ピロリ菌の除菌が胃がんの予防になるってホント?

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昨今、胃がんに関連して、「ピロリ菌」というキーワードが浮上してきている。はたしてその正体は。感染経路は。除菌の方法とは。さまざまに浮かぶ疑問を、里村クリニックの里村仁志先生に投げかけてみた。「ピロリ菌」を知ることで、いままで把握しづらかった胃がんの仕組みが見えてくるかもしれない。

監修医師:
里村 仁志(里村クリニック 副院長)

2003年に獨協医科大学医学部卒業後、NHO災害医療センター、獨協医科大学、さいたま赤十字病院勤務を経て、2018年より父が院長を務める「里村クリニック」副院長。8歳よりさいたま市緑区にて育ち、地域の生活をより豊かにするための治療や生活指導、検診などに力を入れる。専門は消化器。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化管学会胃腸科専門医・指導医、医学博士。

胃がんと深く関わるピロリ菌

編集部

胃がんとピロリ菌は、どのような関係にあるのですか?

里村先生

胃がんの発症率で見ると、ピロリ菌保持者のほうが、菌を保有していない方に比べて有意に「高い」ことがわかっています。このことだけを見れば、「胃がんの予防には、ピロリ菌の除菌が有効」といえるでしょう。ただし、菌を保有していない方でも胃がんを発症することはあります。

編集部

胃がんは、ピロリ菌の除菌によってある程度防げるのでしょうか?

里村先生

そう思いますが、除菌をするまでの期間が問題です。保菌している間にがん化が始まっていると、除菌だけでは防げません。もっとも胃がんになりにくいのは「最初からピロリ菌を持っていない方」、次に「除菌をした方」、最後が「ピロリ菌の保有者」。この順番であることは間違いありません。

編集部

ピロリ菌の保有は、どのような人に多いのでしょう?

里村先生

ピロリ菌の感染率を60代にしぼって見ていくと、2000年の段階では約80%だったものが、2008年から5年間では46%まで減ってきています。一方、0歳から8歳の場合、2011年の段階で、わずか1.9%という感染率です。おそらく昔の井戸水には、ピロリ菌が潜んでいたのでしょう。最近になって衛生的な上下水道が完備したため、若年層の感染率が低く、高齢者でも年々減少しているものと推察できます。

ピロリ菌の検査と除菌方法について

編集部

ピロリ菌に感染すると、どのような症状を起こすのですか?

里村先生

代表的なのは粘膜疾患による慢性胃炎と、そのがん化です。ほか、「MALTリンパ腫」という血液の病気や、「特発性血小板減少性紫斑病」という出血を伴う病気も、ピロリ菌との関連性が示唆されています。

編集部

ピロリ菌の検査方法について教えてください。

里村先生

胃痛や胸焼けなどの症状で内視鏡検査を受けられ、慢性胃炎の所見が見られた場合には、内視鏡で胃の組織を取ってその場でピロリ菌の有無を調べます。一方、自覚がなく内視鏡を使わない場合でも、血液や便、呼気から検査可能です。

編集部

どの方法が正確なのでしょう?

里村先生

検査精度はどの方法でも大きく変わりません。個人的には、血液検査や便検査を多用しています。とくに、除菌治療が正しくできたかどうかを判定する場合は便検査ですね。内視鏡による生体検査の場合、服用している胃腸薬の影響などで、試薬に反応しないことが起こりえるからです。

編集部

ピロリ菌が確認された場合は?

里村先生

除菌治療へ進みます。初回の成功率は9割以上を誇るものの、ピロリ菌に抗生剤への耐性があると、除菌しきれません。この場合は薬を代え、2回目の除菌治療をおこないます。もし2回目でも除菌できなかったら、現状ではどうしようもできません。経過観察するほかないでしょう。

症状がないと保険適応されない落とし穴

編集部

ピロリ検査に適した年齢などはあるのでしょうか?

里村先生

早ければ早いだけ好ましいと思います。ただし、ピロリ菌を発見したとしても、慢性胃炎など特定の疾患が起きていないと除菌については保険の対象にはならないのです。その場合は自費になります。一般的なパターンとしては、会社の健診や40歳以上の特定健診で胃炎が見つかって、ピロリ菌の発見に結び付くケースでしょうか。

編集部

ピロリ菌と胃がんの因果関係ははっきりしているに、保険の効かない場合があると?

里村先生

あくまで国の考え方ですが、ピロリ菌の保有から胃がん発症までの間に慢性胃炎を挟み、胃痛やむかつきなどの諸症状が生じます。また、ピロリ菌保有者でも胃炎へ移行しない方がいらっしゃいます。このため、「保険適応は胃炎になってから」という考え方なのではないでしょうか。

編集部

自費の検査でピロリ菌のいないことがわかったとして、その後に感染する可能性は?

里村先生

まず、ありません。ピロリ菌に感染するタイミングは、主に免疫力が低い乳幼児のころです。3歳以上で検査を受け、結果がセーフであれば、そこから感染することはないと考えてもよいでしょう。

編集部まとめ

「ピロリ菌検査は、症状がないと保険の適応にならない」。何だかしっくりこない話ですよね。しかし、保険制度は対象が「治療」に限られるのも事実です。本来、健康な人は保険を必要としないはず。現状、このジレンマは、自費で解決せざるをえません。全額自己負担を高いとみるか、それとも必要経費とみるか。あなたはどう考えますか。