「親知らずは抜歯すべき?」に歯科医が回答! 抜く・抜かないの判断や抜歯の注意点とは
とくに異常はないのに歯医者さんで親知らずの抜歯をすすめられると「本当に抜く必要があるの?」と疑問に思うことがあります。そこで、親知らずを抜歯する・しないの基準や残しておくリスクなど、親知らずに関する様々な疑問をウィズ歯科クリニックの大野先生に話を聞きました。
親知らずは生えたら抜くべき? 抜くほうがよいケースと抜かなくてよいケースの違いを知りたい!
編集部
そもそも、同じ永久歯なのになぜ親知らずだけ抜歯をすすめられるのでしょうか?
大野先生
親知らずだから「必ず抜かなければならない」というわけではありません。ただ、永久歯の中で最後に生える親知らずは、いざ生えようにもそのスペースが足りず、正しい位置や向きに生えてこられないものが多くあります。このような親知らずは残しておくメリットよりも、デメリットのほうが大きくなってしまうため抜歯をおすすめしています。
編集部
では、具体的に「残すとデメリットが大きい親知らず」とはどのような親知らずでしょうか?
大野先生
「横向きや斜め向きに生えている」あるいは「頭の一部しかでていない」といった親知らずは、清掃性が悪く、ばい菌が繁殖してむし歯や歯周病のリスクが高くなります。また、親知らずの周囲にばい菌が感染すると「智歯周囲炎」という歯ぐきの炎症を起こして、腫れや痛みの原因にもなります。したがって、このような親知らずは早めに抜いておいたほうがよいでしょう。
編集部
ほかにも、抜いたほうがよい親知らずはありますか?
大野先生
骨の中に埋まっている親知らずの場合、歯の周りに膿の袋ができることがあります。これは専門的に「含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)」といって、レントゲンで見ると親知らずを取り囲む袋状のようなものが確認できます。放っておくとこの袋は骨を溶かしながらどんどん大きくなっていくため、こちらも早めの抜歯がおすすめです。
編集部
「抜いたほうがよい親知らず」を放置すると、どのようなリスクがありますか?
大野先生
親知らずがむし歯になったり、歯周病をひき起こしたりするだけでなく、その影響は隣の歯へと及びます。抜いたほうがよい親知らずを放置しておくと最悪の場合、隣の歯も残せなくなることもあるので注意が必要です。
編集部
では反対に、「抜かなくてもよい親知らず」とはどんな親知らずでしょうか?
大野先生
ほかの永久歯と同じように上下が真っ直ぐに生えており、「食べ物を噛む」といった歯本来の機能が果たせる親知らずであれば、残しておくのも方法の1つです。ただし、これも「きちんと磨ける」ということが条件になります。真っ直ぐに生えていても歯ブラシがうまく当たらないようであれば、抜いたほうがよいでしょう。
編集部
ほかに、「抜かなくてもよい親知らず」はありますか?
大野先生
将来ブリッジや入れ歯の支台として使えたり、ほかの大臼歯が残せなくなった場合の「移植歯」として使えたりする可能性のある親知らずも、残して様子をみることがあります。ただ、こちらも「真っ直ぐ生えていること」「しっかり磨けること」が条件になります。
歯科で抜歯が「難しい」のはどんな親知らず?
編集部
親知らずの抜歯で「簡単」「難しい」というのはどこで決まりますか?
大野先生
親知らずでも真っ直ぐに生えていて頭がしっかり出ているものや、根っこが短いものは比較的簡単に抜けます。時間にすると10~30分程度です。一方で、真っ直ぐに生えていても根っこが3~4本に分かれていると、抜歯の時に根っこの先が残ってしまうこともあるため、難易度は高くなります。
編集部
親知らずの向きよりも「根っこの本数」が難易度の決め手なのでしょうか?
大野先生
確かに、横向きや斜め向きの親知らずは歯ぐきを切ったり、骨を削ったりという工程が増えるため、抜歯にかかる時間は長くなります。ただ、歯科医からみると必ずしも横向き・斜め向きが大変というわけではありません。抜歯の難易度としてはやはり根っこの本数や形が決め手になり、難易度が高くなると処置に45分~1時間ほど時間を要してしまいます。
編集部
根っこの本数や形のほかに、親知らずの抜歯を難しくする要因はありますか?
大野先生
下顎の骨の中には「下歯槽神経(かしそうしんけい)」という太い神経がありますが、親知らずがこの神経の近くにある場合も抜歯の難易度は高くなります。抜歯の際にその神経を傷つけてしまうと麻痺やしびれが残るおそれもあるため、刺激が加わらないように時間をかけて慎重に抜く必要があります。
親知らずの抜歯の費用、痛みや腫れのピーク、歯磨きの方法など注意点が知りたい
編集部
親知らずの抜歯で費用はどれぐらいかかりますか?
大野先生
親知らずの抜歯には保険が適用できます。費用の目安としては、簡単な抜歯で1000円前後、難しい抜歯で1500円前後、骨に埋まっているケースでは4500円前後です(いずれも3割負担の場合)。これに初診料や再診料、検査費用、お薬代などが別途かかります。
編集部
親知らずを抜いて「すごく腫れた」という話もよく聞きますが、実際に抜歯後は腫れや痛みがでるのでしょうか?
大野先生
歯ぐきを切ったり骨を削ったりする、抜歯が難しい親知らずほど、術後の腫れや痛みはでやすくなります。ただ、痛みに関しては、抜歯後1~2日で落ち着くのがほとんどです。腫れについても抜歯後2~3日ほどがピークで、1週間程度で引いていきます。
編集部
親知らずの抜いた後、日常生活で注意しておきたいことはなんですか?
大野先生
抜歯した当日は激しい運動など、血の巡りがよくなる行為は避けるようにしてください。飲酒や喫煙も、傷が治るまではしばらく控えたほうがよいでしょう。また、抜歯後に強くお口をゆすいでしまうと、抜歯の穴にできた「かさぶた」が取れて、傷の治りが悪くなります。したがって、しばらくは軽くお口をすすぐ程度にとどめてください。一方で、お口の中が汚れていると、傷口にバイキンが入って「治ったのにまた腫れた」ということも起こりえます。ですから、抜歯後はお口の中を清潔に保つことも大切です。
編集部
では、抜歯後の「歯磨き」はどのようにしたらよいですか?
大野先生
市販の歯磨き剤は傷口にしみることがあるので、しばらくは何もつけずに磨いてください。抜いた当日は手前の歯までにとどめて、奥のほうはゴシゴシ磨かないようにします。もし、腫れや痛みでうまく磨けない場合は、「うがい薬」を活用してお口の中をなるべく清潔にするよう心がけましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
大野先生
「抜歯」と聞くとどうしても痛みや腫れが気になって躊躇してしまいますが、残しておくと周囲の歯に悪い影響を及ぼしていきます。そのリスクをよく理解したうえで、抜いたほうがよい親知らずはできるだけ早く抜いておきましょう。
編集部まとめ
親知らずがあるからといって、すべてのケースで抜歯が必要というわけではないようです。しかし、抜いたほうがよい親知らずは残しておくと隣の歯がむし歯や歯周病になったり、最悪のケースではその歯も残せなくなったりするおそれがあります。抜歯の痛みや腫れも気になるところですが、親知らずによって生じる将来的なリスクを考え、担当医と相談しながら早めの抜歯を検討していきましょう。
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