【体験談】「摂食障害で痩せて死んでいくのは嫌だった」
摂食障害とは、食事に関連した行動に異常が起こり、心と身体に悪影響を及ぼしてしまう病気です。特に10~20代の女性に多く、食べ物を食べ過ぎる、逆に食べなさ過ぎる、といった症状が見られます。今回は食事を摂ることに強い抵抗感を覚え、過度なダイエットをしてしまう「摂食障害」と診断された、小針さんに話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
体験者プロフィール:
小針 彩乃
1997年6月11日生まれ。福島県福島市で生まれ育つ。福島県立橘高等学校、東北大学文学部社会学研究室卒業。現在は福島市内のITベンチャー企業で広報責任者及びイベントスタッフを担当している。中学2年生の冬からダイエットを開始。バスケ部に所属しながら食事制限と家でのランニングにより体重が8kg減少。見かねた学校の先生の助言で心療内科を受診し、その後回復。大学受験をきっかけに食事量が減る。大学合格後も進路や対人関係に悩み、食事がのどを通らず減量に陥る。2019年5月、大学4年生で休学を決め、入院。約半年間の入院を終え、大学に復帰、卒業して現在に至る。趣味はダンス。
記事監修医師:
別府 拓紀
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
まさか私が摂食障害……!?
編集部
摂食障害となったきっかけを聞かせてください。
小針さん
中学2年生の冬頃から、TVや雑誌の影響でダイエットをはじめました。食事を野菜やこんにゃくだけにして、1日3回のランニングと部活動のバスケットボールをする日々を送っていました。最初は軽い気持ちでしたが、体重がどんどん落ちていったんです。すると周りからも「痩せたね」と声をかけられるようになり、そのことに喜びを感じ、ダイエットを続けました。中学3年生の春におこなった身体測定では体重が8kgほど減っていました。
編集部
8kgも痩せると周囲から心配の声もあったのでは?
小針さん
身体測定で体重がかなり減っていたこと、部活動中に体力の消耗がみられたことで、顧問と保健の先生に呼び出されました。そこで私がダイエットしているかどうかを追及されました。私は以前からTVで摂食障害の存在は知っていましたが、自分が摂食障害になっていたことは、それまで気付きませんでした。先生に心療内科の受診を勧められ、そのときに自覚して大泣きしました。
編集部
摂食障害が判明したときの心境について教えてください。
小針さん
「このままでは身体にさまざまな悪影響を及ぼしてしまう」とわかり、自分の愚かさに悲しくなりました。親に暴言を吐いてしまったこと、子供を産めなくなるかもしれないというレベルまで自分の身体を痛めつけていたことを理解し、なんてひどいことをしていたのだろうと思っていました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
小針さん
まずは行動制限を言い渡されました。当時は運動強迫(運動していないと落ち着かない状態)があったので、運動を制限されることは苦痛でしたね。中学3年の夏には駅伝部に入部する予定でしたが、みんなと走ることもできませんでした。
編集部
セカンドオピニオンは受けられましたか?
小針さん
より多くの意見を参考にしたいと思い、何カ所か受診しました。
摂食障害と向き合う日々
編集部
摂食障害を改善するにあたり、どのような生活を心がけたのですか?
小針さん
まずはダイエットを辞めようと決意しました。このまま痩せて死にたくないし、行動も制限されたくない、健康になって運動したい、その一心で食事量を増やしました。給食は完食、夜ご飯の後もお菓子を食べ、外食をするなど、ダイエット時はできなかったことに挑戦しました。
編集部
食事量を増やしたとのことですが、はじめは「太ってしまう恐怖」があったかと思います。その恐怖にうち勝てたのはなぜでしょう?
小針さん
おっしゃるとおり、はじめは太る恐怖があり、胃腸の調子を崩すことも多々ありましたね。しかし「周りの人と同じ普通の生活をしたい」という一心で、なんとか食事量を増やした生活を続けられました。すると次第に精神も胃腸も安定し、中学3年生の夏には色々なものを食べられるようになりました。しかし、大学進学後に進路や人間関係などに悩んで、再発してしまい、入院することになりました。
編集部
治療に使った薬についても教えてください。
小針さん
現在服薬はしていませんが、入院時には、抗不安薬と睡眠薬を使用することがありました。抗不安薬を飲むと眠気と怠さがひどかったので、正直あまり飲みたくはありませんでしたね。睡眠薬も「依存性が強い」という思い込みがあり、一度しか使いませんでした。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
小針さん
母の存在が大きいですね。ときどきすれ違いが起きることもありますが、学生時代は私を病院に連れて行ってくれたり、当時通っていた仙台の病院にわざわざ新幹線で来てくれたりしていました。入院時は仕事帰りに毎日お見舞いに来てくれました。たまにぶつかることはあっても、いつも温かく見守っていてくれる存在で、常に私の心の支えとなっています。
編集部
現在、合併症はありますか?
小針さん
以前は肝機能不全がありましたが、現在は回復しています。ただ生理不順が続いているので、定期的に産婦人科へ通い、ホルモン治療をおこなっています。
編集部
症状の改善、悪化を予防するために気をつけていることはありますか?
小針さん
時間を決めて食事をとるようにしています。「お腹が空いていないから」と食事を抜いてしまい、ルーティンが崩れたり、生活習慣が乱れたりして症状が悪化した経験があるからです。だからこそ今は生活リズムを崩さぬよう、時間を決めて食べるようにしています。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
小針さん
退院して2年が経過しましたが、私はまだ低体重の範囲です。しかし栄養を取り入れる大切さやメンタルの保ち方を学んだことで、とても生きやすくなりました。同じ体重でも、闘病初期とは世界がガラリと変わって見えます。今後も自分と向き合いながら、ほかの摂食障害と闘う方々と一緒に歩んでいきたいと考えています。
摂食障害の方を優しく見守ってあげてほしい
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
小針さん
「今が辛くても必ず変われる。そのタイミングは来るよ。『もう治らないかも』なんて思うかもしれないけど、大丈夫。焦らずに少しずつ、一緒に進んでいこう」と言いたいです。
編集部
摂食障害を意識していない人にひとことお願いします。
小針さん
摂食障害は、傍から見れば理解できない部分も多いと思います。でも、どうか摂食障害の存在を否定せず、やさしく見守っていただきたいです。本人も必死で病気と闘っていますので。
編集部
ほかの摂食障害と闘っている方にアドバイスがあるとしたら、どんなことを伝えたいですか?
小針さん
私は摂食障害に絶対的な治療方法はないと思っています。栄養療法から改善できる方もいれば、カウンセリングなど心のケアから改善される方もいるでしょう。患者ごとに適した治療の仕方が変わってくるのです。だからこそ1つの治療法にこだわらず、さまざまなアプローチをすることが大事かなと思っています。心からなのか、身体からなのか、もしくは同時にケアするのか。それを考え、試していくことが大切だと思いますね。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
小針さん
読者の中に摂食障害の方がいましたら、どうか自分に優しくしてあげてほしいです。一番大切なのは自分を責めることでなく「自分がどうしたら生きやすいか」を考えることだと思います。身近に摂食障害の方がいるという方は、どうか温かく見守ってあげてください。本人は頭でわかっていても、気持ちと行動が一致しないときがあるのです。私もそうでした。しかし、優しく見守られている、そう思えるだけで不思議と心が落ち着けるという人はいると思います。
編集部まとめ
摂食障害になると、自分の体型を客観的に見ることが困難になります。スリムな体型なのに「自分はとても太っている」「もっとダイエットしなければいけない」と思い込んでしまうのです。だからこそ、周りのひとたちからはなかなか理解を得るのがむずかしい疾患だといえます。小針さんの「摂食障害の方を優しく見守ってあげてほしい」という言葉は、摂食障害を経験した小針さんだからこそ伝えられる、貴重なメッセージです。摂食障害の方の言動をあたまごなしに否定するのではなく、当事者に寄り添った対応を心がけることが望まれます。
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