U−20W杯展望(前)

 当初、インドネシアで行なわれる予定だったU−20W杯は、急転直下、5月20日からアルゼンチンで開催されることになった。

 当初は3月31日にインドネシアで予定されていたグループリーグの組み合わせ抽選会も大幅に遅れ、4月21日になってやっと行なわれた。つまり参加24カ国は、開幕まで1カ月を切ったところで、やっと対戦相手を知ることができたわけだ。

 通常ならば抽選会は、開催国に各国チームの監督など代表者を集め、華々しく行なわれるものだが、今回はそんな時間もなく、チューリッヒのFIFA本部から配信する形で行なわれた。会場には1995年のカタール・ワールドユースで優勝したU−20アルゼンチン代表のキャプテン、フアン・パブロ・ソリンと、元フランス代表のダビド・トレゼゲが招かれ、抽選を行なった。

 組み合わせの結果は以下のとおり。

グループA アルゼンチン、ウズベキスタン、グアテマラ、ニュージーランド
グループB アメリカ、エクアドル、フィジー、スロバキア
グループC セネガル、日本、イスラエル、コロンビア
グループD イタリア、ブラジル、ナイジェリア、ドニミカ共和国
グループE ウルグアイ、イラク、イングランド、チュニジア
グループF フランス、韓国、ガンビア、ホンジュラス


アルゼンチンで開催されるU−20W杯に出場する日本代表(写真はU−20アジアカップ準々決勝)photo by AP/AFLO

 それにしても今回の組み合わせは、実にうまくできていると言うしかない。

 そもそも、今大会のアルゼンチンへの開催地変更をもたらしたのは、イスラエルの存在だった。パレスチナとの紛争を抱えるイスラエルの参加に対して、イスラム教徒が多数派を占めるインドネシアで激しい反対運動が巻き起こった。さらに、イラクやチュニジアなどのイスラム諸国が、大会でイスラエルと対戦することへの拒否を表明。そして組み合わせ抽選会が行なわれる予定だったバリ島の知事が、イスラエルのチームおよび関係者が抽選会に参加することを拒否した――。追い込まれたFIFAは、開幕まで2カ月を切った時点での開催地変更を決断せざるを得なくなったのだ。

【日本が試合を行なう都市は?】

 そのイスラエルは、日本と同じグループCに入ったわけだが、それは彼らと対戦することを拒否したイラクとチュニジアとは別のグループであり、しかも突破するのが最も難しいグループのひとつだ。勝ち上がるのはかなり難しいし、たとえ勝ち上がっても、ラウンド16ではこの2カ国の入ったグループEの突破国とは、どう転んでも対戦しないことになっている。

 また、開催国アルゼンチンが入ったグループAは"一強状態"と言ってもいいだろう。ウズベキスタン、グアテマラ、ニュージーランド。アルゼンチンは今回、予選落ちしていたにもかかわらず、開催国枠でインドネシアに替わって出場できることになった。それを考えると、強豪と当たっていたら早々に敗退する可能性もある。大会を盛り上げるためにも、アルゼンチンは長く残らなければならないのだ。

 つまり、偶然以上の何かがそこに働いたと思われてもおかしくない。そんな抽選だった。

 同時に、日本のグループステージのスケジュールは以下のように決まった。

5月21日 セネガル戦(ラ・プラタ)
5月24日 コロンビア戦(ラ・プラタ)
5月27日 イスラエル戦(メンドーサ)

 日本がプレーするのは、最初の2試合が首都ブエノスアイレス郊外の町ラ・プラタ。イスラエル戦がアンデス山脈を望む町、メンドーサとなった。

 今回の大会は、ブエノスアイレスやアルゼンチン第三の都市、ロサリオなどでは行なわれない。なぜならアルゼンチンはいまだリーグ戦の真っ最中で、「ボンボネーラ」や「エル・モニュメンタル」といったサッカーファンにおなじみのスタジアムは、クラブチームが使っているからだ。今回は、W杯の開催国で、同時にリーグも進行している初めてのケースとなる。ちなみに大会ロゴやマスコット、テーマソングも存在しない(インドネシアではすでに全部、準備できていたのだが......)。

 また、試合が行なわれるスタジアムは、大会中、本来の名称ではなく、町の名前で呼ばれることになる。たとえばラ・プラタのスタジアムの正式名称は「ウニコ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナ」だが、単に「ラ・プラタ・スタジアム」となる。

 これにはある政治的な理由がある。日本が3戦目を行なう「メンドーサ・スタジアム」の正式名称は「マルヴィナス・アルヘンティノス」という。マルヴィナスとはアルゼンチン名で、英語圏で言うところのフォークランド諸島のことを指す。

 フォークランド諸島を巡っては、1982年にイギリスとアルゼンチンが領有権を争った。それを「アルゼンチンのマルヴィナス」と呼ぶのは問題があるだろう。たとえば上海のスタジアムに「中国釣魚島(日本の尖閣諸島)スタジアム」という名前とつけるのと同じことだ。そこでFIFAは問題を避けるために、すべてのスタジアムを町の名前で呼ぶことにしたのだという。

 異例ずくめの大会となったU−20W杯。5月20日の開幕までの短い期間に、対戦相手のチームをどれだけ研究し、それに合った練習ができるか。勝負はその点でも大きく変わってくるだろう。続いて、日本が対戦するセネガル、コロンビア、イスラエルの戦力を分析することにしよう。
(つづく)