【今季3冠の可能性が出てきたマンチェスター・シティ】

「水曜日はファイナルだ。今季のイングランドのベストチームと対戦する極めて重要な一戦となる」

 マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督は、先週末のFAカップ準決勝後の記者会見でそう話した。彼がここで口にした「ファイナル」とは、シェフィールド・ユナイテッドを下して駒を進めたFAカップ決勝のことでは、もちろんない。そう、今季のプレミアリーグでもっとも重要な大一番、シティ対アーセナル戦のことを示しているのだ。


現在リーグ32ゴールのハーランド(左)とアーセナルのキャプテン・ウーデゴール(右)

「(アーセナルは)我々に5ポイントの差をつけている」

 現在52歳の指揮官はそう続けたが、優位に立っているのは、むしろシティと言える。消化試合がふたつ少なく、得失点差は7も多い。そして何より、この頂上決戦をホームで迎えられるのだ。

「試合当日は、マンチェスターの街が青一色になってくれることを願っている。キックオフから試合終了まで、大きなノイズでサポートしてほしい」と指揮官はマンチェスター・ユナイテッドのファンにも、応援を呼びかけた。「なぜなら、彼ら(アーセナル)を止めることは本当に困難だからだ。たとえここ3試合が引き分けに終わっているとしても」

 ここにきてブレーキがかかっている首位チームとは対照的に、シティはリーグ戦で目下6連勝。しかもその間にチャンピオンズリーグ(CL)でライプツィヒとバイエルン、FAカップでブリストル・シティ、バーンリー、シェフィールド・ユナイテッドに、すべて完勝を収めている。つまり今季のシティは、1998−99シーズンにユナイテッドがイングランド・フットボール史上唯一達成した3冠の可能性を残しているわけだ。

 CL準決勝の相手がレアル・マドリード、FAカップ決勝の相手が同じ街の宿敵ユナイテッド、そしてリーグ戦では少なくとも数字の上では追う立場にあることから、「(3冠など)まだまだ先の話だ」とグアルディオラ監督は逸(はや)る報道陣を煙に巻いた。また複数のトロフィーを狙うことによって、逆に大事なものを手にできない可能性も否定できない──4冠まで目前に迫りながら結局、二つの国内カップの優勝に終わった昨季のリバプールのように。

【マンチェスター・シティに堅守が際立つ数字】

 ただし、ウェンブリー・スタジアムで披露した直近のパフォーマンスを見るかぎり、3つのタイトルを視界に捉えて然るべき、高いクオリティーと厚い選手層があるように思えた。

 この日は3枚とも4枚とも受け取れる最終ラインを敷き、本来レフトバックのセルヒオ・ゴメスが中央に入る時間が多く、やや慌てた開始直後を除き、ほぼ敵陣でポゼッションを維持。この22歳の新戦力に加え、生え抜きの3人組、22歳のフィル・フォーデン、20歳のコール・パーマー、18歳のリコ・ルイスも快勝に貢献している。

 おそらくこのうちフォーデン以外、アーセナル戦で出番はなさそうだが、今季リーグ戦ですでに32ゴールを記録して得点王をほぼ確定させているアーリング・ハーランドも22歳だ。精密機械のようにパスを回し続け、随所で若い力が躍動し、抜群の決定力を備えるアタッカーを擁するシティに死角はないように見えた。

 おそらく水曜日(現地時間)は、バイエルンとのCL準々決勝のように、中盤によりタフな選手(ロドリとジョン・ストーンズが有力か)を置き、まずは失点を避けようとするのではないか。実際、今季は国内外で堅守が際立っている──1試合平均失点はリーグ戦で0.93、チャンピオンズリーグで0.4、FAカップではチェルシーやアーセナルと対戦してきたというのに驚愕のゼロ。それはハーランドという絶対的なストライカーを迎えたことによる相乗効果かもしれないし、監督が言うように「誰もがよりチームのコンセプトを理解している」からかもしれない。

【アーセナルからうかがえる重圧】

 そんな水色のスーパーカーに追い上げられているアーセナルが、足踏みを強いられている大きな要因をふたつ挙げるなら、守備の要の離脱とプレッシャーだろう。

 3月16日にスポルティングと対戦したヨーロッパリーグ・ラウンド16第2戦で、冨安健洋とウィリアム・サリバという最終ラインの重要戦力がふたり同時に負傷離脱。前者はシーズン中の復帰が絶望となり、後者もおそらくシティ戦には間に合わないだろう。

 彼らが不在の過去5試合で、センターバック(CB)のガブリエウ・マガリャンイスのパートナーを務めたロブ・ホールディングは、スピードに不安があるため、最終ラインを下げざるを得ない状況に陥っている。

 それによりプレスの網が乱れ、相手ボール時のポジショニングが曖昧になってしまうシーンが散見される。元はCBながらライトバックで起用され続けているベン・ホワイトを中央に戻せば、右の人材がいなくなる。ミケル・アルテタ監督は恩師グアルディオラ監督との共通点が多いものの、大きな違いはほぼ一貫して4バックを用いてきたところにある。もし3バックも試してきていれば、現状にもっとうまく対処できたかもしれない。

 そしてなんと言っても、今のアーセナルからうかがえるのは、のしかかかる重圧だ。2003−04シーズン以来のリーグ優勝へ向けて首位を快走してきたが、今季のプレミアリーグで平均年齢のもっとも若いスクアッドには経験が不足している。

 4月16日にロンドンスタジアムで行なわれたウェストハム戦では、たとえば24歳の主将マルティン・ウーデゴールは、前半と後半で別人のようだった。序盤にチームの2点目を颯爽と決めたものの、後半にはなんでもないパスを何度かミス。アルテタ監督の掲げるスタイルはリズムが肝心で、そうした不用意なエラーはチームのテンポを損ない、流れを手放すことに繋がってしまう。

 また直近のサウサンプトン戦では、プレミアリーグ史上2番目に早い27秒で失点。精神的に安定したチームなら、まず起こり得ないシーンだったはずだ。

【アルテタ監督はチームを信じている】

「大きなミスをして先制され、またミスをして2失点。(降格の危機に瀕する)相手に奮闘を続け、選手たちは自分たちに問いかけていた」と試合後の会見でアルテタ監督は語った。「そして最後にマジックな瞬間が起きて追いつくことができた(最終盤の2分間にウーデゴールとブカヨ・サカが決めて3−3に)。責任感のある選手たちを、私はこれ以上ないほどに愛している」。

 自身の経験も浅い41歳の指揮官はそれでも、選手とチームを信じているようだ。

 イングランド史上24年ぶりの3冠を狙うシティか、クラブ史上19年ぶりのリーグ優勝へ逃げ切りを図るアーセナルか──。今季プレミアリーグの"決勝戦"は、日本時間4月27日早朝4時にキックオフを迎える。