3月16日に発生した福島県沖地震で脱線した東北新幹線「やまびこ223号」の車両=2022年3月20日(写真:時事)

日本の鉄道が開業して150周年の「節目の年」だった2022年。コロナ禍による低迷が続いた鉄道各社の業績は一定の回復が進み、久しぶりの新たな新幹線として西九州新幹線が開業するといった話題がある一方、JR各社が地方ローカル線の収支や利用状況を公表し、赤字路線の現状に注目が集まった。近年深刻化する自然災害による鉄道の被災も相次ぎ、地震による新幹線の脱線も発生した。

鉄道開業から150年、そしてJR発足から35年でもあった2022年。1年間の鉄道をめぐる「光と影」を振り返る。

延長66kmの「西九州新幹線」開業

2022年の鉄道に関する最大のニュースといえば、9月23日の西九州新幹線・長崎―武雄温泉(佐賀県武雄市)間の開業だろう。新幹線が「悲願」だった長崎県は開業に沸く。これまで鉄道駅がなかった嬉野温泉(佐賀県嬉野市)や、長崎まで30分足らずで結ばれた武雄温泉なども新幹線による観光活性化などに期待する。

ただ、同線は延長わずか約66kmの全国最短の新幹線で、ほかの新幹線とは一切接続しておらず、今のところつながる見込みもはっきりしない「離れ小島」の路線だ。開業に合わせて廃止された在来線特急「かもめ」が直通していた博多―長崎間は、武雄温泉で新幹線と在来線特急の乗り継ぎが必要な「リレー方式」となった。このような形になったのは、武雄温泉から先、九州新幹線と接続する新鳥栖(佐賀県鳥栖市)まで約50kmの整備方式が決まっていないためだ。


博多―長崎間は武雄温泉駅で在来線特急(左)と新幹線(右奥)の乗り継ぎを強いられる(記者撮影)

国は武雄温泉―新鳥栖間の整備を、長崎―武雄温泉間と同じ「フル規格」で進めたい考えだが、地元の佐賀県は新幹線の整備によるメリットが薄いことからそもそも新幹線の建設を求めていないというスタンスで、議論は平行線が続いている。リレー方式はいつまで続くのか、何らかの合意に至る道筋は見いだせるのか。「見切り発車」で開業した西九州新幹線が抱える課題は大きい。

新幹線が延びる一方で、これまで地域経済を支えてきた地方在来線を取り巻く状況は厳しさを増す。国鉄末期の1980年代には合理化策として各地で赤字路線の廃止が進んだが、それから30年超を経て再び赤字路線の維持問題が本格化している。

2022年は、すでに線区別の収支や輸送人員などを公表しているJR北海道、JR四国、JR九州に続き、4月にJR西日本、7月にJR東日本が平均通過人員(1日1km当たりの平均利用者数)が2000人未満の線区について収支状況などを発表した。

東洋経済による集計では、線区別収支を公表していないJR東海を除くJR旅客5社のうち、平均通過人員1000人以下だったのは98線区。とくに少ないのはJR西日本・芸備線の東城―備後落合(ともに広島県庄原市)間の「11人」(2019年度)で、100円の収入を得るのにかかる費用を示す「営業係数」は2万5416だ。


2020年夏の豪雨で被災し一部運休が続くJR九州肥薩線の渡駅。同駅を含む八代―人吉間の平均通過人員は414人だ=2022年7月(記者撮影)

赤字ローカル線のあり方などを議論する国の検討会は7月、輸送密度(=平均通過人員)1000人未満の路線について、鉄道事業者や自治体の要請により国が主体的に関与して存続策や代替交通などを検討する協議の場をつくることが望ましいと提言した。今後、各地で本格的な協議が進むことになりそうだが、沿線地域には「廃止ありき」の議論を警戒する声も強い。

北海道新幹線の「並行在来線」問題

地方の在来線が抱える問題では、2030年度末に新函館北斗(北斗市)―札幌間の延伸開業を予定する北海道新幹線の「並行在来線」に関する動きも注目を集めた。

同新幹線の開業とともに、並行在来線の函館本線・函館―長万部―小樽間はJRから運営が切り離される。このうち長万部―小樽間約140kmについては3月、北海道と沿線9市町が全区間のバス転換で合意し、廃線が決まった。並行在来線の廃止は、北陸新幹線(長野新幹線)開業に伴い1997年に廃止された信越本線・横川―軽井沢間に次いで2例目となる。

課題は函館本線の長万部―函館間約148kmの扱いだ。北海道と沿線自治体の協議では、新幹線と接続する新函館北斗―函館間の存続を望む声は強いものの、30年間の収支が816億円の赤字と試算される全区間の存続は困難との見方だ。だが、同区間は貨物列車が1日に約50本も走る物流の大動脈。もし廃止されれば、北海道のみならず国内の鉄道貨物輸送に大きな影響を及ぼす可能性が高い。国は11月、北海道・JR北海道・JR貨物との4者による協議をスタートした。


冬の北海道を走るコンテナ貨物列車。函館本線長万部―函館間の存続問題は貨物列車の運行に大きく影響する(撮影:吉野純治)

近年、深刻さを増す自然災害による鉄道の被災。2022年も災害による不通が各地で発生した。

3月16日夜には、福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が発生。東北新幹線・福島―白石蔵王(宮城県白石市)間を走行中だった東京発仙台行き「やまびこ223号」の17両中16両が脱線した。営業運転中の新幹線の脱線は、2004年の新潟県中越地震で上越新幹線が脱線して以来2例目だ。地震では高架橋などの施設も被災し、全線で運転を再開したのは4月14日だった。また、福島―槻木(宮城県柴田町)間を結ぶ阿武隈急行線も大きな被害を受け、全線復旧まで約3カ月を要した。

8月初旬に東北地方を中心に多大な被害をもたらした豪雨では、JR東日本の複数のローカル線が被災。五能線は12月23日に全線で運転を再開したが、米坂線、磐越西線、花輪線、津軽線の一部区間は今も不通だ。津軽線の不通区間である蟹田(青森県今別町)―三厩(同県外ヶ浜町)間約28.8kmについては、JRが存廃を含む協議を求める意向を示している。9月の台風14号で被災したJR九州の日南線も南郷(宮崎県日南市)―志布志(鹿児島県志布志市)間で不通が続いているが、このうち南郷―福島今町(宮崎県串間市)間は2023年1月21日に運転を再開する予定だ。全線復旧は2023年春を目指している。

11年ぶり復活、地元が支えた只見線

一方で、長引いた災害運休から復旧した路線もある。6月10日には、2021年8月の豪雨で一部が不通となっていたアルピコ交通上高地線(長野県松本市)が全線で運転を再開。そして10月1日には、JR東日本の只見線が約11年ぶりに全線復旧した。


全線での運転を再開したアルピコ交通上高地線=2022年6月10日(記者撮影)


10月1日、約11年ぶりに復旧したJR只見線の沿線で横断幕を掲げて祝う地域住民ら=2022年10月1日(編集部撮影)

同線は2011年7月の豪雨で甚大な被害を受け、会津川口(福島県金山町)―只見(同県只見町)間27.6kmが不通となった。「秘境路線」として知られる同線はもともと利用者が少なく、被災前の2007年度のデータでは、不通となった区間の平均通過人員は63人。当初は廃線も危ぶまれたが、地元は鉄道での復旧を求めた。

その結果、復旧費用約90億円は福島県と会津地方の17市町村、国、JRが3分の1ずつ負担することで合意。さらに同区間は鉄道施設を福島県が保有する「上下分離方式」とし、年間約3億円と見込まれる維持管理費用も県と地元自治体が負担する形で復旧にこぎつけた。多額の費用を要しても、地域の「鉄道を守る」という覚悟が存続につながった。今後のローカル線のあり方、そして災害復旧を議論するうえで1つの事例となるだろう。

鉄道150年というアニバーサリーイヤーではあったものの、華やかな話題よりは「今後の鉄道のあり方」を問う出来事が多かった2022年。今後、日本の交通・経済において鉄道は何を担うべきなのか、本格的に問われる時代がすでに始まっている。


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(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)