【闘病】温まると痒みが出たのが最初 難病「特発性後天性全身性無汗症」とは
特発性後天性全身性無汗症は、「後天的に明らかな原因がなく汗をかくことができなくなり、血圧が低くなるなどのほかの自律神経異常および、神経学的異常を伴わない疾患」と定義されています。指定難病で、まだ明らかになっていない事も多い疾患です。そんな難病をステロイドパルス療法で乗り越えたという中村さんに、これまでの話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年1月取材。
体験者プロフィール:
中村 洋太
東京都在住、1987年生まれ(独身)。診断時の職業はフリーライター。2019年1月頃に特発性後天性全身性無汗症を発症。同年5月に大学病院で正式に診断される。三度にわたる入院治療により、2019年7月、ようやく汗が出るようになる。その後サウナやランニングで汗腺機能改善のリハビリを行いつつ、再び日常生活を送れるようになった。現在は投薬もなく、趣味のフットサルや筋トレを楽しみながら健康な日々を送っている。
記事監修医師:
後藤 和哉(京都大学医学研究科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
特発性後天性全身性無汗症の診断に至った経緯
編集部
特発性後天性全身性無汗症に気がついたきっかけは何でしたか?
中村さん
2019年1月頃、厚着で暖房の効いたカフェなどに入ったり、お風呂に入ったりすると、身体が痒くなることがありました。翌月には原因不明の蕁麻疹が頻繁に出て、そのたびに猛烈な痒みに襲われました(後日、特発性後天性全身性無汗症に併発することの多い「コリン性蕁麻疹」だと判明)。
編集部
たしかに、普通ではないですね。
中村さん
3月にはフットサルの最中、全身に蕁麻疹が出て近所の皮膚科に行きましたが、「蕁麻疹の多くは原因がわからないんですよ」と言われ、お薬を処方してもらいましたが、その薬は効きませんでしたね。そして翌4月、サウナ入浴中に蕁麻疹が出て、汗が全く出ていないことに気付きました。インターネットで「汗が出なくなる病気」を調べて「特発性後天性全身性無汗症」を疑い、専門医のいる大学病院を受診することにしました。
編集部
診断のため、どのような検査を行いましたか?
中村さん
発汗の有無と部位を調べるための「ミノール法」という検査を受け、身体の約97%に発汗がみられないことが判明し、「特発性後天性全身性無汗症」と診断されました。そのほかに、交感神経皮膚反応検査や皮膚生検なども受けました。重症例ではうつ熱によって熱中症になってしまう人もいる疾患なのだそうです。
編集部
病気が判明した時、どのような心境でしたか?
中村さん
「まさか自分が難病になるなんて」と思った反面、長い間病名がわからず不安だったので、ようやく病名がわかりホッとした気持ちも大きかったですね。なってしまったものは仕方がないので、どうしたら治せるのか、どうしたら少しでも快適な生活を送ることができるのかを考えました。
編集部
病気が判明した時、家族や周囲の反応はどうでしたか?
中村さん
家族も「まさか」という反応でした。コリン性蕁麻疹の症状に関しては自分にしか理解できない辛さがあったため、説明しても伝わり切らない部分がもどかしかったです。
編集部
医師から治療についてはどのような説明がありましたか?
中村さん
「ステロイドパルス療法」なら症状改善が見込めるかもしれない、と言われました(監修医註:ステロイドパルス療法は全員に効くわけではなく、効かない人もいる)。月に1度しか受けられないけれど、3回程度で回復する人が多いとも言われました。
編集部
治療にはどのような薬を使いましたか?
中村さん
ステロイドパルス療法でメチルプレドニゾロンを使い、痒みが出たときにオロパタジン(抗ヒスタミン薬)を飲みました。
編集部
入院中はどのような気持ちでしたか?
中村さん
最初は、初めての入院で不安でした。大学病院のすぐ近くのカフェの外出が許可され、そこで読書をしていました。
編集部
治療による副作用はありましたか?
中村さん
不眠症、味覚障害、むくみ、筋肉痛、便秘などが長いときには1~2週間続きましたね。
情報収集や心の癒しはSNSでした
編集部
病気の情報収集はされましたか? どのようにされましたか?
中村さん
ネットやTwitterで検索しましたが、医師による病状と治療の説明が多く、病気の理解には役立つものの、心の癒しにはなりませんでした。
編集部
病気の情報収集の際にどのような情報が欲しいと思いましたか?
中村さん
インターネット検索では体験談はほとんどありませんでしたが、Twitterに同じ病気の人が数名ツイートしていて、「どんなときに辛くなるか」などの話題で「わかる~」と共感できる情報がありがたかったですね。
編集部
医師や看護師などの説明は十分でしたか?
中村さん
はい。入院した大学病院の先生方は、病状や治療について十分に説明してくれました。そして、とても話しやすい雰囲気でした。
編集部
医療関係者に望むこと、伝えたいことはありますか?
中村さん
街の皮膚科でもこの病気の知見、理解が進んでほしいです。コリン性蕁麻疹を見たら、この特発性後天性全身性無汗症を疑ってほしいと思います。
異変を感じたらまずは病院へ行くことが重要
編集部
治療開始後、生活、仕事それぞれにどのような変化がありましたか?
中村さん
ちょっとしたストレスにも身体が反応して蕁麻疹が出るので、仕事はすべて中断しました。フリーランスだったため収入がなくなり、精神的に辛かったです。
編集部
治療中の心の支えとなったものは、何でしたか?
中村さん
読書です。とにかく今は本を読む時期だと決めて、日中はひたすら読書をしていました。そのおかげで、病気で苦しんでいる「今」を無駄な時間だとは思わなかったですね。
編集部
もし昔の自分に声をかけるとしたら、どんな助言をしますか?
中村さん
異変に気付いた瞬間に、まずは近くの病院へ行くこと。早く治療すれば、回復も早くなると思います。また、原因は不明であるものの、ストレスは大きく関与しているようなので、なるべくストレスのかかる仕事や働き方はしないように。
編集部
現在の体調はいかがですか?
中村さん
現在は、ほぼ100%問題のない状態まで回復しました。生活を制限されることはなく、投薬もありません。仕事も問題なくできています。
編集部
あなたの病気を知らない方へ、一言お願いします。
中村さん
この病気はまだ原因が不明ですので、誰でもなる可能性があるのだと思います。個人的には日頃からよく汗をかく習慣が大切だと思います。入浴でしっかり汗を出すことも病気の予防につながるのではないかと思っています。
編集部
ほかに伝えたいことなどがありますか?
中村さん
この数年、ネットでも同じ病気の方の闘病体験なども増えてきました。病気に苦しんでいる方には心の癒しにつながると思いますので、「特発性後天性全身性無汗症ブログ」などで検索してみてください。
編集部まとめ
今回お話をお聞きして、ネットで闘病記がなくても、SNSで同じ病気で悩む方々と繋がり、共感することで心を落ち着かせることができるのだとわかりました。身近な診療所では今回のような珍しい病気の診断がすぐにできないことが多いので、原因不明である時はすぐに専門医のいる大学病院を受診するようにしましょう。
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