戦前の予想どおりと言っていいのか、9年ぶり最下位でシーズンを終えた北海道日本ハムファイターズ。シーズン前は新庄剛志氏を新監督に迎え、話題性は12球団ダントツだった。就任直後、その新庄監督は「1年の長いトライアウト」と今シーズンを位置づけ、右ヒジを故障していたジョン・ガント(投手)以外、全選手に一軍でのプレー機会を与えた。


就任1年目の今季、パ・リーグ最下位に終わった日本ハムの新庄剛志監督

日本ハムの主役は誰?

 評論家たちの順位予想は圧倒的に低かったが、「どんな野球をするのか?」という新庄監督への期待は大きかった。なかでも巨人OBで球界の生き字引でもある広岡達朗の評価はひと際高かった。

「新庄はメジャーに行って、マイナーも経験した。発言ひとつとってみても、きちんと考えてやっているのがわかる。新庄のいいところは、思ったことを発言し、いいと思ったことは実行するところ。いたってシンプルなことだが、これができない指導者が多いのが現状だ。ただ、本来、新庄が監督になるのは恥ずかしいこと。アメリカは指導者もマイナーで勉強して、それからメジャーに上がるんだけど、日本にはその習慣がない」

 日本の場合、監督になる基準は親会社の広告塔的な意味合いもあり、指導者の資質よりも知名度、クリーンさが求められる。だからといって、優秀なコーチを揃えるわけでもなく、どうしてもOBを中心とした首脳陣が組閣されてしまいがちだ。

 リーグ最下位に終わった新庄監督について、広岡はこんな視点から苦言を呈した。

「あのチームは誰が主役なのかわからない。いくら弱いチームだからといっても、チームの顔になるべき選手はひとりやふたりはいるものだ。それがひとりもいなかった。まあ、二軍クラスの選手層でやりくりしていたんだから、仕方ない部分もある。だからといって、新庄が主役になるのは間違っている。

 監督自らコマーシャルに出るようなバカなチームがどこの世界にあるんだ。ああいうのは直さないといけない。野球で儲けるのが主であって、スポンサーが何千万円もする車を監督に運転させる。新庄人気に便乗したいんだから、誰だって金を出すよ。それにホイホイと乗っかって......バカものが!」

 今季の日本ハムは松本剛が首位打者のタイトルを獲得したが、プロ11年目、29歳の遅咲きプレーヤーだ。令和初の三冠王を獲得した村上宗隆(ヤクルト)と同級生の清宮幸太郎は、今季18本塁打を放ち、ようやく兆しが見えてきた。

 投手陣は2年目の伊藤大海が2ケタ勝利(10勝)をマーク、サウスポーの加藤貴之が8勝、エース格の上沢直之も8勝を挙げたが、小粒感は否めない。

 唯一の"チームの顔"と言える存在である近藤健介も、今シーズンはケガの影響もあって99試合の出場にとどまり、さらにこのオフにはFA権を行使して他球団に移籍する可能性がある。

 いずれにしても、監督が目立つようではまだまだチームとして成り立っていないと広岡は強く言う。

監督は裏の裏まで把握すべき

「ヤクルトの監督時代、巨人の助っ人だった(ジョン・)シピンはインコースを投げるとよく威嚇してきた。そうするとピッチャーがビビって内角を突けないから、シピンは躊躇せず踏み込んできた。だから内野手中心に『どんな乱闘があろうとも、まずシピンを叩き潰せ!』と命令した。そしたらサードの船田(和英)が『ファーストの大杉(勝男)さんは体も顔もイカついので、先頭に立つように言ってください』と進言してきたよ。そうやってみんなが一致団結してやったもんだ。

 アメリカでは、監督が『オレが責任者だ』という言葉を発する。要するに、選手にプレーさせる以上、一番上がすべての責任を持つという意味で、現場の権限はすべて監督にある。日本はフロント主導の球団が多い。補強する選手、コーチ人事をすべてフロントで勝手にやられたら、監督はたまったもんじゃない」

 広岡はヤクルト、西武の監督時代、権限の曖昧さに身をもって経験しているだけに、「そこは改善すべき」と語気を強める。

 一説では、監督の権限はどのチームも5割に満たないと言われており、日本ハムも吉村浩チーム統括本部長、稲葉篤紀GMが主導権を握っていたが、新庄監督になってからは現場の声も反映されるようになったと囁かれている。

 来季に向けていち早く、渡邉諒と?濱祐仁を放出し、阪神の齋藤友貴哉と江越大賀との2対2のトレードを成立させた。

 またドラフトでも、例年、フロント主導で行なわれていたが、新庄監督が「来年は勝負をかける年。すぐ戦力になる選手がほしいと、わがままを言わせてもらった」と語ったように、1位で矢澤宏太(日体大)、2位で金村尚真(富士大)、3位で加藤豪将(メッツ3A)といったように、支配下ドラフトで6名を指名したが、高校生がひとりだけ。これまでの日本ハムとはまったく違うドラフトを展開した。

 さらに、球団OBで元侍ジャパン投手コーチの建山義紀氏を投手コーチ、OBの森本稀哲氏を外野守備コーチ、そして元阪神の八木裕氏を打撃コーチに就任させるなど、ドラフト戦略から首脳陣の編成まで新庄の意見が大きく尊重されている。

 広岡に監督という仕事で大事なことは何かと尋ねると、こう答えた。

「監督というのは、裏の裏まで知っていなければ務まらない。密偵を立てるのではなく、意外に選手が教えてくれるものだ。昔、真面目にプレーしていたヤツが急にダメになった時に『おかしいなぁ』と思っていたら、『監督、アイツ今、離婚問題で悩んでいるんですよ』とある選手が耳打ちしてくれた。その時、裏の裏まで把握しておくことが大事だと痛感したものだ。

 新庄のことだから情報収集に余念はないだろうが、勝ち出してチームが勢いに乗っている時はいいが、つまずき始めた時にどう立て直せるかだ。人間、色気を出すとうまくいかなくなる。優勝を目指すのはいいけど、どう立ち回れるかも見ものだ」

 それくらい指揮官というのは、選手の公私の情報を取り入れたうえで長いシーズンを戦っていくのだ。

 来季、2年目を迎える新庄監督は「優勝以外はいらない」と公言し、何がなんでも勝利にこだわる姿勢を見せている。来春開場される新球場「エスコンフィールド北海道」でどんな野球を見せてくれるのか。新庄監督にとって本当の意味での勝負が始まる。