この5年で「売れた・売れなくなった」雑貨TOP30
好調なキャットフード(写真:PanKR/PIXTA)
「この5年で『売り上げ』が伸びた食べ物トップ30」を以前紹介したのに続き、今回は雑貨分野に焦点を当て、2018年から2022年の5年で「売り上げが伸びた雑貨」をランキングする。
国内で新型コロナ感染者が初めて確認されてから3年以上が経過し、コロナ前の暮らしがはるか昔に感じられるかもしれない。2018年といえば、平昌オリンピックが開催、タピオカブームが起こった頃だ。
好不調のトレンドを確認するため、「売り上げが落ちた雑貨」のランキングも確認したい。ランキングでは、全国のスーパー、コンビニ、ドラッグストアなど、約6000店舗の販売動向を追っている「インテージSRI+」のデータを使用する。
「売り上げが伸びた」雑貨トップ30の顔ぶれ
これは販売金額2022年対2018年比のランキングで、各年の前年比も示したものだ。1位のマスクは359.5%と飛躍的な伸びを見せた。各年では2020年に393.3%と4倍近くにまで伸びており、コロナ禍にマスク着用が習慣化したことで売り上げが激増した。2位の体温計も2020年に急伸したことで、2022年対2018年比で204.3%となっている。
また、3位のペーパータオル、4位のウェットティッシュ、9位の使い捨て紙クリーナー(掃除用のウェットティッシュ)も2020年に最も伸びており、コロナ禍の衛生意識の高まりが見て取れた。
一方、5位のカビ防止剤は、2020年にも伸びているが、2022年の伸びがより大きい。風呂場に置くだけで使用できると簡便さを訴求する商品が人気となったためである。
「〜するだけ」「〜しなくていい」といった掃除関連の商品は、コロナ前から人気が高まっている。6位のバス用クリーナーは、2019年より2桁増。2018年秋に発売された、「こすらなくても汚れが落ちる」と簡便さを訴求する商品がヒットしたためだ。2020年以降も、銀イオン配合で除菌効果がある商品が発売されたことや、競合他社でも「こすらなくてもいい」と訴求する商品が発売されたことを受け、バス用クリーナーは増加を続けている。
コロナ禍で伸びた雑貨は、感染予防関連の商品だけではない。7位の入浴剤は、セルフケア需要、8位の食品包装用品(フリージングバッグ等)や10位のアルミホイルなどのキッチン用品は、内食需要により伸長したことがうかがえる。家庭での巣ごもり需要全般が好調だったようだ。
このうちアルミホイルが2022年にも前年比110.2%と大きく伸びているのは、原材料高を背景とする値上げの影響と見られる。
「売り上げが落ちた雑貨」ランキング
続いて、販売金額が落ちたもののランキングを確認したい。
1位の洗濯のり、2位の靴クリームは、コロナ前から減少が続いている商品だ。洗濯のりはワイシャツの襟・袖などの張りを出すこと、靴クリームは革靴を磨くことが主な用途。
出社時もワイシャツを着ないオフィスカジュアルの広がりや、形状記憶シャツと呼ばれるアイロンがけが不要な商品が増えてきたことなどが、洗濯のりの需要を縮小させた要因だろう。
靴クリームについても、スニーカー通勤の広がりが、需要を縮小させたと見られる。洗濯のり・靴クリームとも、最も大きく減少したのは、コロナ1年目の2020年だ。コロナ禍における在宅勤務の定着で、ワイシャツや革靴を使用する機会が限られてきたことも、市場をいっそう縮小させたようだ。
3位のリップクリームは、2020年に急減した。外出自粛やマスク生活により、外出時の身だしなみ需要の縮小を受け、苦戦したものと見られる。
5年間では苦戦したものの中にも、2022年には回復の兆しが見られた商品もあった。3位のリップクリームや6位の日焼け止めは、2022年に1〜2割ほど伸長している。外出自粛要請が解除され、緩やかに外出が増えてきたためだろう。さらに同年の後半には、水際対策の緩和を受け、インバウンド需要に回復の兆しが見られたことも追い風となっている。
類似商品でも明暗が分かれた、紙おむつ・ペットフード
ここまで、5年間で売り上げが伸びた商品、落ちた商品の傾向を見てきた。両者を比較すると、類似の商品であるにもかかわらず、好不調の明暗がはっきりと分かれた商品がある。
たとえば、紙おむつとペットフードの分野だ。紙おむつでは、大人用が好調なのとは対照的に子供用が苦戦。ペットフードでは、キャットフードが好調であるのにドッグフードが苦戦している。市場規模で見ても、2018年以前から大人用が子供用を、キャットフードがドッグフードを上回っていた。その差が、この5年でさらに拡大してきているのだ。
紙おむつで大人用と子供用で明暗が分かれた背景として、少子高齢化が挙げられる。2019年の中国電子商取引法の施行による転売規制に加えて、2020年からのコロナ禍でのインバウンド需要消失や少子化加速も、子供用の紙おむつの苦戦に拍車をかけることとなった。
一方、アクティブシニアと呼ばれる健康で活動的な高齢者が増え、尿漏れ対策として軽失禁用のおむつの需要が拡大したことが、大人用の市場をいっそう成長させている。
高価格な商品が伸びるキャットフード
ペットフードについては、ペットフード協会の推計によると、2014年から飼育頭数は猫が犬を上回っており、その差は拡大する傾向にある。犬の種類別では、中型犬・大型犬の減少が顕著なようだ。これがドッグフードの需要縮小に影響していると見られる。
中・大型犬の飼育頭数が減少している背景の1つとして、戸建てではなく、集合住宅に住む人が増えてきていることが挙げられる。集合住宅では、飼育できるのは小型のペットのみとして、中・大型犬を飼うことができない場合が多い。また、戸建てに住んでいる場合でも、単身世帯・共働き世帯の増加に加えて飼い主の高齢化もあり、散歩の負担が大きいのではないだろうか。
一方、好調なキャットフードで特に伸びているのが、おやつタイプ。2022年対2018年比を見ると、キャットフード全体では118.2%だが、おやつタイプでは166.5%と大きく伸長した。嗜好品であるおやつタイプは、高価格帯の商品が多くラインナップされている。猫の飼育数が堅調に推移する中、「家族の一員」として猫にかける費用の増加も、キャットフード市場の成長に寄与しているようだ。
この5年の雑貨の売れ行きを見ると、コロナだけではなく、単身世帯・共働き世帯の増加や居住スタイルの変化、簡便化志向の高まりなど、さまざまな要因が雑貨の好不調に影響を与えていることがわかる。
3月13日からは、マスク着用が屋内外問わず個人の判断に委ねる政府方針となった。外出増、インバウンド需要の回復、相次ぐ値上げなど、あわただしく市場環境も変化している。こうした影響により、雑貨の好不調のトレンドは今後も大きく変化していくはずだ。
(木地 利光 : 市場アナリスト)