“怖くて歯医者さんに行けない”を解決する「静脈内鎮静法」ってどんな麻酔? 特徴や適応、気になる費用などを歯科医が解説
歯科治療を「嫌だな」「苦手だな」と感じる人も少なくないでしょう。ただ、その中には「診療台に座ると動悸や震えが止まらない」「えずき(嘔吐反射)がひどい」など、深刻な悩みを抱えている患者さんもいらっしゃいます。このように何らかの理由で歯科治療を受けたくても受けられない方におすすめしたいのが、本記事でご紹介する「静脈内鎮静法」です。今回は静脈内鎮静法とはどのような麻酔なのか、その特徴や適応、治療の流れなどについて、「こうみ歯科クリニックEAST」の河見先生にお聞きしました。
歯医者さんでおこなう「静脈内鎮静法」とは? ほかの麻酔とはどう違う?
編集部
歯科治療でおこなう「静脈内鎮静法」とは、どのような麻酔なのでしょうか?
河見先生
「不安」や「えずき(嘔吐反射)」を抑える薬を点滴して、歯科治療における恐怖心や不安感、嘔吐反射などを抑える麻酔法です。緊張が和らぎ、リラックスした状態で治療が受けられます。
編集部
同じようなリラックスできる麻酔に「笑気麻酔」もよく聞きますが、違いは何ですか?
河見先生
笑気麻酔は笑気ガスを鼻から吸ってリラックス効果を得る麻酔法ですが、その効果は弱く、大人では効きにくい傾向があります。また、鼻がつまっている・つまりやすい方には不向きです。一方、静脈内鎮静法は、薬剤を静脈からダイレクトに入れるため、大人でも確実に効果を得ることができます。
編集部
実際に、静脈内鎮静法をおこなうと、どんな感覚になるのですか?
河見先生
体内に入れる薬剤の量によって異なりますが、ほとんど寝ている状態に近く、人によっては酔っぱらっているような感覚になります。自分で呼吸はしているけど「話しかけられても何を言っているかわからない」といった感じです。
編集部
いわゆる「全身麻酔」とはどう違うのでしょうか?
河見先生
全身麻酔の場合は、呼吸や血圧などの体の機能もすべて医院側で管理する必要があります。しかし、静脈内鎮静法はただ眠っているだけの状態なので呼吸も自分でできますし、痛い時には「痛い」と反応もできます。
編集部
気になる「痛み」ですが、静脈内鎮静法で痛みは感じなくなるのでしょうか?
河見先生
静脈内鎮静法自体に痛みをとる効果はないので、痛みについては通常の歯科治療と同じ「局所麻酔」を使って抑えていきます。ただし、静脈内鎮静法で使う薬剤には痛みの感覚が薄れる効果(痛みの閾値を上げる効果)があるため、通常よりも痛みを感じにくくなります。
編集部
それでもやはり「痛み」を感じることはあるのでしょうか?
河見先生
静脈内鎮静法の薬剤には健忘作用があるため、その際は「痛い」と感じても治療が終わると忘れていることが少なくありません。痛みを感じてもその記憶が残らないので、治療に対して恐怖心を抱くこともなくなります。
編集部
では具体的に、どのような人に静脈内鎮静法はおすすめですか?
河見先生
歯医者さんに来ると「ドキドキして体がこわばる」「冷や汗が止まらない」など、歯科治療に対する恐怖心が強い人にはぜひおすすめしたいです。ほかにも、えずき(嘔吐反射)が強い人や障害のある人、認知症の人など、何らかの要因で通常の歯科治療が難しい場合に静脈内鎮静法は用いられます。
静脈内鎮静法を使った治療の流れと当日の注意点について
編集部
静脈内鎮静法を受ける当日の簡単な流れを教えてください。
河見先生
来院されたら、まずは体調を確認して、問題がなければ血圧や心拍を測定する生体モニターを装着します。そこから静脈路を確保して薬剤を点滴し、ある程度鎮静効果が得られたら歯科治療を開始していきます。
編集部
治療が終わったら、すぐに帰れますか?
河見先生
治療後しばらくは眠気やふらつきが残るため、「歩行に問題がない」と判断できるまでは院内で休んでいただきます。効果がなくなるまでの時間は個人差がありますが、早ければ15分ほどで帰宅できます。
編集部
そのほかに、当日注意したいことはありますか?
河見先生
治療をした当日は車やバイク、自転車の運転はできません。飲酒運転と同じになるので、必ずタクシーや公共交通機関などを使って来院してください。はじめて治療を受ける場合は、付き添いと一緒に来院される方が安心でしょう。
リスクや副作用はない? 費用は? 静脈内鎮静法で知りたいこと
編集部
静脈内鎮静法は希望すれば誰でも受けられるのでしょうか?
河見先生
基本的には、健康上の問題がなければ受けることができます。ただし、妊娠中の女性や糖尿病や高血圧などで持病のコントロールがうまくできていない人は静脈内鎮静法ができないため、その点はご注意ください。また、使用する薬剤にアレルギーのある場合も要注意なので、担当医とよく相談しておきましょう。
編集部
静脈内鎮静法に副作用やリスクはないのでしょうか?
河見先生
使用する薬剤には呼吸を抑制する作用があるため、治療中は呼吸の管理に十分な配慮が必要となります。鎮静やえずき(嘔吐反射)を抑える効果よりも呼吸抑制の方が強くなってしまった場合は、治療を中断する場合もあります。また、副作用については治療後しばらくふらつきが残るため、転倒によるケガなどに注意が必要です。さらに、酔っぱらっている感じが続いているときはいつもと違った行動をしてしまうこともあるので、こちらもご注意ください。
編集部
静脈内鎮静法は保険適用なのでしょうか? また、具体的な費用の目安を教えてください。
河見先生
基本的に保険適用ですが、歯科医院によっては自費診療で静脈内鎮静法をおこなっているところもあります。受診する歯科医院によって費用が異なるため、事前によく確認しておきましょう。費用の目安としては保険(3割負担)の場合は3000円弱、自費の場合は5~10万円ほどで、そこに歯科治療費が加算されます。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
河見先生
お口の中がボロボロになっても恐怖心が強くて、歯医者さんに通えないという人をこれまでたくさん診てきました。ただ、静脈内鎮静法を使ってみて「やっぱり治療できなかった」という患者さんはほとんどいらっしゃいません。色々と不安や悩みは尽きないと思いますが、ぜひ静脈内鎮静法をご検討いただけたらと思います。
編集部まとめ
静脈内鎮静法には歯科治療に対する不安や恐怖心を和らげ、リラックスした状態(半分眠っている状態)で治療が受けられるというメリットがあります。歯科恐怖症や強いえずき(嘔吐反射)、お身体の状態などで歯科治療を普通に受けるのが難しい人にはおすすめです。「歯医者さんに行きたくても行けない」という人は、ぜひご検討ください。
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