EDにまつわる都市伝説を検証する大宮エヴァグリーンクリニック・伊勢呂哲也院長とくぼたクリニック松戸五香・窪田徹矢院長

 デリケートなテーマゆえに、真偽不明の怪情報が巷に溢れている勃起とEDの話。

 今回、専門医として徹底解明してくれたのは、くぼたクリニック松戸五香の窪田徹矢院長と、大宮エヴァグリーンクリニックの伊勢呂哲也院長だ。

「EDは誤解の多い症状なので、“バナナ先生” としてYouTubeで積極的に情報を発信しています。EDのことで気になることがあれば、気軽に泌尿器科を受診してほしいですね」(窪田医師)

 伊勢呂医師は、男性の更年期障害にも注意を促す。

「当院では、更年期障害の男性患者さんが毎日20人以上来院されます。性欲減退やED以外に、うつや倦怠感といった体の不調があれば、更年期障害の可能性があります」

 正しい情報で、“元気” を取り戻せ!

■禁欲するとEDが治る(×)

「男性の間ではよく言われるようですが、実際にはあまり効果はないと思います。一定期間、射精をしないことで一時的なテストステロン濃度の上昇は期待できますが、その期間は1週間程度です。

 それ以上長く禁欲してもテストステロン濃度は元に戻ってしまうという調査報告があります。むしろ長期間の禁欲がストレスになってしまい、パフォーマンスが低下するケースもあるようです」(窪田徹矢医師)

■EDは心臓病の兆候である(○)

「予兆ととらえるのであれば○です。じつは、心筋梗塞・狭心症とEDは、動脈硬化や血流の低下、血管の詰まりなど、発症するメカニズムは同じだといえます。

 注目すべきは、動脈の太さです。心臓の冠動脈は3〜4mmなのに対し、陰茎の動脈は1〜2mmと非常に細いため、軽度の動脈硬化でも、症状として現われやすいのがEDと考えられます。

 動脈硬化が進むと、EDからさらに心筋梗塞などの症状を招く可能性があります」(伊勢呂哲也医師)

■AGA治療薬を飲むとEDになる(×)

「代表的なAGA治療薬であるプロペシアの副作用として、性欲減退や勃起機能の低下を招く可能性があることが知られています。

 しかし、この副作用の発生頻度は、1%程度と非常に低いです。ほとんどの方は、影響がないといえます」(伊勢呂医師)

■高熱を出すとEDになる(×)

「たしかにインフルエンザなどで高熱を出すと、精子を作る機能が低下することがあります。しかし、それは一時的なもので、低下したとしても3〜4カ月もすれば精子を作る機能は元に戻ります」(伊勢呂医師)

■糖尿病になるとEDになる(○)

「血糖値が高い血液は、血管の壁を傷つけやすく、神経にも障害を及ぼしてしまうので、○ですね。

 糖尿病が進行すると、毛細血管や末梢神経がダメージを受けてしまいます。すると、陰茎への血流が妨げられますし、性的興奮や刺激が伝達されづらくなり、EDを招いてしまいます」(伊勢呂医師)

■うなぎを食べるとビンビンになる(△)

「うなぎはスタミナ食の代表ですね。ビタミンA、B、亜鉛を豊富に含みます。ビタミンAは生殖機能の維持、ビタミンBは疲労回復、亜鉛は男性ホルモンの生成に欠かせない栄養素です。

 うなぎを食べて、すぐに絶大な効果が出るかどうかは個人差があると思いますが、EDに悩む男性は積極的に食べてもいいかもしれません」(伊勢呂医師)

■自転車に乗るとEDになる(○)

「一般に、サイクリングEDと呼ばれます。もちろん、自転車に乗ると即EDになるというわけではありませんが、スポーツタイプの硬いサドルの自転車に毎日2時間以上乗るという方は注意したほうがいいでしょう。

 サドルに跨ると血管・神経が通る会陰部が圧迫され、陰茎への血液循環が悪くなります。それが長時間、何度も繰り返されることで器質性EDが引き起こされてしまう可能性があります。

 柔らかいサドルを選んだり、股間に衝撃を緩和するパッドが入ったサイクリング用パンツを使用するといった対策もありです」(伊勢呂医師)

■メンソール煙草を吸いすぎるとEDになる(○)

「男性の間で、昔から語り継がれているものですが、これは真実です。ただし、正確にはメンソールの煙草だけではなく、種類を問わずすべての煙草は、吸いすぎるとEDになります。

 メンソールの煙草に使用されているメントールという成分自体が、EDの原因となるわけではありません。喫煙によって血管がダメージを受けるため、陰茎への血流が低下し、EDを引き起こします。

 ヘビースモーカーでEDに悩む患者さんが禁煙したところ、EDが改善した例もあります」(伊勢呂医師)

(次ページでは、「薄毛は絶倫の証拠」説も検証します)

40代のときに無精子症と診断され、男性不妊治療に取り組んだダイアモンド☆ユカイ

■1回射精すれば2回めは長くできる(×)

「これは、個人差があると思います。男性は、性的興奮の後に射精し、オーガズムに達すると不応期という性的刺激に反応しない時間が訪れます。一般的に皆さんが賢者タイムと呼ぶ時間です。

 賢者タイムは、20代では15〜20分程度といわれ、年齢が上がるにつれて長くなります。少なくとも、1回射精すると2回めは行為に及ぶ準備ができるまで時間を要する方が多くなるとはいえるでしょう」(窪田医師)

■抗うつ薬を飲むとEDになる(△)

「種類によります。たしかに、抗うつ薬・向精神薬のなかには、副作用のひとつとしてEDを起こす薬があります。精神科や心療内科を受診しているEDの方は、医師に薬の副作用を確認することをおすすめします。

 具体的に性機能障害を起こし得る抗うつ薬は、三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などがあります」(伊勢呂医師)

■若いときにセックスしすぎると前立腺肥大、EDになる(×)

「少し昔は『女遊びばかりしていると前立腺がんや前立腺肥大症になる』といわれたようですが、これはまったくの都市伝説です。

 前立腺肥大症は、自覚症状がない方も含めると50歳以上の男性の半数以上が罹っている病気です。前立腺が肥大すると尿道が圧迫され、尿が出にくくなったり、尿の回数が多くなる頻尿などの排尿障害が出ることもあります。
 

 一般的に、加齢とともに男性ホルモンの低下や生活習慣病などが原因となり血流が低下し、EDになります」(伊勢呂医師)

■個人輸入できるED治療薬には偽物がある(○)

「これには本当に気をつけてください。インターネットで購入できるED治療薬の半分は偽物だと思ったほうがいいでしょう。

 ED治療薬を製造・販売している大手製薬会社4社が2016年に調査したところ、個人輸入代行などと謳うネットサイトから購入できた商品の、約4割が偽物のバイアグラだったという結果でした。

 バイアグラだけでなく、シアリス錠の偽物も摘発されています。偽物のシアリス錠を服用し、数時間で痙攣、意識低下が生じた例も報告されています。

 最近ではジェネリック医薬品も発売されていて、高価なものではありませんので、必ず病院で処方してもらいましょう」(窪田医師)

■大人になっておたふく風邪に罹ると種無しになる(△)

「思春期以降におたふく風邪に罹ると、おたふく風邪の原因であるムンプスウイルスが精巣に炎症を起こし、ムンプス精巣炎になります。

 ムンプス精巣炎になると、精子を作る働きが低下し、最悪の場合は無精子症になる可能性があります。

 もちろん、100%ではありませんが、思春期を過ぎてもおたふく風邪に罹っていないという人は、ワクチンを接種することをおすすめします」(伊勢呂医師)

■中折れするのはEDじゃない(×)

「行為の最初は勃つけど、途中で萎えてしまう……という男性は多く、40代から増加する傾向にあります。EDと認めたくないという男性も多いですが、中折れもEDです。

 そして、中折れが頻繁に起こるようなら、動脈硬化のサインととらえ、生活習慣を見直すことが大事です。

 メタボの改善や飲酒、喫煙を控え、運動をするなど、血管の健康を保つことを心がけることで、中折れが改善することもあります」(窪田医師)

■バイアグラを飲むと、物が青く見えるようになる(△)

 巷ではバイアグラの錠剤が青いため、飲むと物が青く見えるようになるといわれている。

「実際、バイアグラを服用した後に物が青く見える青視症が起こることはあります。しかし、バイアグラが青いから青く見えるわけではありません。バイアグラによる青視症は一時的なもので、時間の経過とともに改善し、後遺症もありません。

 青視症は、白内障など目の疾患が原因となっていることもありますので、症状が長引く場合には、眼科を受診することをおすすめします」(窪田医師)

■スッポンでビンビンになる(○)

「スッポンの肉には、アルギニンと呼ばれる成分が多く含まれています。これはアミノ酸の一種で、体内に吸収されると一酸化窒素の生成を促進します。

 一酸化窒素は、血管を拡張させ、陰茎の血流量を増やすため、勃起しやすくなります。

 また、男性ホルモン量の上昇に欠かせない亜鉛を含みます。さらにビタミンA、ビタミンB群、ビタミンEなどが多く含まれ、精力増強に効果があるといわれます」(窪田医師)

■妻にだけ勃たないのはEDじゃない(×)

「長年連れ添った妻や彼女にだけ勃たない、という男性は少なくありません。AVやほかの女性には正常に勃起するためEDではないと思っている男性もいるようですが、これも立派な心因性EDです。

 原因は、マンネリ化によって性的刺激を受けにくくなっていることです。

 奥さん=興奮しないという固定観念にとらわれている場合もあるので、ED治療薬を服用するのも解決のきっかけになると思います」(窪田医師)

■床オナはEDになる(○)

 うつ伏せのまま、陰部を床にこすりつける通称 “床オナ”。愛好者の多い方法だが、注意が必要だ。

「床オナの強い刺激に慣れてしまうと、膣内の締めつけが弱く感じ、膣内射精障害を引き起こしてしまうこともあります。習慣化しているという人は、やめることをおすすめします」(窪田医師)

■包茎だとパートナーががんになる可能性がある(○)

「包茎自体ががんを引き起こすわけではありません。しかし包茎の場合、垢が溜まりやすく不潔になりやすいため、HPVウイルスに感染しやすい傾向にあります。

 その結果、女性にHPVウイルスを感染させてしまい、がんになる可能性があるということです。陰茎は清潔に保ちましょう」(伊勢呂医師)

■薄毛は絶倫の証拠だ(×)

「薄毛の原因がテストステロンだと理解されている方が多いと思いますが、厳密には違います。テストステロンは、5α還元酵素という酵素の作用によりDHT(ジヒドロテストステロン)という、別の男性ホルモンに変わります。このDHTが育毛を妨げることで、薄毛になります。

 DHTが増える原因には遺伝的要素や喫煙などがあり、必ずしも薄毛=男性ホルモンが多い=絶倫というわけではないのです」(窪田医師)

写真・共同通信 取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)