近視や遠視を治す方法はありますか?
監修医師:
山本 篤志(山本眼科 院長)
見え方に関する治療方法の整理
編集部
近視や遠視を改善する方法について教えてください。
山本先生
もっとも一般的なのは、メガネやコンタクトレンズでしょう。メガネは目に優しい方法といえますので、軽めの近視や遠視ならメガネを推奨します。一方、コンタクトレンズの中には、医療機具としての認証を取れていないものも含まれますので、注意してください。感染症やアレルギーの原因になります。医師が処方するコンタクトレンズなら安心です。
編集部
手術でも対応できるのですよね?
山本先生
一昔前までは、角膜の厚みそのものを変える手術である「レーシック」が主流でした。ただ、合併症やドライアイのリスクや、衛生管理を怠ったことによる医療事故が大きく報道されたことにより、いまでは症例数が激減しています。替わって登場したのが、目の中にコンタクトレンズを埋入する「ICL」です。
編集部
「ICL」の特徴は?
山本先生
「ICL」は、術後の見え方に不満があった場合にも取り出して元の状態に戻すことができる“可逆性”が特徴です。また、度数を変えたレンズを再手術することも可能です。今は遠視と近視が適応ですが、そのうち老眼用のICLも登場してくるでしょう。費用は、片目で30万円前後、両目だと倍になります。
編集部
そのほかにも、遠視・近視の対処法はありますか?
山本先生
「オルソケラトロジー」という、夜間に装着するタイプのコンタクトレンズもあります。これは、見え具合を調整するレンズというより、一種の矯正装置です。近眼の矯正と抑制の双方で効果があり、遠視は一部のメーカーに限られます。
手術を受ける際のリスクについて
編集部
まずは、レーシックの注意点について教えてください。
山本先生
レーシックの手術では、目の表面を4分の3ほど円形に切り、フタのように持ち上げてから、その中の角膜の厚み・形を調節していきます。調節が済んだら、切り上げたふたを元に戻すわけです。このとき、表面組織はつながったとしても、神経がつながらないと、ドライアイになりかねません。また、目の接触事故などにより、切開跡が開いてしまう事故も起きています。
編集部
続けて、「ICL」のリスクについてもお願いします。
山本先生
直径5ミリほどの穴を開ける「ICL」なら、ドライアイの心配はそれほどありません。その一方、眼内の感染症になる可能性が懸念されます。レーシックは外傷のリスク、「ICL」は感染症のリスクが、それぞれあります。
編集部
先生が受けるとしたら、どちらの手術を選びますか?
山本先生
むずかしい質問ですね。何かあったとき“大ごと”になりえるのは「ICL」でしょうか。
ただし、感染症の発症割合は低く、1万人に1人くらいといったところ。他方、レーシックでは、一般に1割弱の患者さんが何かしらの不調を感じているようです。最終的な選択は、症状や状況によると思います。
近視や遠視はなぜ起こる、仮性近視との違いとは
編集部
点眼薬での治療はおこなっていないのですか?
山本先生
点眼は、「近視抑制」という最近になって効果が実証されてきたジャンルで使われています。生まれたての乳幼児の眼球は小さくて、もともと “遠視状態”なんですね。やがて成長していくに伴い、ちょうどいい大きさの眼球になると正視が得られます。これに対し、前後方向に膨らみすぎた状態が近視です。近視抑制は、この膨らみすぎを抑える方法になります。
編集部
近視や遠視には、目の大きさが関係していると?
山本先生
大きさではなく「形」ですね。前後方向の長さで決まります。正常な状態では、目から入った光が水晶体を通じて、ちょうど網膜の距離で焦点を結びます。近視は、眼球が前後方向に長く、網膜よりも前に焦点を結ぶ状態。逆に遠視は、眼球の長さが短く、網膜より後に焦点を結ぶ状態です。
編集部
良く聞く「仮性近視」とは、どのような症状なのでしょう?
山本先生
「仮性近視」は眼球の形によるものではなく、ピント調節筋が緊張したまま戻りにくくなった症状です。この場合、遠くを見ることで解消される場合があります。目の緊張をほぐしてあげるのです。
編集部
眼球の形自体を変えることはできないのですか?
山本先生
難しいと言わざるをえません。その意味で、近視や遠視の「真の治療」はできない段階にあります。あくまでレンズの部分を調整して、見えの改善を図っているのが現状です。ただし、治療そのものが必要なのかという観点も持ちたいですよね。
編集部
どのような意味でしょう?
山本先生
そもそも農耕・狩猟時代には、近視が少なかったとされています。近視は、近い物をより多く見る現代生活に「合った」目の状態ともいえるわけです。本当に遠くの物を細かく認識する必要があるのか。思い当たらないようなら、ある程度の近視でも構わないと考えています。
編集部まとめ
山本先生は近視について、「進化ともいえるのでは」とおっしゃっていました。手術を受ける前に、「生活上の支障がどの程度あるのか」「メガネやコンタクトレンズで補える範囲はどれくらいなのか」を確認しておきましょう。この点は遠視も同様です。そのうえで、眼科の専門医としっかり相談し、最終的な結論を導き出してください。