「2−0にされても、負ける気はしなかったですね。相手は(激しい動きが時間の経過により)落ちてくると思っていたので、自分たちが諦めなかったら......」

 横浜F・マリノスを牽引する水沼宏太はそう言って、ヴィッセル神戸に2−3と逆転勝利を飾った首位攻防戦を振り返っている。

「前半、2点を決められたあとのみんなの表情がよかったです。『1点ずつ取り返そう!』って、その振る舞いがよくて。(それでなかったら)2−0から一気にいかれる可能性もあったはずです」

 土俵際で踏ん張れるのが、横浜FMが王者であり、強い理由だった。では、確実に強くなっている神戸はそこに迫れないのか?


首位ヴィッセル神戸に逆転勝利を飾り、喜ぶ横浜F・マリノスのイレブン

 4月22日、横浜FMはJ1リーグ首位を走る神戸の敵地に乗り込んでいる。昨シーズン最終節に勝利を飾り、優勝を決めた場所で、験がいいはずだった。だが、序盤にペースを握ったのは神戸だった。

 神戸は前線からの激しいプレスで、横浜FMがこだわるビルドアップを分断した。セカンドへの反応も早く、特に中盤の攻防で勝っていた。アンドレス・イニエスタがベンチに座って(イニエスタにプレスの運動量は求められない)、戦術が明確になった。

 各ポジションの選手の力量で相手を上回り、酒井高徳、山口蛍、齊藤未月、武藤嘉紀、大迫勇也の5人は「個人」が戦術に通じていた。前からボールを狩りに行き、高い位置で回収、効率的なカウンター攻撃を展開した。常に高い位置をとることで、前輪駆動の陣容を生かす格好だ。

 その強度は横浜FMをたじろがせるものがあった。19分にはミスを誘発。単なるロングボールだったが、山根陸がバックパスすると、飛び出していたGKと合わず、ゴールへ転がり、走り込んだ汰木康也が押し込んだ。28分にも、ロングボールのセカンドを拾うと、展開した左サイドから汰木のクロスに、相手サイドバックとセンターバックに入り込んだ大迫が豪快なヘッドでネットに突き刺した。

 大迫は「違いを示した」と言えるだろう。センターバックと駆け引きするだけで、ストレスを与えられる。味方の何気ないロングボールも有効にできるし、後半に見せたフリックでの決定機アシストも秀逸だった。現在も日本人で屈指のストライカーだ。

【交代カードに横浜FM の強み】

 戦術の一本化で強くなった神戸は、元日本代表選手たちが躍動した。強さの理由は歴然としており、彼らが調子を崩さない限り、上位を狙える。

 ただ、吉田孝行監督が話していた「王者の壁」を越えられなかった。

「前半30分は、うちの試合でした。その後も、何か悪かったわけではないですが、試合巧者というか、もっとアグレッシブに戦うべきでした。個人的には(前半31分に)イエローをもらってしまい、今日の審判だったら、相手を潰すともう一枚もらう、というのが怖くて、強気にいけなくなってしまって......」(神戸/齊藤)

 横浜FMは、徐々に神戸のライン間を襲撃できるようになった。

 33分、水沼がライン間に入って、左の永戸勝也からのパスを受ける。瞬間的に神戸のセンターバックが割れていた。そこに入ったアンデルソン・ロペスが足元にボールを呼び込み、左足のダイレクトシュートをあっさり流し込んだ。

 そして前半アディショナルタイムにも、センターバックの畠中槙之輔が敵陣まで攻め上がると、そのパスをゴールライン付近まで深みをとった水沼が受け、マイナスのクロス。これを渡辺皓太が右足のコントロールショットでネットを揺らした。

 横浜FMは右サイドの水沼を中心にプレーを動かしていた。人とボールの動きや流れが速く、流動的で、規則性もあった。たとえば、マルコス・ジュニオールがサイドに張り出せば、サイドの水沼は中へ入り、そこにサイドバックからボールが入る。人が湧き出すコンビネーションを作り出せていた。

 そして後半途中、横浜FMはケヴィン・マスカット監督が動いた。神戸が序盤から激しいプレスをかけていたことで体力を消耗していたのを見逃さなかった。西村拓真、ヤン・マテウスを投入。これだけのカードを使えるのが、王者の強みか。終盤、マテウスは左サイドでの攻防に勝ってボールを運び、クロスをアンデルソン・ロペスに合わせると、豪快なヘディングの逆転弾が決まった。

「90分間、高い強度で戦うことができました。アグレッシブにボールを握って、セカンドを拾う姿勢もすばらしかった。波がないプレーだった」(横浜FM/マスカット監督)

 横浜FMは総合力で優った。

 もっとも、神戸は嘆くことはない。後半の頭に大迫のゴールがオフサイドで取り消されたが、勝っていてもおかしくないゲームでもあった。

「自分たちがやっていることは間違っていないので。継続するしかないと思っています。ずっと勝つことは難しいし、ブレずにやる」(神戸/吉田監督)

 ただし、今後は上位チームとの試合が続き、真価を問われるだろう。率直に言って、バックラインは盤石とは言えない。

 一方、横浜FMは王者の底力を見せた。単刀直入に言って、GKは今も移籍した高丘陽平の穴が埋まっておらず、そこでの精度の低さが失点の危うさにつながっている。ただ、チームデザインは明確で、立ち戻れる場所があるのは、追い詰められた試合で反転攻勢する手がかりだろう。

「続けることで、もっとよくなる手応えはありますよ!」

 水沼の言葉である。まだシーズンは3分の1も消化していない。