世界中のカバンが集まる「カバン博物館」で芸大生の真髄を目の当たりにしてきた。発想おもしろすぎ!

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東京・浅草は駒形橋の近くにある「世界のカバン博物館」。ここはバッグメーカー、エースが運営する、世界約50カ国から集めた550点ものカバンを展示している博物館で、誰でも無料で見学ができる施設です。

そこで2023年3月11日まで開催されていたのが「2023 モチハコブカタチ展」。東京藝術大学美術学部デザイン科の1年生45名が制作した作品を一挙展示する特別展で、今回で11回目となります。

毎年テーマを変えて行われていて、2023年のテーマは“春だ!野山へ行こう”。このテーマだけ聞くと、リュックをはじめアウトドアライクなバッグが思い浮かびますが、そこは芸大生。ひと味もふた味も、いやそもそもの発想の原点が違うんだろうなと思ってしまう作品ばかり。

世界のカバン博物館の館長である難波敏史さんが「我々もすごく勉強になる」というこの特別展を、バッグメーカーのエースが開催する目的はどこにあるのでしょうか。

 

■行為をデザインしている

「テーマは毎回、東京藝術大学の長濱教授が決められます。前回(2022年)は“ポストリュックサック”で、今回は“春だ!野山に行こう”。長濱先生は『遊びの心がほしい』とおっしゃってましたね」

▲展示方法や何を展示するかなど、すべて学生が考えている

そう難波さんが話すように、見た瞬間に遊び心、どころか「ん? なんだこれ?」と思ってしまう作品がずらりと並んでいました。モチハコブという言葉から想像するバッグのようなものとは明らかに異なるものばかりです。

「自然と人間の関わり方、そういう部分の“モノ”というより“コト”を絡めた『モチハコブカタチ』を想像してくださいということなんです。だからカバンじゃないものもいっぱいあるんですよね」

たしかに、学生たちが何を「モチハコブ」と考えたかという部分に個性があふれ出ています。でも、カバンメーカーのエースがやっているから、てっきりカバンが並んでいるかと思ってましたよ。

「実は違うんですよね。『野山に行く際にモチハコブもの』を普通に考えたらリュックとなるわけですが、そうではなく行為をデザインしているんです。だから最初に長濱先生が学生たちにテーマを伝えたら『野山ってなんですか?』という質問が来たりするわけです」

自然豊かな地で育った人にとって野山は日常かもしれませんが、都会で育った人にとって野山は非日常。だからこその質問なのかもしれませんね。

そもそもこの「モチハコブカタチ展」、なぜ始まったのでしょうか。

「きっかけは、芸大の美術館でエースのデザイン展をやらせてもらったことでした。そこから何かできないかとなり、始まったんです」

内容を見ると、あくまで学生が制作した作品のお披露目会のように見えますが、難波さんによるとエースにとっても意義のあるものになっているといいます。

「もちろん、未来のクリエイターに、カバンに興味を持ってもらいたいということもありますが、毎回弊社のデザイナーも見に来るんですね。そうすると『あーこんな考え方があるんだ』ということがあったり、アタマの中が整理されたりと、すごく刺激を受ける」

そして広報やマーケティング業務にも携わる難波さんならではの見方もあるようです。

「それぞれの作品を見ていただくとわかるんですが、作品がどういうものかをパネルを作ったり展示方法を工夫したりしてプレゼンテーションしているんです。その見せ方だったり、書いてあるキャッチコピーだったりがすごく勉強になる。『いまの若い人の考え方はこうなんだ』とか『こういう考え方があるんだ』とか。我々は普段、売るためのモノを作っています。売れるモノはどういうものかという視点ですね。でもこの人たちは、そんなことはまったく関係ない。それが私にとっては非日常でおもしろいんです」

芸大生だからこその発想でしょ、と片付けてしまうのではなく、発想の原点をどこに置くかで表現するモノが変わってくる、そう感じる「モチハコブカタチ展」でした。

世界のカバン博物館では他にも、服飾系の大学や専門学校の学生による特別展も行われるなど、年に3回ほど学生展が開催されているそう。また特別展が開催されていない日も、世界中のカバンが展示されていて見学が可能です。世界各地の文化とカバンの歴史が分かる展示もかなりおもしろいですよ。

そして最後に難波さんはこう話していました。

「(芸大1年生の)彼女ら彼らが卒業する時に、どんな作品を作るのか見てみたいんですよね」

たしかに、それは気になる!

>> 世界のカバン博物館

<取材・文/円道秀和(&GP) 写真/田口陽介>

※「2023 モチハコブカタチ展」展示作品は↓に

 

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