長谷川万射さん

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皆さんは「乳がん」と聞くと、どのような印象をお持ちでしょうか?手術で乳房を切除しなければならない可能性がある病気といったイメージをお持ちの方も多いでしょう。また、乳がんは罹患率が40代後半から急増する比較的若い世代でも罹るがんと聞くと、「どんな人がなりやすいの?」「予防はできるの?」といった不安も感じます。今回は、タレント・モデルとして活躍されている長谷川万射さんと「乳がん」について乳腺外科の宮本先生に詳しくお話を伺いました。

長谷川 万射(タレント・モデル・歌手)

1996年生まれ。静岡県出身。女性ファッションモデル、歌手。1児の母。2012年から2015年までファッション雑誌『Ranzuki』の専属モデルとして活動。現在はI LOVE mama専属モデル。多くのファッションショーに出演。BMG公式通販サイト「ベストマートガールズ」WEBモデルや、様々なイメージモデルを務め、2015年に配信の『smile of tears feat.A-HOUSE』で歌手デビューを果たした。そのほかインフルエンサーとしても多岐に渡りご活躍される。

監修医師:
宮本 快介(乳腺科医)

2007年杏林大学医学部医学科卒。日本外科学会外科専門医。日本乳癌学会乳腺認定医。マンモグラフィ読影認定医(AS)。緩和ケアの基本教育に関する指導者講習会修了。杏林大学医学部乳腺外科学教室助教を務められ、その他、がん研有明病院や総合病院にて診療に従事される。医療法人社団恵仁会 府中恵仁会病院では健康リテラシー部長/カトレア館長として人間ドックや乳がん検診、啓蒙活動などの勤務を行った。

バストの病気を学ぶ。気になるその自覚症状とは

宮本先生

長谷川さんは乳がんの患者さん、乳がんになった方などをご存知ですか?

長谷川さん

私の身近にはいないかもしれません。

宮本先生

そうなのですね。そうすると乳がんがどういうものかというのは、例えばメディアとかニュースで見るだけであまりイメージは湧かないですか?

長谷川さん

以前見た映画かドラマに乳がんの患者さんが出てきて、胸がないみたいなシーンがあった事が記憶に残っていて、そのイメージがかなり強いかもしれないです。

宮本先生

乳がんになって、胸がなくなってしまう、というのは一般的な方のイメージだと思います。それでは、今までの生活で乳がんとは関係なしに、胸に関して何か疑問などはありますか?

長谷川さん

胸の張りが気になることはあります。乳がん以外にも胸の病気って何かあるのですか?

宮本先生

よく知られているのは、子育ての時の乳腺炎です。また、病気ではありませんが、生理周期の影響で胸が張るという症状が出る方もいらっしゃると思います。人によってはすごく痛くて、何か大きな病気が潜んでいるのではないかと心配になって外来受診される方は多くいらっしゃいます。乳腺症と呼ばれています。

長谷川さん

乳腺炎という病気は聞いたことがあります。乳腺炎はどのような病気なのですか?

宮本先生

乳腺炎は母乳が乳房の中で詰まってしまうと起きる病気です。重症になると、イメージとしては川がせき止められているような状態になって、母乳が乳房の中でどんどん溜まってしまいます。溜まるだけですとマッサージや赤ちゃんに吸ってもらって詰まりを解消できれば良いのですが、溜まり続けてそこに菌が入ること膿んでしまいます。そうすると腫れ上がってしまって、すごく強い痛みが出てしまいます。

長谷川さん

甘いものを食べ過ぎると乳腺炎になると聞いたことがあります。なので、入院中に甘いものを持って行かないようにしていました。

宮本先生

全部迷信です。本当の情報ではありません。

長谷川さん

ええ!? 迷信なんですね……驚きました。

宮本先生

乳腺炎の原因ははっきりしませんが、多くの患者さんが疲れている状態であるように思えます。例えば、疲れていると脂っこいものや甘いものを食べたくなりますよね。また、料理が大変だから、いわゆる店屋物や丼物、お惣菜などを買ってきて食べることもあると思います。そういったことから、甘いものを食べすぎると良くないという事が言われますが、直接的には全く関係ありません。

長谷川さん

そうなんですね!実際に膿が溜まってしまった場合の治療はどのようなことをするのですか?

宮本先生

腫れて痛みが続いてしまうので、膿を取るために、皮膚を切開して膿を出す手術を行います。

長谷川さん

切らないといけないんですね。治療の後は、授乳しても問題ないのですか?

宮本先生

問題ありません。治療をしている間でも授乳して大丈夫です。手術後、1番最初に赤ちゃんが吸ったときだけ少し膿が混じった母乳が出てくるかもしれませんが、赤ちゃんは、味が違うためか自分で吐くことができます。もし気になる場合は、母乳を最初だけ少し出して、その後に赤ちゃんに吸ってもらうと良いかもしれません。授乳して吸ってもらうことで切開していない部分の詰まりも解消される可能性があるので、「どんどん吸ってもらって」と指導をします。

長谷川さん

乳がんの場合は、胸の張りや痛みのような症状は出るのですか?

宮本先生

胸が張るという症状は、大体周期的なものですので、特に痛みが乳がんと関連することはほとんどないと言えます。

長谷川さん

へえ、なるほど。そうすると、乳がんは自分では気づけないものなのですか?

宮本先生

基本的に気づけないことが多いです。触って気づくことはありますが、乳房は生理周期の中で変化がある部位なので、それが病気なのかということを自分で把握することは難しいと思います。

長谷川さん

乳がんは、しこりができるという話をよく聞くので、「これしこりっぽい?」「違う?」みたいになることがあり、不安に思う事があります。

宮本先生

実際に、日常的に「これ、しこりかな?」と日常的に感じることはありますか?

長谷川さん

ありません。たまに、「どれがしこりなんだろう?」「骨かな?」と思う程度です。

宮本先生

「乳がん」の経験がない方やセルフチェックの方法を知らない方は、長谷川さんと同じで、どれがしこりかなんて分からないですよね。患者さんにもよく説明するのですが、乳腺組織そのものが生理周期によって硬くなったりします。つまり、胸が張る・張らないという症状で、胸が張っている時期に触ると、「しこりかな?」と感じることがあると思います。さらに、乳房は乳腺組織と脂肪組織が混ざりあっています。脂肪は常に柔らかいのですが、乳腺は生理周期によっては硬くなるので、硬さの違いから、しこりっぽいと考えてしまう事があります。

長谷川さん

なるほど。生理周期など時期によって触った感触が変わるのですね。

宮本先生

外来に来られる方のほとんどが実際に超音波(エコー)検査などで診ると、乳腺組織の端や脂肪組織と混ざりあっている部分を腫瘍と勘違いされている場合が多いですね。もちろん本当に腫瘍がある方もいるので、時間が経過してからもう1回触ってみて、やはりしこりが触れるのであれば、疑ってみてもよいと思います。反対に、しこりなのかどうか分からなかった場合は一旦様子を見て良いと思います。

若年化? 確率上昇? 若い世代でも安心できない今の乳がん

長谷川さん

乳がんの患者さんはどのくらいいるのですか?

宮本先生

国立国際医療研究センターの統計によると、女性でがんの診断を受けた方が年間で約43万人、そのうち20%強の約10万人の方が乳がんの診断を受けています1) 。

長谷川さん

そんなにいらっしゃるんですね。思っていたよりも多く感じます。

宮本先生

乳がんは、実は男性もなる病気なんです。1%程度なので99対1の割合ですが、例えば乳がん患者が10万人とすると、その中に男性の乳がん患者も1,000人程度はいるという事になります。専門病院で診察していると、1年間に何人かは男性の患者さんもいらっしゃいます。しかし、女性の乳がん患者さんが圧倒的に多いという現状ですので、乳がんに関してある程度の知識は持っておく事で、しこりや胸の張りなどが気になった時に焦らず行動できると思います。

長谷川さん

若い人でも乳がんになる可能性ってあるのですか?

宮本先生

統計的には40歳未満の方は全体の約5%以下で、40代後半から患者さんの数は増えてくるという傾向があります。2019年の統計では、1980年や2000年の統計と比較して、とくに40代以降の患者数が増加している一方で、20~30代でも患者さんは増えています。それだけ乳がんは身近な病気になっているという事です。

長谷川さん

そうなんですね。私も乳がんについて、知っておく必要があるという事ですね。

宮本先生

その通りです。若いから乳がんについて知らなくて良いという事はなく、絶対に知っておいた方が良いです。私たちも一昔前は、20代の患者さんであれば「おそらく、乳がんではないだろう」と思って診察していましたが、今は、がんの可能性も十分にあると考えながら診察しなくてはいけなくなりました。

長谷川さん

なるほど。どうして40代以降で増えてくる傾向にあるのですか?

宮本先生

基本的に年齢が上がると、乳がんに限らずがんになりやすくなります。加えて、生活習慣ががんのリスクに影響することが、ある程度分かってきました。まずはタバコです。喫煙者で1番多いのは肺がんですが、肺がんに限らず全てのがんのリスクを上げることになります。これは受動喫煙でも同じですので、気をつけなければいけません。

長谷川さん

やはりタバコは良くないのですね。

宮本先生

次にアルコールです。最近は、量に比例して病気のリスクも増加すると言われています。さらに、リスクを増やさないものとしては、減塩、野菜果物をきちんと摂ることや、運動をして適正体重を維持することでうが、これらはがんに限らず健康のためにはとても重要です。

長谷川さん

「健康のために……」のような話でよく聞く気がします。乳がん特有のリスクになるものは何かあるのですか?

宮本先生

やはり生活習慣に気をつけることが重要です。お酒と体重が乳がんには深く関係しています。不思議なことに、欧米人の場合は、閉経前の女性の肥満はリスクを下げ、閉経後の肥満はリスクを上げると言われています。しかし、日本人の場合は閉経前後いずれも肥満は乳がんのリスクを上げる可能性があるとされています。

長谷川さん

体重は健康のためにも気をつけなければいけませんよね。

宮本先生

ぜひ気をつけていただきたいですね。あとは、低用量ピルの使用も少しリスクを上げる可能性があるとされています。しかし、ピルは、生理周期を整えたり、体調やその方のライフステイルにとって、どうしても必要とされたりする場合があります。また、子宮内膜症の治療でも重要な治療薬ですので、その人によってメリット・デメリットを考えながら使用する必要があると思います。さらに、閉経後のホルモン補充療法というものも、低容量ピルと同様に、メリット・デメリットを考えながら行う必要があります。

長谷川さん

なるほど。すごく勉強になります。反対にリスクを下げるために何か出来ることなどはあるのですか?

宮本先生

はい。出産、授乳の期間がある方は、その回数や期間が長いほど、リスクは下がると言われています。理由としては、妊娠、出産の期間に乳がんになると、子育てや赤ちゃんへの影響が出るので、その期間はホルモンの影響で乳がんになりにくい体に変わるんです。
あとは、体を動かすことでリスクが下がるということが分かっています。動かしすぎは良くないですが、あまり深く考えずに健康のために体を動かすイメージで運動を行なってもらうと良いと思います。

長谷川さん

へえ、そんな体の機能があるんですね。運動も大事ですよね。では乳がん予防にいい食べ物ってありますか?

宮本先生

乳製品や大豆製品がリスクを下げる可能性があると言われています。世の中には、乳製品が乳がんのリスクを上げるのではないかと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそんなに影響はなく、反対にリスクを下げる可能性があります。大豆製品はイソフラボンという女性ホルモンに似たような物質が多く含まれています。15年ほど前まではイソフラボンを摂る方が乳がんのリスクを上げるのではないかと言われていましたが、今では反対にリスクを下げる可能性があるとされています。

長谷川さん

若い年齢で、乳がんになる人は増えているのですか?

宮本先生

2003年生まれの女性が、生涯で乳がんになる確率は約5.5%、約18人に1人が乳がんになる、というデータがあります。これが、2018年生まれの女性の場合は約11%、約9人に1人が乳がんになると言われるようになりました。なので、若い人が乳がんになるというよりも、若い年代の人の乳がんになる確率が上がっているという事です。つまり年々、乳がん検診の必要性は上がっているのです。

長谷川さん

そうなんですね。どうして乳がんになる確率が上がっているのですか?晩婚化や食事なども影響しているのですか?

宮本先生

実は、晩婚化は直接の問題ではありません。晩婚になると、妊娠、初産の年齢が遅くなり、出産の回数も減ってしまいますよね。結果として少子高齢化になり、妊娠、出産、授乳の期間が減ってしまうので乳がんになるリスクが上がるということです。食生活に関しては正確に見ることができないので、影響しているかの明言はできない状況だと思います。

「乳がんは治る病気」セルフチェックで早期発見を目指す

長谷川さん

今までセルフチェックはあまりしたことがないのですが、いつしたら良いのですか?

宮本先生

基本的にはいつでも良いです。生理後の数日経った、胸の張りがなくなった時期が望ましいですが、例えば入浴の時、下着の付け外しの時、寝た時など、ご自身で乳房が気になった時に、鏡の前などでチェックをする程度で良いと思います。

長谷川さん

気になった時で良いのですね。どのようにチェックするのですか?

宮本先生

乳房を触って確認する方法があります。あまり難しく考えず、まんべんなく触ってみて、明確に「かたまり」を感じるかどうかかがポイントです。実は見た目も大事で、皮膚の表面に凹凸や色の変化がないか、乳頭や乳輪に変化はないか、分泌物はないか(特に赤や黒色)、を見ていただくと良いと思います。

長谷川さん

触る事と見る事でチェックをするのですね。しこりの出来やすい場所などはあるのですか?

宮本先生

乳房を5ヵ所に分割(A :内側上部、B :内側下部、C :外側上部、D :外側下部、E :乳輪部)して考えるのですが、「C :外側上部」が最も多く約4割とされています。しかし、乳腺があれば乳がんになる可能性はあるので、外側上部以外の場所にできる場合ももちろんあります。

長谷川さん

しこりなのかどうかよく分からないという事があるのですが、触って分かるのですか?

宮本先生

なかなか分かりづらいため、私がお勧めしている感触を試す方法があります。ティッシュ1枚とタオルを用意して、ティッシュを1/4ぐらいに切って丸めると、大体1.5cm程度となり、早期の乳がんと同じくらいの大きさになります。その上に2-3回折り曲げたバスタオルを乗せて触った時の感触が、皮膚から浅い部分にできた乳がんを触診した時の感触と似ているのです。

長谷川さん

なんとなく触っているだけだと分かりにくいですね。

宮本先生

そうなんです。感触は一般的には硬くて表面がごつごつした感じと言われていますが、皮膚から深いところにできた場合は、医師でも分かりにくいです。何か気になるものを感じたら、外来受診して、乳腺専門の医師に診察してもらい、超音波(エコー)検査などをすることが重要です。

長谷川さん

乳がん検診を受けたことは無いのですが、どのようなものなのですか?

宮本先生

日本だと40歳以上、欧米だと45歳以上の女性で2年1回、マンモグラフィーの検査を行うことが推奨されています。マンモグラフィーは、縦からと横から乳房を挟んでレントゲンを撮り、3次元で乳房を診る検査です。世界的に推奨されている検査なのですが、乳房を挟むと痛いので、嫌がる女性が多いようです。

長谷川さん

最近は痛くないマンモグラフィもあると聞いたのですが……

宮本先生

昔はとにかく圧力をかけて挟んでいましたが、最近は人によって乳房の形、大きさ、厚み、乳腺量も違うので、それぞれの人に合わせて圧力を調整するようになったので、痛みを感じる方が少し減ったという事です。若い方で、どうしても痛いのが嫌だという場合は、超音波(エコー)検査を受けていただくことをお勧めします。乳がんは進行が遅いのですが、早く見つかれば、それだけ高い生存率が期待できます。つまり、乳がんは早期発見が重要となります。ステージ0-1という早期の状態で発見された場合の10年生存率は90%以上になります。

長谷川さん

早期発見で生存率が上がるのですね。ありがとうございます。

もし乳がんでバストがなくなったら?女性なら絶対気になる“乳房再建”の基礎知識

長谷川さん

乳がんの手術をするとバストがなくなってしまうイメージなのですが、なくなってしまったらそのままなのですか?

宮本先生

乳房再建という方法があります。一般的な方法としては、シリコンインプラントを使用して乳房を形作る方法です。もう1つの方法として、自家組織(自分の体の一部分)を使用して行う方法です。自家組織を取る場所は概ね2カ所あり、広背筋(背中の筋肉)と腹直筋(お腹の筋肉)なのですが、体の中を通して乳房を形作ります。自家組織を使用する場合は、傷が大きくなってしまい、入院期間が長くなる事がデメリットですが、形や硬さの満足度は高いです。

長谷川さん

脂肪ではなくて筋肉を使うんですね。どこの病院でも可能なのですか?

宮本先生

乳房再建をする事まで考えて乳がんの手術を受けたい方は、乳腺外科と形成外科の医師がいる病院を受診すると良いと思います。ほかにも、装着式の人工乳房といって、オーダーメイドで作って、温泉やボディーラインが出る服を着るなど、必要な時に一時的に着けられるものもあります。

長谷川さん

乳房再建の手術は高額なのですか?

宮本先生

乳がん術後の乳房再建は保険適用なんです。再建術自体は乳がんの治療ではないのですが、国が女性の乳房の重要性を考えて、保険適用になったことは画期的だったと言われています。

長谷川さん

それはすごくありがたいですね。でもまずは乳がんにならないようにする事が大事ですね。

宮本先生

その通りですね。やはり、まずは乳がんにならないための生活習慣と、乳がんの早期発見ができるよう定期的に検診を受けることを強くお勧めしたいです。

長谷川さん

すごく勉強になりました。ありがとうございます。20代でも乳がんになる可能性はありますし、年々なる確率も上がっているということなので、皆さんにも乳がんは身近な病気だと思っていて欲しいと感じました。乳がんは早期発見、早期治療すれば治る病気なので、定期検診をぜひ受けてほしいと思います。

編集後記

子育ての経験がある方ならば一度は耳にした事のある乳腺炎のお話から、乳がん予防、検診、乳房再建に至るまで大変勉強になりました。若いからと言って決して安心はできません。乳がんは「早期発見・早期治療」で治る病気です。これを機にご自身の体について考え、乳がんを正しく理解するきっかけとなれば幸いです。

※1) 国立研究開発法人国立がん研究センター「がん統計」
https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html

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