CL準決勝はレアルのヴィニシウス対マンチェスター・シティの右SBに注目 ミラノ勢の対決はポルトガル代表23歳の出来がカギを握る
イタリア勢のチャンピオンズリーグ(CL)決勝進出は、2016−17シーズンのユベントス以来7シーズンぶり。ミラノ勢(ミランとインテル)の決勝進出は2009−10シーズンのインテル以来13シーズンぶり。ミラノ勢が決勝進出をかけて準決勝で対戦するのは2002−03シーズン以来20シーズンぶりとなる。
イタリアのセリエは1990年代、欧州サッカーをリードする最強のリーグだった。その中心地であるミラノは、欧州サッカーの中心として繁栄していた。両クラブがホームとして使用するジュゼッペ・メアッツァ(サンシーロ)は、まさにサッカーの殿堂だった。
ところが2000年代後半に入ると、スペイン勢にその座を奪われ、続けてイングランド勢にも後れを取る。サッカータウン、ミラノの栄光は過去のものになりつつあった。
イタリア勢がベスト4の椅子の2つを奪った今季は、復権のシーズンと言い表すことができるだろう。
ミラン対ナポリ。この準々決勝はセリエA、4位対1位の対戦で、ナポリの前評判が上回るのは当然だった。だがミランはホーム、ジュゼッペ・メアッツァで行なわれた第1戦を1−0で折り返すと、スタディオ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナで行なわれた第2戦を1−1で乗りきり、合計スコア2−1でベスト4入りを決めた。
圧巻だったのは、ミランに事実上の決勝ゴールをもたらした左ウイング、ラファエル・レオンのドリブルだ。トラップミスを犯したナポリMFタンギ・エンドンベレからボールを奪ったのは、自軍エリアの深い位置で、ドリブルはそこから始まった。追いすがるエンドンベレを振り払い、立ちはだかるナポリDF2人を抜き去り、ナポリのゴールライン際まで進出。距離にするとおよそ70メートルを単独ドリブルで突き進むと、ボールを折り返した。得点者は1トップのフランス代表オリビエ・ジルーだったが、9割方、ラファエル・レオンが決めたような印象だ。ポルトガル代表の23歳。恐るべし、である。
ナポリの左ウイング、クヴィチャ・クワラツへリアも負けず劣らず、秀逸なウイングプレーを披露した。ウイング対決の様相を呈した一戦でもあった。しかしジョージア代表の22歳、クワラツへリアは、81分に得たPKのチャンスにキッカーとして登場するも、ミランGKマイク・メニャン(フランス代表)に止められてしまう。この左ウイングの明暗が、試合を分けたポイントだと言える。
【攻撃的なミラン対守備的なインテル】
イタリア勢と言えば、カテナチオという言葉で示されるとおり、守備的サッカーだと相場は決まっていた。イタリア勢同士の対戦となった2002−03シーズンのCL決勝、ミラン対ユベントス(オールドトラッフォード)がその象徴で、観衆のなかには睡魔に襲われ、船をこいでいる客さえいたほどだ。
しかし、ステファノ・ピオリ監督率いるミランも、ルチアーノ・スパレッティ監督率いるナポリも、攻撃的なサッカーを展開した。試合は、合計スコアこそ2−1だったが、内容的には激しい撃ち合いの好勝負となった。そこにイタリア勢躍進の理由を見た気がする。
一方、ミランと準決勝を戦うシモーネ・インザーギ監督率いるインテルは、5バックになりやすい3バックで戦う従来型のチームだ。準々決勝ではその罠に不用意な攻撃的サッカーを展開したベンフィカが、まんまとはまる格好になった。合計スコア5−3でインテルが勝利したこの対戦は、ベンフィカの粗さが目立つことになった。
準決勝のミランダービーを色分けすれば、攻撃的サッカー(ミラン)対守備的サッカー(インテル)の一戦となる。セリエAの現在の関係で言えば、4位(ミラン)対5位(インテル)の関係になるが、ブックメーカー各社の予想では「インテルわずかに優位」が多数を占める。勝てばCL決勝進出が決まるというイタリアサッカー界にとっては久々の大一番だ。守り合いになるのか、撃ち合いになるのか。ラファエル・レオンが活躍するか否かが、勝敗の分かれ目になるだろう。
準々決勝の第1戦を、バイエルンに3−0で勝利したマンチェスター・シティは合計スコア4−1。第1戦でチェルシーに2−0で勝利したレアル・マドリードは合計スコア4−0で、それぞれ準決勝進出を決めた。
CL準決勝第2戦、バイエルンと1−1で引き分けて準決勝に進出したマンチェスター・シティ
ただ、第2戦はどちらも思いのほか苦戦した。マンチェスター・シティはGKエデルソン、レアル・マドリードはGKチボー・クルトワが活躍。前半にビッグセーブを決めている。そこで失点していたら、接戦になっていた可能性は高い。
【下馬評はM・シティやや優勢だが...】
初戦で点差をつけられて敗れたバイエルン、チェルシーは、もっと積極的になれなかったものだろうか。チャレンジャー精神を剥き出しに戦えなかったものだろうか、とは筆者の印象だ。3点差を追うバイエルン。2点差ながら、チームの完成度に差を抱えたチェルシー。普通に戦ったら逆転は難しい。
引き合いに出したくなるのは2004−05シーズンの決勝、ミラン対リバプール(3−3、延長、PK戦でリバプールの優勝)だ。前半を終えて0−3とリードされたリバプールが、後半頭から敢行したイチかバチかの作戦である。布陣を変え、立ち上がりから猛然とボールと相手を追いかけるサッカーで、後半15分までに3点を奪取。同点に追いついた。
だが、リバプールの選手たちの足は以降、時間の経過とともに止まっていく。エネルギーを15分までに注ぎ込んだ結果である。PK戦でリバプールはこの一戦を制したが、延長戦はむしろピンチのほうが多かった。最後はミランの攻勢を凌いでPK戦に持ち込んだ格好だった。
後先考えず、イチかバチか、とにかく試合の頭から飛ばす。徹底的にプレスを掛け、相手を慌てさせる。バイエルン、チェルシーとも当時のリバプールが実践した、バカになりきるサッカーができなかった。チャレンジャーに徹することができなかった。
チェルシーが布陣を、守備的な5バックから攻撃的な4バックに変えたのは後半の半ばからという遅さだった。バイエルンの場合は、とりわけプライドが災いしていたように見える。
マンチェスター・シティ対レアル・マドリード。ミラノダービーよりこちらのほうが戦いのレベルは高いだろう。サブを含め豪華な戦力を誇るマンチェスター・シティ。頭脳的でしぶといサッカーを展開するレアル・マドリード。英国のブックメーカー各社は、「マンチェスター・シティわずかに有利」と見ているが、イングランド勢に地元のよしみで甘い評価を下す傾向があることも事実だ。予想としては52対48くらいがいい線だろう。
だが、レアル・マドリードは逆境に強いチームだ。昨季の決勝トーナメント4試合はすべて、相手が前評判で勝るなかでの戦いだった。チャレンジャーの立場で臨み、予想をきれいに覆し、欧州一の座に就いている。
ストロングポイントは、ヴィニシウス・ジュニオールがウイングとして構える左サイドだ。若干左寄りで構えるカリム・ベンゼマとのコンビネーションが決まれば、鬼に金棒。得点の可能性は一気に上昇する。
一方、マンチェスター・シティの右サイドバック(SB)は、ジョゼップ・グアルディオラが採用する4バック(4−3−3)と3バック(3−4−3)の可変式システムの調整役を兼ねている。マイボールに転じた時、相手ボールに転じた時、それぞれポジションを上げ下げする、微妙な役を任されている。マヌエル・アカンジ、ジョン・ストーンズ、カイル・ウォーカーらが該当する選手になるが、ヴィニシウスのマークと布陣の調整役を同時にこなすことはできるだろうか。一番の見どころだと筆者は考える。