「心膜炎」になると現れる症状はご存知ですか?
心膜炎は心膜という心臓を包む膜が炎症を起こすことによって胸の痛みを発症する疾患です。あまり聞き慣れない病名だと感じる方が多いかもしれません。
あるいは胸の痛みを感じることと心臓部分の疾患ということで、心筋梗塞などの心臓病との関連を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは心膜炎の症状や原因について詳しくみていき、そのリスクについても解説していくことにします。治療方法や予防方法もご紹介していきますので、この機会に心膜炎についての知識を身につけてみてはいかがでしょうか。
心膜炎の症状と原因
心膜炎とはどんな病気ですか?
心臓を包む硬い膜を心膜といいます。この膜に炎症を起こした状態が心膜炎です。心膜は心臓の働きを保護するために2層の膜で構成されています。この2層の膜と膜の間には心膜腔と呼ばれる隙間があり、心膜腔には心臓の動きによる摩擦を軽減するため心膜液という少量の液体で満たされています。心膜炎になるとこの心膜液が過剰に溜まり、それによって症状が現れるのです。
心膜炎にみられる症状を教えてください。
心膜炎には急性心膜炎と慢性心膜炎の2種類があり、症状にもそれぞれ違いがあります。急性心膜炎の初期の段階では風邪に似た症状が出て、喉の痛み・咳・発熱・嘔吐・下痢などが現れてくるでしょう。その後に心膜炎特有の症状として胸の痛みが出てくるようになります。さらに症状が進むと心臓が圧迫され、急性心筋炎・心不全・血圧低下・意識障害などが引き起こされて、最悪の場合死に至ることもあるでしょう。
一方の慢性心膜炎では息切れ・咳き込み・疲労感などの症状が継続的に現れます。慢性心膜炎は急性心膜炎の再発を繰り返すことにより慢性化してしまった心膜炎です。
心膜炎を引き起こす原因は何ですか?
心膜に炎症が起き、心膜液が過剰に溜まってしまうことによって心膜炎となりますが、急性心膜炎の場合はそのほとんどがウィルスの感染によるものです。しかし心膜炎を発症する特定のウィルスがあるというわけではなく、およそすべてのウィルスが急性心膜炎の発症原因となる可能性があります。心膜炎の原因はウィルス以外にも細菌への感染・膠原病・自己免疫性疾患・尿毒症・腎不全その他の疾患や、特定の薬などが確認されました。慢性心膜炎の原因は前述の急性心膜炎の慢性化の他に、がんや甲状腺機能の低下などが主なものです。
なお急性心膜炎、慢性心膜炎のどちらも原因を特定できないケースがあります。
インフルエンザ等のワクチン接種後に発症することもあると聞いたのですが…。
インフルエンザ等のワクチン接種によって心膜炎を発症することはごく僅かではありますが事実です。これからの季節はインフルエンザワクチンを接種する機会も多くなるでしょうし、またワクチンといえば今後も複数回摂取することとなる新型コロナワクチンにおいても心配な方もいるかと思われます。ワクチン接種を原因とする発症は心膜炎に限らず心筋炎を発症するケースもありますが、どちらも発症する頻度はごく稀です。また発症したとしても症状も軽くすむことがほとんどでしょう。
こういった状況をふまえてワクチン接種によるメリットとデメリットを考えた場合、接種でのデメリットより接種したことによるメリットの方が大きいと考えられています。
心膜炎になりやすい人の特徴はありますか?
心膜炎の原因についてで触れてきたように、心膜炎の発症はウィルス感染によるものがほとんどですが、一部では他の病気を起因とする発症も見受けられます。こういった発症例を踏まえてみると心膜炎になりやすい人の特徴としては、かねてから病気の治療をしている、あるいは先天的に病気をもっていたり体の免疫が低下している状況などが挙げられるでしょう。こうした特徴に当てはまる人には発症のリスクがあるだけでなく、発症したのちに慢性化する恐れもあるので予防にも力を入れて十分に注意したいものです。
心膜炎のリスクと治療方法
心膜炎は命にかかわるリスクはありますか?
どんな病気でも症状が軽くすめばいいのですが、心膜炎の症状を考えた場合には残念ながら命にかかわるリスクがないとはいえません。症状が軽ければ風邪となんら変わらない病気なので、実際に風邪と思われたまま治癒してしまうことも少なくないと思われます。しかし症状が悪化すると急性心筋炎、心不全などを引き起こして最悪の結果を招いてしまう可能性があるのです。そのような結果を招かないようにするためにも早期の診察と治療が必要となります。
「心膜炎かも…」と思った場合、何科を受診したら良いのでしょうか?
前述のように、心膜炎の初期の症状は風邪の症状に似て喉の痛み・咳・発熱などがあります。風邪と違う症状としては胸の痛みがあることが挙げられるでしょう。他の病気の可能性も考えられますが、もし症状に胸の痛みがあった場合は心膜炎の可能性もあるので循環器内科を受診してください。心膜炎の診察と治療は循環器内科で行われます。なお循環器専門の医師でも心膜炎の診断は困難なことが多いので、症状についてはなるべく詳しく医師に話すことが必要です。診察では本人による痛みの説明と胸部の聴診が行われます。急性心膜炎では心膜摩擦音(ひっかくような音)がして、慢性心膜炎では心膜ノック音(大きなIII音)がします。併せて以下の検査が行われるでしょう。
心電図検査:心電図の波形、ST部分が凹型の上昇を示し,PR部分が低下
胸部X線検査:心疾患による心拡大
検査後の状況によっては以下の処置が必要になることもあります。心嚢穿刺:溜まった心嚢液の採取、排液
心膜生検:心臓の筋肉の変性が疑われる場合、心臓の筋肉の一部を採取して行う病理学的検査
心カテーテル検査:カテーテルを動脈ないしは静脈に挿入し、心臓の心内圧の計測や冠動脈・心臓の血行動態を得るためX線撮影で造影
心膜炎の治療方法を教えてください。
心膜炎の治療の基本としては安静にすることが第一です。また安静にすることと同時に、痛みと発熱といった症状には対処療法として鎮痛薬と抗炎症薬を用いた薬物療法を施します。比較的重くない心膜炎ではこういった対処療法により1~3週間程度で自然と治る場合が多いです。なお心膜炎の原因によっては治療法も違ってきて、例えば細菌による症状には抗菌薬を用いたりします。
重症化している場合には外科的な治療として心膜腔に溜まった心膜役を取り除く処置を施すこともあるでしょう。
心膜炎の予後と予防方法
心膜炎は再発するのでしょうか?
心膜炎という病気は残念ながら再発する可能性が高い病気といえるでしょう。急性心膜炎の場合で10~30%の患者が再発するというデータがあります。さらには初回の再発後から、さらに再発する確率は50%にも及ぶとのことです。
ちなみに、心膜炎を再発した患者に通常の抗炎症治療と併せてコルヒチンという薬を投与することにより、初回再発後の再発を低く抑え、1週間以内に寛解することに有望だとの試験及び研究結果がイタリアで発表されています。
心膜炎の治療中に気をつけることを教えてください。
心膜炎の治療は自宅での療養ではなく、ほぼ病院に入院して行われることになります。そこで第一に注意することといえば衛生面に気をつけることです。入院期間中の治療では治療器具による細菌感染で急性心膜炎を発症する例もありますが、入院中でも自分で行える日常的な予防及び注意としてうがい・手洗いを心がけましょう。そして自分の症状に変化はないかにも注意しておきたいものです。
症状の悪化を防ぐために少しでも症状に変化を感じた場合は医師に詳細に症状の変化を説明し、相談してください。
心膜炎の予防方法はありますか?
心膜炎の主な原因はウィルス感染によるものです。そのため一番の予防といっていいのが、一般的に行われる風邪やインフルエンザの染症予防としておなじみのうがい・手洗いです。また免疫力の低下による発症や症状の悪化を防ぐ上で日頃からバランスの良い食事・規則正しい生活・適度な運動なども心がけることも予防の観点から良いと思われます。
前述のように風邪と思われる症状でも心膜炎の可能性があるので、いつもの風邪と少し違うなと思った時には早めに診察を受けるようにしたいものです。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
心膜炎という病気は老若男女のどなたでも発症する可能性があります。主な原因はウィルスですが、多くはなくても細菌や他の病気やその病気の治療による発症もあること、初めに風邪に似た症状が出てそのまま自然治癒することもあることを鑑みると、認知度の割に身近な病気ともいえます。反面、専門医でも診断が難しく重症化すれば命の危険もあるという怖い病気です。一度治ったと思っても再発の可能性も高く、そこから慢性化する恐れもあるので油断できない病気ともいえるでしょう。
繰り返すようですが予防することはもちろんのこと、風邪と違う症状、特に胸の痛みを感じたら医師に相談してください。
編集部まとめ
心膜炎とは普段聞きなれない病気ですが、発症する原因の多さや症状の悪化などを知ってみると決して侮ってはいけない病気だと感じられたことでしょう。
専門医でも診断に難しさのある病気ですが、重症化する前に気付いた点を相談することが重要です。
心膜炎という病気に関してその症状・治療法・予防法など各種の知識をご紹介しました。病気に対して予防をすることはもちろん、もしもの時に知の備えとしてこの記事を役立てていただければ幸いです。
参考文献
主な疾患|福井県済生会病院
心膜炎|Doctors File
新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省
感染性心内膜炎|名古屋徳洲会総合病院