郄津臣吾×真中満 新春対談 第1回(全4回)

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2022年、東京ヤクルトスワローズをセ・リーグ連覇に導いた郄津臣吾監督と、元ヤクルト監督でプロ野球解説者の真中満氏が対談。躍進を遂げた若手選手、コロナ禍の大量離脱の逆境、逆転負けを喫した日本シリーズ、2023年シーズンの展望について、全4回にわたって真中氏が郄津監督に尋ねていく。


対談したヤクルト郄津臣吾監督(右)と真中満氏

【2022年の投手陣を振り返る】

真中満(以下、真中) 球団史上初となる2年連続日本一はならなかったけれど、2021年、そして2022年と2年連続セ・リーグ優勝となりました。あらためてお疲れさまでした。

 2022年の開幕前、今野龍太、清水昇、そしてスコット・マクガフなど、前年かなり投げた中継ぎ陣は疲れていないかなと思っていたんですけど、監督はその点は不安じゃなかったですか?

郄津臣吾(以下、郄津) その点については、意外と自信はありましたね。先発投手陣と違って、リリーフ陣に関して言えば、それなりに枚数もそろっていて、こちらがきちんと適性を見極めて、しっかりと休養を与えながらうまく回していければ、シーズンをしっかり戦えるだけの戦力は整っていると見ていました。それよりも、不安だったのは先発陣でしたよ。

真中 2021年の活躍を見て、2022年は先発陣の筆頭に奥川恭伸、高橋奎二がきて、小川泰弘や石川雅規が5番手くらいになってくるのかな? 開幕前には、そんな気持ちでいたんですけど、奥川が早々に離脱、高橋もコロナでかなり苦しみましたね。

郄津 本当にそれが理想でしたね。世代が変わり、年代が変わるなかで、きちんと若い選手が台頭してきて、言い方は悪いけれども、ベテランの順番は少しずつ下がっていく。

 石川は本当にすごいけど、彼がずっと第一線で投げ続けているということは、チームとしては本当にいいことなのかどうか......。石川を上回る先発投手が少ないのが現状です。

真中 42歳になってもまだ投げ続けている石川は本当にすごいけれども、チームとしては確かに課題ではありますね。

郄津 石川の場合はケガをしてローテーションの穴をあけることがないのは立派だし、きちんと登板間隔を空けてあげればしっかりと試合をつくってくれる。年間で15〜20試合を計算できるのは本当にありがたいし、頼りになりますから。

真中 野手陣に関しては、かなり我慢をしながらも長岡秀樹を開幕戦から使い続けたじゃないですか。これはすごいことだと思うんですけど、キャンプ中の時点で決めていたのか、それともオープン戦の結果を見て決めたんですか?

郄津 他の選手との兼ね合いはもちろんあるけど、決して守備は上手だとは言えなかったものの、きちんとバットを振れるところが魅力的でした。キャンプからオープン戦とずっと頑張っていたので、これはもう使うしかないと思って、シーズンの頭から使うことにしました。

【プロ3年目、長岡秀樹の台頭の理由】

真中 沖縄キャンプの時に松元ユウイチ作戦コーチから「長岡は面白いので、注目してくださいよ」って言われたんです。だから、かなり期待されているのは知っていたけど、まさかシーズンを通じてほぼフル出場してゴールデングラブ賞まで獲得するとは思わなかったですよ。

郄津 彼は、僕が監督に就任して最初のドラフトで獲得した選手なんです。バットを振れる点には早くから期待をしていましたけど、まさかプロ3年目でゴールデングラブを獲るとは思わなかったな(笑)。

 でもね、20歳前後の若い選手の吸収力はすごいですよ。試合前後にも森岡良介コーチがつきっきりでノックを打っていたけど、メキメキ上達していきましたから。先日の秋季キャンプでも、明らかに他の選手とは動きが違う。めちゃくちゃ上手だなって感じましたね。

真中 開幕直後は緊張のせいなのか、ちょっと動きが硬かったし、いろいろミスもあったけど、よくシーズンを通じて我慢して起用しましたよね。僕なら我慢できずに、途中で代えていたと思うもん(笑)。

郄津 まぁ、バッティングに対する期待はありましたから。たとえ数字が出なくても、思いっきりバットを振っている間はいい結果が出なくても使い続けようとは思っていました。

 でも、もしも疲れや気持ちの問題でバットが振れなくなって、打てる球も手が出なくなった時にはキッパリと代えるつもりでしたね。1割台まで打率が落ち込んだこともあったけど、そこからよく持ちこたえた。基礎体力があったんでしょうね。

真中 試合終盤のチャンスの場面でも代打を送らなかったじゃないですか。僕なら迷うことなく「代打、川端(慎吾)!」とアンパイアに告げていましたね(笑)。

郄津 こちらが割りきって育成、成長のために起用していた部分もあります。長岡には失礼な言い方になるけど、打てなくてもしょうがないや、という思いはありましたね。

 もちろん打ってほしいんだけど、仮に打てなくてもあれだけ思いきりスイングされるのはピッチャーにはすごくイヤなことだから。あとね、川端の調子があまりよくなかったっていうのもありましたけどね(笑)。

真中 確かに、2021年の川端だったら、長岡に代打を出す機会も増えていたかもしれないですね(笑)。それにしても、めちゃくちゃ成長しましたね。

郄津 守備に関してはセカンド・山田哲人、サード・村上宗隆の間に挟まれて、いろいろ勉強したことが大きかったと思いますよ。

 哲人もああ見えて、「ああしろ、こうしろ」と的確に指示を出すし、ムネ(村上)も決して守備は上手ではないけど、「声かけに行きなよ」とか「元気出していこうよ」とか、長岡にアドバイスを送っていましたからね。

【2022年の打線を振り返る】

真中 打線で言えば、ちょっと気になったのが山田哲人ですよね。キャプテンとしていろいろ大変だったと思うけど、なかなかシーズンを通じて波に乗ることができなかった。監督から見て、2022年の山田はどう思いますか?

郄津 もちろん、満足はしていないですよ。本人だって決して満足していないと思う。だけど、出塁率(.333)やOPS(.790)を見ると、哲人の場合は選球眼がよくてきちんとフォアボールを選ぶことができる。

 そんなバッターが四番・村上の前にいると、得点力はかなり上がります。だから、「三番・山田」は動かしたくなかったんです。でも、真中さんもよく知っているように、僕らが知っている山田哲人はこんなもんじゃない。「もっと、もっと」という思いは確かにありますけどね。

真中 確かに、山田はこんなもんじゃないですよね。彼にはまだまだ頑張ってもらわなければいけないし。あと、中村悠平が故障のために開幕に間に合わなかった。その点も、僕はちょっと不安だったんですけど、監督はいかがでしたか?

郄津 あのケガは本当に痛かったなぁ。結果的に開幕戦を古賀優大に任せて、その後は内山壮真が出てきて、彼らが成長するきっかけにはなったけど、開幕戦に中村がいなかったというのはチームにとってはすごく痛手でした。

 でも、ゴールデンウイーク(5月3日対阪神戦)には戻ってきてくれたし、チーム状況もいい時期だったので、スムーズにゲームに入ることができたのは幸いでした。

真中 外野陣に関しては、ドミンゴ・サンタナが故障して途中帰国したり、青木宣親の調子がなかなか上がらなかったりはあったけれど、山崎晃大朗やルーキーの丸山和郁が頑張ったりしながら進みましたね。2023年も外野手はほぼ固定ですか?

郄津 普通にやってくれればセンター・塩見泰隆、ライト・サンタナは固定できると思うので、あとはレフトですね。基本的には青木や山崎で、と思いますが、その他のアイディアもあります。

 守備力を求めるのか、足を求めるのか、打つほうを求めるのか? 考えなければいけないことはいくつもあるし、打順との兼ね合いもあるので、いろいろ考えてはいます。まだ言えないけど、ちょっと温めているアイディアもあるんです(笑)。

真中 おっ、いいですね。「これしか選択肢はない」というのではなく、いろいろなオプションが考えられるのは幸せなことですよね。

第2回<コロナ感染の大量離脱を振り返り「あの頃は本当に厳しかった」。ヤクルト郄津臣吾が真中満に明かす自宅療養中に考えていたこと>につづく

【プロフィール】
郄津臣吾 たかつ・しんご 
1968年、広島県生まれ。広島工高、亜細亜大を卒業後、1990年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。守護神として活躍し、4度の最優秀救援投手に輝く。2004年、MLBシカゴ・ホワイトソックスへ移籍。その後、ヤクルト復帰や、韓国、台湾のプロ野球、独立リーグ・新潟アルビレックスBCを経て、2012年に現役引退。ヤクルトの一軍投手コーチや二軍監督を務めたのち、2020年から一軍監督に就任。2021年は日本一、2022年はリーグ連覇を達成。

真中満 まなか・みつる 
1971年、栃木県生まれ。宇都宮学園、日本大を卒業後、1992年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。2001年には打率.312でリーグ優勝、日本一に貢献した。計4回の日本一を経験し、08年に現役引退。その後、ヤクルトの一軍チーフ打撃コーチなどを経て、監督に就任。15年にはチームをリーグ優勝に導いた。現在は、野球解説者として活躍している。