「座った状態だと、携帯をズボンのポケットから出し入れするのが面倒で。知らない間にポケットから落ちたり……足元から取り出せると安心で楽なんだけどね〜」

 日本障がい者ファッション協会の代表理事を務める、平林景さんの元に寄せられていた、車いすユーザーらからのこんな声。これを受け、「だったら、靴にポケットを付けちゃえばイイ」と、ポケット付きのブーツを作ってしまいました。なるほど、これは良いアイデア……!

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 ブーツサイドに取り付けられた深めのポケットに、スマホをサッと収納できる仕様になっている本作。これならたしかに座ったままスマホの出し入れが出来ますし、落とした場合も視界に入りますので一目瞭然。まさに寄せられた声を100%カタチにした靴と言えるのではないでしょうか。

 また、ブーツと聞くと「履きにくいんじゃないの?」というイメージがありますが、今作は前後にファスナーが付いており、ラクに足を入れられるようになっています。「福祉業界のオシャレ番長」を名乗る平林さんが携わる作品ですから、機能性にもデザインにも余念がありません。

 制作(デザイン、型紙、アッパー)を担当した神戸医療福祉専門学校 三田校 整形靴科の伊藤碧羽さんによると、座った姿勢で使うことを考慮して、靴の内側にポケットをつけたことがデザインのポイントとのこと。

 また、もっとも難しかったと話すのは「ポケットの縫製」。今作で使用した革は、表面に反射材のような加工がされており、固く形の変わりにくい素材だったため、加工・縫製が大変だったそうですが、そんな苦労を感じさせない美しい仕上がりとなっています。

 ツイッターの投稿には1万件を超える「いいね」が付き、「車いす使用者じゃないけど欲しい」「内側ポケットはナイスデザイン」「座りっぱなしの職場でも重宝するな」と、称賛の声が多数。もちろんスマホだけでなく、鍵を入れたり、コインを忍ばせておく、といった使い方も可能です。

 今作は2022年9月にフランス・パリで開催された「WFR(Wheelchair Fashion Row Paris Fashion Week 2023 Spring-Summer)」というファッションショーでも使用され、販売については現在検討中とのこと。

 日本障がい者ファッション協会は、ユニバーサルデザインが定義するアクセシビリティ(便利さ)やユーザビリティ(使いやすさ)に、エンジョイビリティ(楽しさ)を加えた「NextUD(ユニバーサルデザイン)」を提唱しています。

 障がいの有無に関わらず、誰もがファッションを楽しめるように。平林さんらの活動には、そんな温かい思いが込められているように感じます。

<記事化協力>
KEI HIRABAYASHI(平林景)@福祉業界のオシャレ番長さん(@KeiHirabayashi)

(山口弘剛)