網膜硝子体手術が必要な症状・疾患を眼科医が解説 術後の見え方や網膜剥離など合併症のリスクとは?

写真拡大 (全4枚)

近年では日帰りでも行えるようになった網膜硝子体手術。難易度が高く、繊細な技術が必要とされる手術ですが、糖尿病網膜症、硝子体出血、網膜剥離などさまざまな疾患に対して適応になり、実際、多くの患者さんが同手術を受けて視力を取り戻しています。一体、網膜硝子体手術とはどのような手術なのでしょうか。宮原眼科医院の成瀬先生にMedical DOC編集部が聞きました。

網膜硝子体手術とはどんな手術?日帰りでも可能?治療に必要な期間や入院有無・手順も知りたい

編集部

網膜硝子体手術とは、どのようなものですか?

成瀬先生

網膜硝子体手術(以下、硝子体手術)とは文字通り、硝子体を含む病的な組織を取り除くことで病気を治癒する手術のことです。硝子体に起きるさまざまな疾患に対し、適応となります。

編集部

そもそも硝子体とはなんですか?

成瀬先生

硝子体とは、眼球のなかにあるゼリー状の組織のこと。無色透明で、99%が水でできています。眼球のなかでレンズの役割を担う水晶体の後ろに接しており、奥では網膜と軽くくっついています。

編集部

その硝子体に、どのような異常が起きるのですか?

成瀬先生

硝子体は、何らかの原因によって網膜を牽引したり、炎症が起きたり、混濁や出血を起こしたりすることがあります。これによって網膜に光が到達することが妨げられ、視力低下などが起こります。

編集部

その硝子体の病変を除去するのが、硝子体手術なのですね。手術の危険性はどうですか?

成瀬先生

硝子体手術は、目に関する手術のなかで非常に高度なもののひとつ。とても繊細な技術が必要とされますが、近年では最新の手術装置や手技が開発されたことにより、安全性が高まっています。通常は局所麻酔で行われ、症例によりますが手術時間は通常1~2時間を要します。いまでは多くの医療機関が、日帰りで手術を行うようになりました。日帰りでできるため仕事への復帰が早く、日常生活への戻りもスムーズです。

視界の歪みや違和感など、どんな目の症状に硝子体手術は適応される? 疑われる病名や放置したときの失明の危険性は?

編集部

硝子体手術が必要となるのは、どんな病気ですか?

成瀬先生

硝子体手術が有効な病気は、糖尿病網膜症、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑上膜などさまざまです。具体的には硝子体が濁っている場合や、硝子体が出血している場合、黄斑浮腫といって黄斑部にむくみが起きている場合など、いろんな状況に対して適応になります。

編集部

「糖尿病で失明する」という話を聞いたことがありますが、それも硝子体手術によって防ぐことができるのですか?

成瀬先生

糖尿病の合併症のひとつに「糖尿病網膜症」というものがありますが、これは、網膜の毛細血管が閉塞してしまうことで血流が悪くなり、硝子体に出血が起きたり、網膜剥離を引き起こしたりして大きく視力が低下する病気のこと。硝子体手術を行い、出血部分を除去したり、剥離した網膜を元に戻したりすることで失明を防ぐことができます。

編集部

具体的に、どのようにして硝子体を手術するのですか?

成瀬先生

強膜という眼球の壁に1mm以下の穴を3つ開け、そこから細い器具を目のなかに差し込んで、硝子体の切除や網膜の治療を行います。

編集部

硝子体手術の注意点はありますか?

成瀬先生

場合によっては硝子体手術後、網膜剥離の治療効果を高めるために、空気やガス、シリコンオイルを眼内に入れ、うつ伏せの姿勢を維持していただくことがあります。期間は疾患によって異なりますが1日から2週間前後。その期間は、トイレと食事以外は就寝中もうつ伏せの姿勢を保っていただきます。

編集部

硝子体手術をせず、症状を放置した場合にはどのようなリスクがあるのですか?

成瀬先生

極度に視力が低下し、日常生活に支障をきたす場合があります。また疾患の重症度によっては失明の危険もあります。近年では硝子体手術の技術も進化し、以前に比べて安全に手術を行えるようになってきました。ぜひ、適応となる疾患でお悩みの方は、不必要に怖がらず、主治医の先生とよく相談してください。

硝子体手術後の見え方や合併症のリスクとは? 網膜剥離、白内障、緑内障などが起きてしまう可能性や理由も解説

編集部

硝子体手術後の見え方は、どうですか?

成瀬先生

術後すぐの頃はまだ視力が上がらず、見えにくい感じが残るかもしれませんが、徐々に視力が回復してくることが期待できます。ただし疾患によっては、視力の回復は限定的な場合があります。また、網膜の中心部に障害のある疾患の場合はものが歪んで見える症状が残ることもあります。

編集部

合併症のリスクはありませんか?

成瀬先生

通常、術前術後には最大限の衛生管理を行い、感染症に注意を払いますが、手術の傷から病原菌が入り、感染症を引き起こすことも稀にあります。また、硝子体出血、網膜裂孔、網膜剥離などの合併症が起きることもあり、そのような場合、再手術が必要になることがあります。

編集部

ほかに、手術の特徴や注意点などはありますか?

成瀬先生

基本的に50歳以上の場合、硝子体手術は白内障手術と同時に行います。なぜなら、白内障があると手術中の視認性が低くなり、硝子体手術そのものの難度が上がるためです。また、硝子体手術によって白内障が進行することもあります。そのため、白内障のリスクが高くなる50歳以上の患者さんの場合には、白内障の症状の有無に関わらず、白内障手術と硝子体手術を同時に行うことが多いですね。

編集部

硝子体手術は保険が適用になるのですか?

成瀬先生

基本的に、硝子体手術が健康保険の適用になる疾患については、保険が使えます。

編集部

最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあれば。

成瀬先生

硝子体手術は、目の疾患の中でも比較的重篤なものに対して行われる手術です。そのため、手術の意義は非常に高いといえます。「硝子体手術は合併症が多く、危険」と考えられていた時代もありますが、現在では非常に技術も洗練され、安全性も高まってきています。疾患によっては、早期に手術を行えば失明を防げることも少なくありません。そのため網膜剥離や糖尿病網膜症など、疑わしい症状がある場合は早めに専門医の診察を受け、手術すべきか確認することが大切です。

編集部まとめ

「目の手術」というと「怖い」「危険」というイメージがあるかもしれませんが、現在では技術も進化し、日帰り対応している施設も増えてきました。失明のリスクを防ぐためにも、気になる症状がある場合は、ぜひ早めに診察を受けるようにしましょう。

近くの眼科を探す