今年の2月から3月にかけて行なわれたU−20アフリカネイショズンカップで、圧倒的な強さを見せて優勝した。6試合すべてに勝利し、14ゴール、無失点。この大会には予選を勝ち抜いた12カ国が参加したが、最多得点記録と最少失点記録をマークしている。つまり、すべてのポジションが強力なのだ。
この大会の個人賞も、すべてセネガルの選手が独占した。得点王は5ゴールをマークしたパペ・デンバ・ディオップ。ベルギーのズルテ・ワレへムでプレーをする。無失点でベストGKとなったのは、ランディング・バジ。身体能力が高く、どんなボールも止めてしまう。
そして大会MVPに輝いたラミン・カマラはフランスのメスでプレーするファンタジスタだ。昨年1月のアフリカネイションズカップでA代表デビューも果たし、すでに3ゴールを決めており、まさに次代のセネガルを背負う逸材だ。さらにはベスト監督賞までもセネガルのマリック・ダフ監督が受賞している。大会ベストイレブンには4人のセネガルの選手が選ばれている。
この勝利を受けて、今、セネガルではこのU−20代表チームが大人気だという。選手層も厚く、ダフ監督は23人の代表を選ぶのに34人の選手を招集し、U−20W杯に向けてベストチームを作ろうとしている。ずばり、目標は優勝だ。
5月20日開幕のU−20W杯で活躍が期待される松木玖生 photo by AFLO
南米で3強に入ったコロンビアも手強いチームだ。特に攻撃陣はスピードがありゴールへの執着が強い。
1月のU−20南米選手権には開催国枠で出場したが、準決勝に進出し、多くの選手が2ゴール以上を挙げた。チームの得点王はオスカル・コルテス(3得点)。まだ無名だが、攻撃的な中盤の選手で、イタリアのトリノが目をつけている。
【プレミア所属選手が参加するかはまだ不明】
DFの中心はケビン・マンティージャ、エディエル・オカンポ。MFはオスカル・コルテスのほか、イングランドのワトフォードでプレーするヤセル・アスプリージャ、キャプテンのグスタボ・プエルタからなる。特筆すべきはFWのジョン・ハデル・デュランだろう。1月にイングランドのアストンヴィラに移籍が決まったデュランは、先日のキリンカップでA代表デビューを果たし、日本代表を相手にゴールを決めている。コロンビアは彼の得点力に大いに期待している。
チームを率いるエクトル・カルデナス監督はこうした若い才能を非常にうまく組織している。現在43歳だが、すでにU−17代表監督の経験を持ち、昨年は暫定でA代表を率いた経験もある。将来のコロンビア代表監督の呼び声が高い。
このチームのもうひとつの特徴は、非常にモチベーションが高いことだ。コロンビアは先のカタールW杯に出場できなかった。それだけに国中がこの若いチームに熱中している。また、ここでうまくいけば、ふがいないA代表に取って代わることができると、選手たちも気合十分だ。
日本にとってひとつの朗報は、ジョン・デュランとヤセル・アスプリージャの出場に、彼らのクラブチームがいまだOKしていないことだ。通常、各国のサッカー協会が選手を招集した場合、クラブチームは代表に選手を提供する義務がある。だが、今回は大会自体が直前までどうなるか決まらなかったため、FIFAはこれにある一文を付け加えた。
「ただし、2023年から2030年に行なわれるU−20W杯はこのルールから除外される」
たとえばプレミアリーグはU−20W杯開幕後の5月29日まであり、現在アストンヴィラは、ヨーロッパリーグ出場圏内に入るかどうかの瀬戸際にある。アストンヴィラが許さなければコロンビアのエースはU−20W杯には出られないのだ。
3戦目の対戦国はイスラエル。3つのチームのなかでは一番与しやすいかもしれないが、軽んじたら痛い目を見るだろう。何せ彼らは、U−20W杯の予選を兼ねたU−19ヨーロッパ選手権で、フランスとイタリアを下して決勝に勝ち進んでいるのだ。
【勝利が必要なイスラエル戦】
決勝ではイングランドに勝つことができなかったが、かなり善戦し、イギリスの新聞は「もし試合が45分で終了だったら、我々は負けていたかもしれない」と評していた。イスラエルサッカー史上、最も高みに上った成功体験は、彼らに自信を与え、より遠くへ行こうとしている。
アマチュアの選手が多いチームの一番のスターは、ロシア系の攻撃的MF、オスカル・グローフだろう。彼は今年1月に、700万ユーロ(約10億円)の移籍金でマッカビ・テルアビブからオーストリアのレッドブル・ザルツブルグに移籍している。4年半という契約期間の長さが、その期待の高さを物語っている。ちなみにすでにA代表でも4試合をこなし、ゴールも決めている。多くのパスを前線に送りゴールチャンスを作ることができる。性格は真面目でチームの大黒柱。「イスラエルの未来」とも言われている。
ところでイスラエルでは、心身に問題がない限り、18歳から男女全員が兵役につく。男子はその期間が3年とされている。つまり、今回のW杯に出場する選手たちはまさにその年代というわけだ。ただ他の若者たちのように、彼らは銃を持ったり、何かの任務に就いたりするわけではない。彼らの仕事は軍の代表チームでプレーすることだ。別な見方をすると、他の国のU−20代表の選手たちよりも、ともにプレーする機会が確実に多いということになる。
日本が彼らに勝つには、経験の豊かさを活かすことだろう。U−19ヨーロッパ選手権でイングランドがどのようにして彼らを破ったかを研究することも大事になる。
日本が難敵ぞろいのグループに入ったのは確かだ。しかし、決勝トーナメントへの道はそれほど厳しくはないかもしれない。決勝トーナメントには、各グループ1位、2位だけでなく、3位のうちの上位4チームも進むことができる。つまり、イスラエルに確実に勝てば、残りは2引き分け、もしかしたら1敗1引き分けでも可能性は十分にある。初戦は強敵セネガルだが、たとえ黒星スタートとなっても、立て直すことができるだろう。
日本が決勝トーナメントに進む場合を考えると、もしかしたら2位通過が一番いいかもしれない。第3戦を行なったメンドーサから動かないですむし、何より対戦相手がグループAの2位。アルゼンチン以外、強敵のいないグループの2位である。一方、3位になると、対戦相手はアルゼンチンかアメリカの可能性が出てくるので、これは避けたほうがいい。予選では敗退し、開催国枠で出場することになったアルゼンチンだが、やはり開催国であり、戦いにくいこと必至だろう。