ブライトンはいま欧州で最もいいサッカーをしている。4月15日(現地時間)のチェルシー戦でも、そう断言したくなる見事なサッカーを展開した。目を見張るのは三笘薫のドリブル突破だけではない。ブライトンのサッカーそのものが見ていて楽しい、エンタメ性抜群のつなぐパスサッカーなのだ。やりすぎ、危ないと忠告したくなるほど徹底的につなぐ。そこにロベルト・デツェルビ監督の哲学、こだわりが見て取れる。サッカー競技の面白さを再認識させられる見逃し厳禁の好チームだ。

 ブライトンにとってスタンフォードブリッジで行なわれたアウェー戦は、今季のプレミアリーグ全38戦中、29戦目の試合だった。前の週に欧州カップ戦の出場枠を争うトッテナム・ホットスパーに惜敗。プレミアリーグ6位から7位に後退し、チャンピオンズリーグ(CL)圏内までの勝ち点差は9に広がった。モチベーションを維持できるか。

 相手のチェルシーは、今季のリーグ戦ではこの試合まで11位と低迷しているものの、CLではらしさを発揮。準々決勝に駒を進め、3日前にはレアル・マドリードと第1戦を戦っている強豪だ。

 3日後にはホームでの第2戦を控えているため、ブライトンには若干メンバーを落として臨んできた。スタメンの顔ぶれを見た瞬間、ブライトンは「シメタ」と思ったに違いない。チームの格で大きく上回るチェルシーに対し、ブライトンはリスペクトなど一切しない小生意気で厚かましいサッカーを仕掛けていった。

 三笘に対峙するチェルシーの右サイドバック(SB)はリース・ジェームズでも、セサール・アスピリクエタでもなく、イングランドU−21代表のトレボ・チャロバーだった。


チェルシー戦にフル出場、勝利に貢献した三笘薫(ブライトン)

 三笘が精神的に優位に立っていることは開始8分、初めて訪れた1対1のシーンで明らかになった。主将で10番のアレクシス・マクアリスターからボールを受けた三笘は左タッチライン際をドリブルで疾走。トップスピードに乗った瞬間、チャロバーを欺くように急にスピードを落とし、いったん立ち止まるような素振りを見せた。

【もしチェルシーに入っていたら...】

 しかし、ひと呼吸置くや、再び後ろ足(右足)にセットしていたボールを押し出すように前進。前後にタイミングをずらされたチャロバーは、置いていかれる格好になった。半泣きになっていたとしても不思議はない、まさしく完敗だった。

 若手の右SBを余裕で抜ききった三笘は進行方向をグイと内側に変え、ゴールラインを深々とえぐる。三笘らしさを十分発揮しながら、右足アウトでラストパスを送り込んだ。

 この三笘の決定的な折り返しを受けたのは、三笘にボールを出したあと駆け上がっていたマクアリスター。リターンを受け狙いすましてシュートを放つも、ボールは右ポスト脇を通過した。

 三笘が挨拶代わりに披露したウイングプレーに触発されたのは、チェルシーの左ウイング、ミハイロ・ムドリクだった。今季、冬の移籍でシャフタール・ドネツクからチェルシー入りしたウクライナ代表の22歳。だがチームがウイングのいない5バックになりやすい3バックで戦う機会が増えたため、出場するか否かは布陣次第となっていた。この日の布陣は4−2−3−1。両ウイングが存在する布陣だった。

 三笘が左サイドでチャロバーを翻弄した6分後だった。ムドリクの自慢はスピードと推進力だ。三笘よりパワフルでもある。大外から真ん中に切れ込むとグイグイとドリブルを開始。いざシュートという段まで漕ぎつけた。だが、ムドリクはクレバーにもシュートを打たず、切り返し気味に中央で構える1トップ下、コナー・ギャラガーへのアシストとなるラストパスを送った。

 先制したのはチェルシーだった。布陣次第で出たり出なかったりするムドリク、さらにはアメリカ代表の右ウイング、クリスティアン・プリシッチを見ていると、三笘はいいチームに入ったとつくづく思う。もしチェルシーに入っていたら、彼らと同じように出番は半分程度しかなかっただろう。5バックになりやすい3バックのウイングバックでは、三笘の持ち味は出ない。カタールW杯で森保一監督が振るった采配がまさにそれだった。

【めったにない好試合】

 それはともかく、話を先に進めれば、ブライトンはここから2ゴールを奪い、1−2でアウェー戦を痛快な逆転劇でものにした。繰り返すが、すべてのサッカーファンを虜にするような滅茶苦茶面白いサッカーで。

 三笘は先制されたチームを勇気づける役を果たした。前半15分、26分、29分と、失点後も自慢のドリブルでスタンフォードブリッジを震撼させた。

 なかでも特筆に値するのは前半26分のプレーだった。中盤でエクアドル代表のモイセス・カイセドがパスカット、マクアリスター経由で三笘の足もとにボールが収まった。ドリブルで目の前の敵を次々にかわすプレーを「スラローム(回転)」と言うが、この場合は「ジャイアントスラローム(大回転)」に近かった。よりスピーディーで、ダイナミックさも兼ね備えていた。

 ライン際から内へ切り込むと、追いすがる敵を1人、2人と振り払い、待ち構える前方の敵も1人、2人と簡単に抜き去った。こんなドリブルができる選手は世界広しと言えど、そういない。次の瞬間、右足から繰り出された低弾道のインステップも100点満点の出来映えだった。完璧なシュートだったが、相手GKケパ・アリサバラガも完璧な美技でこれを防いだ。

 同点弾が生まれたのは前半42分、元イングランド代表ダニー・ウェルベックのヘディングで、逆転弾は後半24分、19歳のパラグアイ代表、フリオ・エンシソが放った、胸のすくような長距離砲だった。

 残り時間は21分+ロスタイム。ブライトンは攻め続けた。チェルシーにも決定機が訪れたが、怯まなかった。シーズンを通してもそう見ることができない好試合だった。ブライトン絡みの試合に外れなし。三笘の活躍とブライトンのサッカーは、見る者にとって一挙両得の関係にある。それぞれ好ムードは健在だ。残り9試合、見逃すわけにはいかない。CL出場の可能性もゼロではないのだ。