「ジュベール症候群(指定難病177)」の兆候となる症状はご存知ですか?
ジュベール症候群は遺伝子異常による先天性疾患で、国の指定難病に登録されています。
多くの場合、乳児期早期に発見されますが、聞き慣れない病名に戸惑う親御様も多いことでしょう。
本記事では、ジュベール症候群の症状・原因や治療法をご紹介します。あわせて、余命や日常生活で注意すべきポイントにも触れています。
ジュベール症候群を深く知り、早期発見や適切な治療につなげるためにも、ぜひ最後までご覧ください。
ジュベール症候群の特徴
ジュベール症候群とはどのような病気なのか教えてください。
ジュベール症候群は遺伝子異常によって起こる先天性疾患です。1969年にカナダのM.ジュベールによって報告されたことから、この名がついています。症状は多岐にわたり、あらわれる種類・程度は個人差が大きいのが特徴です。劣性遺伝する病気で、発症に至るのは未発症の両親から異常な遺伝子を1個ずつ受け継いだ子供と考えられています。
発症者は新生児8万人~10万人に1人と指摘されていますが、確かな発症率は分かっていません。日本国内の患者数は、2015年の調査時点では100人と推定されています。
代表的な症状を知りたいです。
症状ではありませんが、特徴的なのは小脳虫部の欠損です。小脳虫部は小脳の中心にあり、体幹の平衡感覚を司る器官です。具体的な症状としては、次のようなものがあります。精神・知能障害
運動障害
呼吸の異常(過呼吸・無呼吸)
眼球の運動の異常
視覚障害
腎障害
肝機能障害
痙攣
指の形態異常
精神運動発達の遅れはほぼすべての患者にみられます。腎障害は進行性であることが多く、幼くして人工透析が必要になるケースや、腎不全で亡くなるケースも少なくありません。また、ジュベール症候群では顔貌に次のような特徴があらわれます。
額が広い
弓なりの眉
両目が離れている
瞼が垂れ下がっている
耳が低い位置にある
口が三角形
いつ、どのような兆候が現れますか?
多くの場合、症状は生後1~2ヶ月の乳児期早期であらわれます。周囲が比較的気づきやすい兆候は、運動失調・眼球の運動の異常・呼吸の異常です。たとえば新生児で次のような状態に当てはまる場合は、ジュベール症候群が疑われます。首が据わらない
寝返りや身動きをせず、じっとしている
手を握っても握り返さない
目が合わない
表情が動かない
黒目が上下左右に細かく震えている
呼吸が速い・遅い
症状の出現時期・種類・程度は人によってバラつきがあります。症状が軽い方であれば、兆候があらわれていても、周囲がすぐ気づけないかもしれません。
ジュベール症候群になる原因を教えてください。
ジュベール症候群の原因は遺伝子異常です。具体的には、繊毛に関わる36個の遺伝子の異常が報告されています。なぜ遺伝子異常が起こるのかは解明されていません。ジュベール症候群に関連する病気はありますか?
ジュベール症候群に関連する病気は次の通りです。有馬症候群
セニオール・ローケン症候群
COACH症候群
口-顔-指症候群
上記の病気・ジュベール症候群・小脳虫部の欠損・精神運動発達などの症状を総称して「ジュベール症候群関連疾患」と呼ぶこともあります。
ジュベール症候群の検査と治療方法
どのような検査で診断されますか?
有馬症候群を除き、ジュベール症候群関連疾患の診断はDefinite・Probable を対象として行われます。Definite:精神運動発達遅滞・(主に乳児期の)筋緊張低下または運動失調の存在あるいは既往・頭部MRI所見でMTSを有する脳幹や小脳虫部の形成異常が見られる場合
Probable:精神運動発達遅滞・(主に乳児期の)筋緊張低下または運動失調・異常な呼吸(無呼吸・多呼吸・失調呼吸)・頭部 MRI所見でMTSはないが小脳虫部の形成異常がある場合
上記の症状があり、かつ下記の病気が認められない場合はジュベール症候群の可能性が高まります。
アーノルド・キアリー奇形
ダンディー・ウォーカー症候群
コーガン症候群
遺伝性及び孤発性小脳形成異常
くも膜嚢胞
脊髄小脳変性症
上記のような病気とジュベール症候群を見分けるには、次のような検査が行われます。
MRI検査
CT検査
網膜電位
血液検査
脳波検査
尿検査
染色体検査
腹部エコー検査
代表的なのは脳のMRI検査です。MRI検査とは、磁気を利用した機械で脳の様子を撮影する方法です。
治療方法が知りたいです。
病気を根本的に治療する方法は確立されていません。この病気は、発症原因や病態が不明であるためです。そのためジュベール症候群の治療法は、原則として「対症療法」となります。対症療法とは、各症状の軽快を目的とした治療方法です。たとえば精神運動発達の遅れにはリハビリ・療育によって対処します。
また、この病気では進行性腎障害を合併することが非常に多いです。腎障害を放置すると、腎不全などに発展して命を落とすこともあります。
そのためジュベール症候群の治療では、腎障害の治療も並行して行われることがほとんどです。代表的な治療法は透析ですが、必要があれば腎移植が選択されることもあります。
難病なのでしょうか?
ジュベール症候群関連疾患は国の指定難病177番に登録されています。177番にはもともと有馬症候群が登録されていましたが、平成30年4月より有馬症候群を含むジュベール症候群関連疾患に変更となりました。ジュベール症候群の予後と日常生活での注意点
症状は改善しますか?
ジュベール症候群そのものを治すことはできません。一方で、各症状については、適切な対症療法によって改善できる場合もあります。たとえば首が据わらない・自力で座れない・歩けないなどの問題は、身体機能訓練を受けることで、ある程度の改善が期待できます。精神・知能の発達の遅れについては、個々の成長にあわせた療育が有効です。
目が見えづらい場合は、メガネの着用や斜視手術を検討してください。1つ留意していただきたいのは、ジュベール症候群の方は健常な方に比べると心身の発達がスローペースである点です。すぐには治療の効果が感じられないこともあるため、本人はもちろんご家族もくじけそうになるかもしれません。
しかし諦めずにコツコツと治療を続けて、少しずつ症状が改善されたというケースは多数存在します。症状を軽くするには、地道な治療を続けていくことが大切です。
ジュベール症候群と診断された場合の寿命(余命)を教えてください。
余命は個人差があり、一概にはいえません。発症者の寿命に大きな影響を与えるのは合併症です。たとえば重篤な腎障害を合併して腎不全に陥り、それが原因で亡くなる小児は少なくありません。年齢にかかわらず、合併症である肝臓障害・呼吸器系の異常などが原因で死に至ることもあります。一方で、合併症・症状を適切にコントロールできれば、余命を長く保つことも可能です。たとえば透析・腎移植を受けて成人中年期まで余命を保ったケースが報告されています。
日常生活での注意点を教えてください。
日常生活上の注意点は、それぞれが持つ障害・症状によって異なります。たとえば進行性の腎障害がある場合は、塩分・タンパク質・ミネラルを制限した食事を心がける必要があります。また、多尿による脱水にも注意しなければなりません。小児の場合は、腎不全による体調不良を周囲にうまく伝えられないことがあります。急変にいち早く気づくためにも、周囲が日頃から体調・気分の変化などに気を配っておくことが大切です。
ジュベール症候群では、眼球運動の異常によって視覚障害があらわれるケースも多くみられます。目が見えにくい場合は、転倒・ケガを防ぐような生活環境を整えることが重要です。
たとえば視覚障害がある小児は、机や椅子の角に顔をぶつけたり、コードに足を取られて転倒したりするリスクがあります。思わぬケガを防ぐためにも、家具の高さの調整や、床に余計な物を置かないなどの対策が必要です。
運動失調による歩行障害がある場合は、家具での掴まり立ちが多くなります。家具のグラつきによる転倒などを防ぐためにも、床置きの家具は、できる限り固定しておきましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
ジュベール症候群が疑われる場合は、すぐに病院で診てもらいましょう。この病気の発症者は腎臓障害を合併していることが少なくないためです。腎障害を放置すると、幼くして腎不全から死に至ることもあります。命を守るためにも、発症が疑われた時点で適切な治療を受けることが大切です。
しかし、腎臓障害自体は外から気づきにくい病気です。そのためジュベール症候群かどうかを判断するには、その他の症状に気を配る必要があります。気づきやすい症状は発育の遅れ・眼球運動などで、多くの場合、乳児期早期からあらわれ始めます。もし我が子に少しでも気になる症状がある場合は、放置せず、一度病院に診せてください。
編集部まとめ
ジュベール症候群は遺伝子異常による先天性疾患です。発症原因・病態は解明されておらず、有効な治療法も確立されていません。この病気ではさまざまな症状があらわれますが、適切な治療を受ければ、ある程度の改善も見込めます。できる限り症状をコントロールするためにも、発症が疑われる時点で医療機関を受診してください。
参考文献
ジュベール症候群関連疾患(難病情報センター)
指定難病(厚生労働省)