フォルクスワーゲンがピュアEVの“ID”シリーズに魅力的な新作「ID.2 all」を投入する目的と意義
フォルクスワーゲン本社が、魅力的なデザインの電気自動車「ID.2 all(アイディツー・オール)」を、発表しました。
2023年3月15日に独ハンブルグの見本市会場に、世界中から集まったジャーナリストを前にお披露目されたピュアEVです。
このクルマを見て、日本はどんどん置いていかれてるんじゃないかって気がしてきました。ちょっと変な言い方ですが、見た目は実にフツウなんです。
■ポロとゴルフの間に位置するような“フツウ”のスタイリング
フツウっていうのは、この場合、フォルクスワーゲン好きにアピールするスタイリングとかをしっかり持っているという意味。
ポロとゴルフの間に位置するような存在で、これはカッコいい。コンパクトなサイズでありつつ、20インチのロードホイールと組み合わされたタイヤが、車体四隅で踏ん張っている印象。
▲親しみやすいフロントフェイスがデザイン上の特徴と説明される
▲Stability(安定感)、Likeability(好感度)、Excitement(感動)に焦点を当てたデザインという
フェンダーが張り出しているのと、キャラクターラインが力強さを作り出しているのが、はっきりいってポロよりスポーティ。
もうひとつ目を惹くのが、フロントマスク。ID.というVWのピュアEVのファミリーアイディンティティを備えつつ、これまで以上に親しみやすさすら覚えます。
▲フォルクスワーゲンのアイコンモデルのDNAを新たに解釈したデザインとされる
「見る人を笑顔にすることを心がけました」。デザインを統括するヘッド・オブ・デザインのアンドレス・ミント氏は、デザインの肝を教えてくれました。
■eモビリティを民主化する2万5000ドル以下という価格帯
「eモビリティを民主化するため」のモデル、とVW乗用車部門を率いるトマス・シェーファー最高経営責任者(CEO)はID.2 allを開発した目的を語ります。
eモビリティとはなんでしょうか。電気で動くもの全般を指します。確かにここではID.2 allの話ですが、VWではマイクロバスなど公共交通のEV化も推進しています。
そして「民主化」とは、多くの人がアクセスしやすい存在にすること。
ID.2 allが衝撃を与えたのは、「2万5000ドル以下」(シェーファーCEO)という価格もあります。
23年3月の為替レートで計算すると、日本円だと360万円を超えてしまいますが、あちらの生活感覚では1ユーロ=100円などというので、仮にそれで計算すれば、250万円を切る価格。
価格で見ると日本製ピュアEV「日産サクラ」の安いほうの「Xグレード」(254万8700円)と同じってことになりますか。
▲「ゴルフと同じくらい広く、ポロと同じくらい手頃な価格」を謳う
サイズは全長4050mm(サクラは3395mm)、ホイールベースは2600mm(同2495mm)。一充電あたりの走行距離は450km(同180km)。
一概に250万円で比較できないと思いますが、走行性能はだいぶ違います。少なくとも欧州では「2万5000ユーロ」の価格が大きな話題を呼んでいます。
■これまでのID.シリーズと異なるフロントモーターの前輪駆動
機構的な特徴は、これまでID.シリーズはモーターをリアに搭載した後輪駆動だったのに対して、ID.2 allはフロントモーターで、前輪駆動であること。
MEBというピュアEV用のプラットフォームに手を入れたもので、フォルクスワーゲンはこれを「エントリーMEB」と称しています。
▲床下にリチウムイオン電池を積む2階建て構造はリアモーター/後輪駆動のほかのID.モデルと共通だけれど、ID.2 allは初めてのフロントモーター/前輪駆動
▲荷室は2重構造で、フロア下には収納ボックス、後席シート下には 50 リットルの収納スペースが設置されている
前輪駆動化したのは「広い荷室容量もこのセグメントには重要だから」(製品開発担当の取締役カイ・グリューニッツ氏)と説明されました。
ID.2 allの最高出力は116kW(226ps)。トップスピードは時速160km。静止から時速100kmまで加速するのにもわずか7秒と、かなり高性能です。
驚くのは、この価格でここまでの性能が実現できるってことですね。さらに「性能を落としたバージョンも用意している」、と前出のグリューニッツ氏は言っていました。
今回、公開されたのは「showcar」とのことで、内装はまだ作り込まれていませんでした。なにしろ企画から完成までわずか6週間。
▲2つの液晶パネルをそなえたシンプルな造型のダッシュボード
▲インパネは、ビートル風やゴルフ風などの表示ができるようになるそう
▲スマートフォン2台が同時に充電できる(円筒はインフォテイメントの音量コントローラー)
▲フロントシートのバックレストには、ワイヤレス充電機能を備えたマグネットホルダー装備(写真では見えませんが)
ただし「エクステリアの完成度は90パーセントです」(ミント氏)とのことで、突貫工事でも「ちゃんとストラテジーが頭の中に入っていれば大丈夫」(同)と言います。
発売予定は2025年。日本導入は未定とのこと。エンジン搭載でも欲しいと思わせる、魅力的なスタイルです。
【Specifications】
Volkswagen ID.2 all showcar
全長×全幅×全高:4050x1812x1530mm
ホイールベース:2600mm
駆動:前輪駆動
モーター:1モーター
出力:166kW
航続距離:約450km
<文/小川フミオ、写真=Volkswagen AG>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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