若き名将の解任、メディアに内情暴露、チームメイトを殴打…わずか1カ月で崩壊したバイエルンに何があった?
バイエルンの凋落ぶりが止まらない──。
3月下旬のインターナショナルウィーク中に、バイエルンは2021-22シーズンよりチームを率いたユリアン・ナーゲルスマン前監督を解任。そして、昨年9月にチェルシーの監督を解任されて無職だったトーマス・トゥヘルを新監督に迎えた。
しかし、4月にリーグ戦が再開してからはブンデスリーガ、ドイツカップ、CL合わせて2勝2分3敗。トゥヘル新監督就任時点では「3冠」の可能性があったのに、あっという間にドイツカップとCLを失い、残るリーグ戦においても、4月22日にはマインツに敗れてドルトムントに首位を明け渡した。
トゥヘル監督の招聘は吉と出るか凶と出るか...
早いシーズンなら、もう優勝が決まっていてもおかしくない第29節での陥落......。
たとえば、2012-13シーズンでは28節に当時史上最速記録での優勝を成し遂げ、2013-14シーズンは前年を上回る27節、そして昨季も31節で優勝を決めている。ドルトムントとの勝ち点差はまだ1に過ぎないが、この時期の首位陥落は決して楽観視できないものだ。
とはいえ、抜きん出て強いチームがいなかったのが今季のブンデスリーガでもある。首位に立ったドルトムントの勝ち点は60で、昨季第29節時点でのバイエルンは勝ち点69。2008年からブンデスリーガでプレーする長谷部誠は「パッとしないシーズン」だと今季を見ている。
「僕が言うのもなんですけど、今年のドルトムントもあの頃(2010年から2012年に2連覇した時期)とは違うし、今シーズンはどのチームもあんまり......うーん、トップパフォーマンスをコンスタントには出せてないかな。
バイエルンも、ドルトムントも、ライプツィヒも......自分たち(フランクフルト)もですけど、そういう雰囲気は感じます。でもブンデスリーガ全体としては、今の優勝争いは面白いんじゃないですか?」
独走チームが存在せず、ドルトムントとバイエルンでもつれる混戦を楽しむ......というのは、たしかにひとつの見方だろう。
【コーチ解任の理由は監督との軋轢?】『ビルト紙』によれば、現在クラブ内で批判にさらされているのはオリバー・カーンCEOだという。選手やコーチングスタッフに関する人事権はカーンが握っていたため、まずはカーンの責任を問う声が大きく、世間の声は「周囲が考えているより早期の退場もあり得る」とのこと。
さらに同紙が指摘するのは、バイエルンの要職を歴任して現在名誉会長であるウリ・ヘーネスとの関係が悪くバックアップを得られていないことも、カーンの弱点らしい。一方、現役時代のカーンのライバル、イェンス・レーマンは現在のカーンに好意的だという。
「カーンは今の役割をよくやっていると思う。批判されているのか知らないけど、(ナーゲルスマン)監督に関しては不運だった。人生経験のほとんどない若い監督を雇うのはリスキーだし、監督交代したものの基本的には似たようなものだ」(レーマン)
とはいえ、不運で片づけるには多くのことが起きすぎた。
そもそも昨シーズン終盤、ナーゲルスマン監督のガールフレンドがビルト紙の記者だと明らかになったことで、「記者とつながった監督への不信感がロッカールームにはある」と噂された。当該ビルト紙記者はサッカー担当から地域担当に移ったそうだが、それでも不信感がおさまらなかったのは当然かもしれない。
さらに暗雲が立ち込め始めたのは、ワールドカップ終了後。マヌエル・ノイアーがプライベートで興じたスキーで今季絶望の大ケガを負い、さらにその守護神の離脱中にトニ・タパロビッチGKコーチを解任したことだ。
タパロビッチはノイアーが前所属のシャルケ時代から信頼を置くコーチで、プライベートもともにする、いわば親友のような間柄。ただ、ナーゲルスマン監督とは軋轢があったとされている。
決定的だったのは、モナコにレンタル移籍中のアレクサンダー・ニューベルが「タパロビッチとは意思疎通を図れていない」と発言したこと。それが解任のきっかけにもなり、ハサン・サリハミジッチSD(スポーツディレクター)はこの解任に際し「仕事の方向性に相違があった」と理由づけている。
【セネガルの英雄が一転して...】ただ、これにノイアーは怒った。そして、クラブの許可を得ずにメディア2紙からの独占インタビューを受けた。
ひとつは『南ドイツ新聞』。バイエルン州を中心に購読されている新聞で、日本で言えば朝日新聞に近い高級紙。もうひとつは『The Athletic』という英語メディア。ノイアーはインタビューで「僕にとって人生でもっとも残酷な仕打ちだった」という嘆きと怒りをぶちまけ、クラブやナーゲルスマンとの確執を自ら広めた。
ノイアーには1カ月分の月給に相当する最大160万ユーロ(約2億4000円)もの罰金が課される可能性があるという。だが、それもいとわないほどの怒りだったのだろう。
この騒動に対し、シャルケ時代に若きノイアーを起用したフェリックス・マガト(現ヘルタ・ベルリン監督)は「タパロビッチを増長させたクラブにも責任がある」とし「彼(ノイアー)が望むならバイエルンは彼を追い出すことはできないだろう」と話した。
タパロビッチを解任した時点で、その次にはノイアーをメンバーから外し、風通しをよくしたいという意図があるのは、サリハミジッチが否定していても明白だ。だが、実際にはクラブの成績不振もあるため、ノイアーがケガから回復さえすれば復帰するのは間違いないだろう。
3月下旬にナーゲルスマンが解任されたが、ヨシュア・キミッヒやレオン・ゴレツカといった中堅の主力選手はナーゲルスマンを支持していたとも言われている。
そして、トゥヘル監督が就任してから4試合目となった4月13日、チャンピオンズリーグ準々決勝のマンチェスター・シティ戦後のロッカールームで事件は起きた。セネガル代表FWのサディオ・マネがレロイ・サネを平手打ちしたのだ。
もともとマネはナーゲルスマン監督と折り合いが悪く、昨年11月の負傷復帰後も試合出場時間が短いことに苛立ちを隠さなかった。トゥヘル監督の下でも状況は変わらず、シティ戦でも途中出場となったマネは先発のサネと連係がうまくいかず、ロッカールームでの口論から殴打となったようだ。
人格者として知られるマネの側面が露呈し、バイエルンは解雇も検討したという。だが、殴打されたサネからの申し出により、50万ユーロ(約7300万円)の罰金のみが課された。
今季のバイエルンは、いいことも悪いことも含めて話題に事欠かない。最後は残されたリーグ戦のタイトルを取りきり、シーズンの締めくくりは笑えるだろうか。
ただ、いっそのこと無冠で終わり、クラブ内部のおごった体質やうみを出しきることも必要なのかもしれない。