「妄想性パーソナリティ障害」になると感じる症状や原因はご存知ですか?
仕事や人間関係・家庭事情などでストレスを感じやすい現代では、精神疾患を抱えている人が年々増えています。
精神疾患は原因に個人差があり治療法もその人に合わせた方法でないと悪化する可能性があるため、改善には長期に渡る努力が必要不可欠です。
その中で今回は、日本人の約5%の人が当てはまるという妄想性パーソナリティ障害について病態・症状・原因・診断・治療方法・対処法を紹介します。
身近に妄想性パーソナリティ障害の人がいる人や、自分自身がそうかもしれないと感じている人は最後までぜひ目を通して知識を深めましょう。
妄想性パーソナリティ障害の症状と原因
妄想性パーソナリティ障害の症状を教えてください。
症状として基本的に他者が自分を傷つけているという考えを持っているため1つ1つの言動や行動に対して疑念を抱き、その疑念を裏付けるために詳細を深掘りして、他人の言動や行動に対しての意味を探るという特徴があります。
恋人等に対しての嫉妬心が強い傾向にあり、恋愛や家庭内では執拗に疑いをかけて自分の考えを正当化するために事細かに問いただすことも多くあります。
常に警戒心を抱いていることから自分や周りを苦しめ人間関係も構築が難しく、自分自身の本心を相手に打ち明けることはあまりありません。
他人から自分の考えや価値観を否定されるとより「傷つけられた」という思考になり、より過剰に反応して攻撃性を出す場合もあります。
「パーソナリティ障害」とはどのような意味でしょうか?
パーソナリティ障害とは、自分が他人と考え方や価値観が異なることによって自分自身や周囲の人に支障をきたしていることを指し、主に3つのグループ・10種類に分類され、基本的な部分は共通していますがそれぞれに際立った特徴も見られます。
Aグループは奇妙または風変わりな様子を特徴とします。
妄想性:不信と猜疑心
シゾイド:他者に対する無関心
統合失調型:奇妙または風変わりな思考と行動
Bグループは演技的、感情的、または移り気な様子を特徴とします。
反社会性:社会的無責任、他人の軽視、欺瞞、自分の利益を得るための他人の操作
境界性:一人でいることに関する問題(見捨てられる恐れによる)、感情や衝動的行動をコントロールすることの問題
演技性:人の注意を引きたい欲求と劇的な行動
自己愛性:もろい自尊心、賞賛される必要性、および自分の価値についての過大評価(誇大性と呼ばれる)
Cグループは不安や恐れを抱いている様子を特徴とします。
回避性:拒絶される恐れによる対人接触の回避
依存性:服従と依存(世話をしてもらう必要性による)
強迫性:完全主義、柔軟性のなさ、頑固さ
またどの分類にも当てはまることですが、基本的にはストレス対処や人間関係の構築が困難な人が多く、日常生活において生きづらさを感じている特徴があります。
約10%の人はパーソナリティ障害があり、症状に個人差がみられます。
自分自身に対しての明確なイメージがついていないので、他人との関わりに対し一貫性があまりみられません。
優しく対応できる時と強く当たってしまう時と様々で、その対応が頻繁に変化する人もいます。
故に人間関係が上手く成り立たず、家庭を持っている人などはその影響が子供に及んでしまうこともあるのです。
パーソナリティ障害を引き起こす原因として、遺伝や環境要因だけでなく元々発達障害を抱えていたり、SNSの普及による誹謗中傷なども近年問題として取り上げられています。
妄想性障害と妄想性パーソナリティー障害の違いを教えてください。
妄想性パーソナリティ障害とは簡単に説明すると、幅広い対人関係において支障をきたすパーソナリティ障害のことを指し、青年期から成人初期に発症しやすく、女性よりも男性の方が割合が多いです。
また、被害妄想によって他者の言動や行動が全て不信感に変わる根拠のない考えを持つ特徴があります。
妄想性パーソナリティ障害の人は他の精神疾患を合併していることもあり、「不安障害」「統合失調症」「うつ病」「アルコール依存症」「摂食障害」等が特に挙げられる疾患です。
症状には個人差があり比較的軽い症状の人もいれば、他の精神疾患も合併して症状が重い人もいます。
似た症状である妄想性障害とは、現実・非現実なことを含め思い込みが激しく、その状態が1ヶ月以上持続することをいいます。
。妄想性パーソナリティ障害に起因して発症することが多く、妄想性障害は成人中後期に発症しやすいのが特徴です。
妄想性障害は「被愛型」「誇大型」「嫉妬型」「被害型」「身体型」の5つの分類に分けられ、初期症状として他人の言動や行動が1つ1つ気になる等が挙げられますが、妄想が酷くならないうちはある程度良好に日常生活を送れます。
発症する原因は何ですか?
家庭内、特に母親からの影響が大きく関与しているといわれ、幼少期から長期にわたって虐待や精神的ダメージを受けていると発症しやすい傾向にあります。
妄想性パーソナリティ障害の診断と治療法
妄想性パーソナリティ障害に自覚症状はありますか?
妄想性パーソナリティ障害の人は、自分が精神疾患であるという自覚がありません。
そのため、なかなか治療が開始できず症状が悪化するケースもあります。
どのように診断するのでしょうか?
妄想性パーソナリティ障害の診断方法は、主にDMS-5というアメリカの精神医学会が発行した統計データを元に診断します。
内容については以下に詳細を記します。
他者が自分を利用している・傷つけている・裏切っていると、十分な理由もなく疑っている。
友人や同僚の信頼性について根拠のない疑いにとらわれている。
情報が自分に不利に使われるのではないかと考え、他者に秘密を打ち明けたがらない。
悪意のない言葉や出来事に誹謗・敵意、または脅迫的意味が隠されていると誤解する。
侮辱・中傷・軽蔑されたと考える場合は、恨みを抱く。
すぐに自分の性格や評判が批判されたと考え、性急に怒りをもって反応したり、反撃したりする。
疑うべき十分な理由もなく、自分の配偶者またはパートナーが不貞を働いているのではないかと繰り返し疑う。
また妄想の原因になる疾患がないかを社会的背景を踏まえた上で、他の精神疾患との鑑別をする必要もあります。
それ以外にも医師は、患者の症状の程度などから危険度を判別しなければなりません。
治療方法を教えてください。
認知行動療法・薬物療法・TMS(磁気刺激治療)の3つが主な治療法です。
認知行動療法とは物事の捉え方と行動にアプローチし、思考のバランスを保ちストレスを軽減することをいいます。
例として、待ち合わせまで「あと5分しかない」と考えるか「あと5分もある」と考えるかで自分にかかるストレスの度合いは変わります。
このように何か起こった時に1度俯瞰した目線で考えて、自分にストレスがかからないような思考に導く治療法が認知行動療法です。
認知行動療法は患者が問題を起こしていることに自身で気づき、社会的に良くない行動だということを自覚させるのに有効です。
TMSはアメリカ発症の治療法で、主にうつ病の人に用いられます。
脳の前頭前野に磁気で刺激を与えることで、脳を活性化させる治療法で大きな副作用もありません。
うつ病以外にPTSD(心的外傷後ストレス障害)・統合失調症・認知症にも効果があり、TMS治療が薬物療法と併用することでより大きい効果を得ることもあります。
妄想性パーソナリティ障害の人には上記の治療法を行いますが、患者は基本的に懐疑心が強く治療すること自体困難なケースもあります。
治療に協力的な人に対しては認知行動療法を行い、難しい場合は薬物療法(抗精神薬・抗うつ薬)などを使用し情動制御など症状の軽減を目的に行うこともありますが、薬物療法だけで妄想性パーソナリティ障害を治療できるわけではなく、あくまで併用という形が前提です。
確実な治療法がないので懐疑心を少しでも緩和しつつ信頼関係を築くことが、治療を行う上で重要です。
治療の効果はどのくらいで現れますか?
治療効果が得られるのは個人差がありますが、数年の月日で蓄積された考え方や価値観を変えるのは長い時間と患者の根気が必要です。
数日や数ヶ月単位ではなく、少なくとも1年から数年単位での治療が必要になるでしょう。
日常生活を通じてカウンセリングを取り入れるなど、継続しやすい環境を整えることが改善への近道になります。
妄想性パーソナリティ障害への対処
妄想性パーソナリティ障害の人への対処方法を教えてください。
妄想性パーソナリティ障害の人と接する時に、まず1番注意しなければならないのが「否定しない」ことです。
前述にもある通り懐疑心や不信感を常に抱いているため、患者本人の意見や考えに対して否定してしまうと関係が悪化してしまいます。
更には自分の意見を否定されたことで逆上し攻撃的になる可能性もあります。
患者も自分自身のことを理解できずに悩み苦しんでいるので、否定や無理にアドバイスを促すのではなく共感することを意識しましょう。
家族はどのようにサポートすれば良いでしょうか?
何か本人が困ってることや悩みを抱えていた場合には、その意見を聴き寄り添うことが大事です。
しかし家族や恋人など身近に妄想性パーソナリティ障害を患っている人がいると、時には振り回されることも多々あると思います。
その時に全てを肯定してしまうと今度は自分自身が疲弊してしまうので、何か相談された場合には医療機関への受診の提案なども良いでしょう。
また医療機関だけでなく、就労に関して悩んでいるのであればハローワークや就労支援などの専門機関もあります。
注意点として患者が拒否しているのに、無理に勧めるのは得策ではありません。
本人が受診や行動を拒否している場合には、その意見を尊重し相手のペースに任せましょう。焦らないことも治療へ導くにあたって重要なことです。
また日頃から不信感は強くある反面仕事を通常通りにこなすこともでき、時には手助けもしてくれます。
そういった時は素直に相手の良い部分を褒め伸ばすことで、行動に良い変化が現れるかもしれません。
本人のできることに関して深く関与せず、感謝の気持ちを示すことでやる気を引き出すように関わることも接する上で大事なポイントです。
最後に、読者へメッセージがあればお願いします。
妄想性パーソナリティ障害の治療にはどれだけ周りの人が疾患や患者に対し、理解しているかが重要になります。
一方で妄想性パーソナリティ障害を患っている人と関わることで自分も精神的な負担が大きくなっているようであれば、医師・カウンセラー・友達など第三者に相談しましょう。
負担が大きい場合には適切な距離を保つことも重要で、自分自身を追い詰めてしまうような精神状態にならないよう注意が必要です。
編集部まとめ
ここまで妄想性パーソナリティ障害の病態や症状・治療法等について紹介しました。
日常生活の中では誰しもがパーソナリティにある程度偏りがありますが、自覚していない妄想性パーソナリティ障害はその影響で一般の人よりも生きづらさを感じています。
妄想性パーソナリティ障害の人だけに言えることではありませんが、精神疾患を患っている人は患者自身が1番症状に対して悩み苦しんでいます。
そのため今回の妄想性パーソナリティ障害に関わらず、精神疾患に対しての基本的な知識や関わり方を知ることは自分を守るだけでなく手助けするためにも重要なことなのです。
相手に共感し理解しようとする姿勢を見せるだけでも、患者自身心が救われた気持ちになります。
どう接したら良いのか分からないからと突き放すのではなく、話を聞いて自分は相手のことを思っているということを伝える意識を持っていただければ、その思いは相手にも伝わります。
また自分自身が妄想性パーソナリティ障害かもしれない時には、専門機関のサポートを受けることで生きづらさが軽減されるかもしれません。
治療には長い時間と「良くなりたい」という強い意志が必要なので、困った時は誰かに相談しながら取り組んでいくことが大事になります。
参考文献
妄想性パーソナリティ障害|MSDマニュアル 家庭版
妄想性パーソナリティ障害のカウンセリングと治療法|心理オフィスK
【医師が解説】パーソナリティ障害の症状・診断・治療|元住吉こころみクリニック
パーソナリティー障害|厚生労働省みんなのメンタルヘルス
妄想性(猜疑性)パーソナリティ障害とは?症状、診断、治療|BRAIN CLINIC