フィギュアスケート世界国別対抗戦で感じた「健全な熱気」 どの選手にも拍手と声援を送るファンの姿と盛り上がりの要因
4月15日、東京体育館で開催されたフィギュアスケートの世界国別対抗戦。長いシーズンの大トリを飾る大会の雰囲気は和やかで華やかだった。各国の選手がブースをいろんなグッズで飾り、応援合戦を繰り広げた。
そして会場全体は、"健全な熱気"を発していた。
世界国別対抗戦で盛り上がる日本選手のブース
男子シングルのフリースケーティング1番目に登場したステファン・ゴゴレフ(カナダ)は、ほとんどの座席が埋まった会場から手拍子を一身に受けている。
「さあ、頑張って!」
そんな声に押されるように、ゴゴレフは最後まで滑りきっている。
ひいきの国や選手を推すだけではない。分け隔てなく、演技そのものを讃美し、失敗を腐(くさ)すことなく、拍手と声援を送る。その会場は、各国選手の演技に神気を与えるのだろう。
2番滑走の佐藤駿も会場の熱気に力を引き出されるようだった。
ケガで辞退した宇野昌磨の代替出場になった佐藤は調整が難しく、ショートプログラム(SP)は悔しい結果に終わっていた。挽回したい思いが、熱気を触媒に弾けた。
さらに、熱はうねる。
4番手のキーガン・メッシング(カナダ)は今季限りで引退というのもあったろうが、スパニッシュギターの抒情的な旋律に乗った。
冒頭の4回転トーループ+2回転トーループを成功すると、声援を受けるたび、力が湧いてくるように技を決めた。最後はスタンディングオベーションを受け、次の順番のマッテオ・リッツォ(イタリア)と抱擁を交わし、次を託すように去った。
そしてリッツォは、メッシングを上回る演技をやってのけた。好敵手というのか、それぞれの選手がお互いに刺激し合う。
その後もジェイソン・ブラウン(アメリカ)、ケヴィン・エイモズ(フランス)、チャ・ジュンファン(韓国)が感化されたように高得点を叩き出していった。
<国境や立場を超え、フェアな精神で応援する>
それはフィギュアスケート独自の文化だろう。健全な熱気が、芸術性を高めるのだ。●サッカーではあり得ない?!
たとえば、この現象はサッカーではあり得ない。選手の失敗に毒づき、監督の采配を非難し、対戦相手にはブーイングを飛ばす。負けたら批判の嵐で、試合後には選手や関係者を脅すように取り囲む。かなり不穏だ。
サッカーの応援構造は、スペインでは「Morbo」と言われる。「不健全さが放つ魅力や熱」という意味である。
日常生活は不条理に対する怒り、憎しみ、不満にあふれているだけに、サッカーファンは自分の立場を選手たちに重ね合わせ、さまざまな感情をぶつけながら、マイナスを解消している。それがサッカーの成り立ちだけに、ひとつの正義ではあるのだが......。
健全な熱気は、仁愛、信頼、勇気、誠実さという健やかさで気持ちを震わせる。
コロナ禍がひとつの終結を迎えるなか、ファンが会場に戻って、声援も許されるようになった。本来の世界が戻ってきて、ファンが空気をつくり出す熱気の重要性があらためて明らかになったと言える。無観客試合とは雲泥の差だ。
世界国別対抗戦が祝祭のようになった理由は、もうひとつある。
2022−2023シーズン、日本のフィギュア界は隆盛を極めている。男子シングルでは宇野が世界選手権を連覇。グランプリ(GP)ファイナルには、優勝を飾った宇野だけでなく、佐藤、山本草太、三浦佳生の4人が出場した。
女子シングルでは坂本花織が同じく世界選手権を連覇。GPファイナルでは三原舞依が優勝し、渡辺倫果も4位と表彰台に迫った。
そして大きな変化としては、ペア、アイスダンス競技が脚光を浴びるようになった点が挙げられる。
ペアでは「りくりゅう」と呼ばれる三浦璃来/木原龍一がGPファイナル、世界選手権で優勝を飾り、ふたりの愛される雰囲気も含めて人気を呼んでいる。
また、「かなだい」こと村元哉中/高橋大輔も、世界選手権でアイスダンス史上、日本勢最高の11位になって躍進し、新しい可能性を示した。
とりわけ、高橋はあらためて「伝説」と語り継がれる存在になった。シングル時代、2007年の世界選手権と同じ『オペラ座の怪人』を、16年ぶりに同じ東京体育館で滑っている。
出場を辞退してきた埼玉での2度の世界選手権(2014年、2019年)に、アイスダンサーとして出場した。長年かけて熟成してきた日本のフィギュアスケート人気を、別種目で結びつける象徴的存在だ。
カップル競技の充実で、国内のフィギュア全体の熱気は確実に"分厚くなった"と言える。
来シーズンがすでに待ち遠しいが、しばらくはシーズンの余韻を楽しむように、各地でアイスショーが開催される。競技とはまた違ったフィギュアスケートを楽しめるだろう。
そこに生まれる熱気は、日本スポーツ界の誇りだ。
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