網膜硝子体手術の術前術後の注意点を眼科医が解説! 「飛行機に乗れない」「うつ伏せが必要」なワケとは
日帰りでも行える目の手術「網膜硝子体手術」。糖尿病網膜症や網膜剥離に対する有効な手段として、多くの人が手術を受けています。しかしその一方、術後「一定期間、飛行機に乗れない」「うつ伏せが必要」などの制限も。一体なぜ、これらの制限が必要なのでしょうか。宮原眼科医院の成瀬先生にMedical DOC編集部が聞きました。
硝子体手術とは 網膜剥離や糖尿病網膜症のほか、目のどんな疾患に適応される?
編集部
硝子体手術は、どんな病気に対して適応になるのですか?
成瀬先生
硝子体手術とは網膜硝子体手術ともいわれ、文字通り、硝子体の病変を取り除くことで病気の治癒を目指すための手術です。対象となる疾患には、糖尿病網膜症、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑上膜など、さまざまです。硝子体が濁っている場合や、硝子体が出血している場合、黄斑浮腫といって、黄斑部にむくみが起きている場合などにも適応になります。
編集部
網膜剥離の場合、硝子体手術でどのようなことを行うのか教えてください。
成瀬先生
網膜とは眼底にある膜のこと。ものを見るために大事な視細胞が存在する組織で、カメラでいえばフィルムに当たる部分です。この網膜の一部に穴や裂け目ができることを網膜裂孔といいます。網膜が剥がれてしまった状態を、網膜剥離といいます。網膜剥離になると視野が狭くなったり視力が落ちたりしてしまいますし、そのまま放置すればやがて失明に至ります。硝子体はゲル状の水分でできていまして、網膜剥離は硝子体膜が網膜を牽引したり、裂孔から硝子体液が網膜下に流れ込んだりすることによって起こります。そのため手術によって硝子体を除去したり、眼内レーザーやガス、シリコンオイルなどを使ったりして網膜を接着し、剥がれないようにすることで網膜剥離を治すのです。
編集部
手術の危険度は高いのですか?
成瀬先生
非常に繊細な技術が必要とされ、目に関する手術のなかで難易度の高いもののひとつとされています。しかし、近年では新しい手術器具や手技が開発されたこともあり、以前に比べて安全に手術を行えるようになりました。たとえば当院では、27Gシステムといって、従来の術式に比べて侵襲が少なく、安全に行える術式を採用しています。また、病院によっては日帰りで手術を行っています。
網膜硝子体手術の術前や当日の注意点が知りたい うつ伏せなど姿勢の制限についても教えて
編集部
網膜硝子体手術を受ける前には、どのような処置を行う必要がありますか?
成瀬先生
手術の数日前から抗生物質の点眼薬を使用していただきます。これは目の表面にいる細菌を減らし、感染症を予防するためです。また、手術当日も、瞳孔を広げるために目薬をしてから手術室に入っていただきます。
編集部
手術はどのような流れで行われるのですか?
成瀬先生
通常、手術は局所麻酔で行われます。手術時間は症例によりますが、通常1~2時間程度。痛みはほとんどありませんが、もし痛みが気になるようでしたら麻酔を追加することもできます。手術が終了し、異常がなければ目をつぶってしばらく安静にしていただきます。経過を見て、全身の健康が確認されれば、ご帰宅していただけます。
編集部
硝子体手術の注意点はありますか?
成瀬先生
目の状態や疾患によっては治療効果を高めるために、手術の終了時、空気や膨張ガス、まれにシリコンオイルなどを目の中に入れることがあります。この場合は、医師が指示する期間はうつ伏せで生活をしていただく場合があります。そのようなケースでは、基本的に食事とトイレ以外はうつ伏せの姿勢を維持していただきます。もし、日常生活でそのような姿勢を維持するのが難しい場合は、日帰り手術ではなく、入院して手術を受けた方が良いかもしれません。
編集部
どれくらい、うつ伏せで過ごさなければいけないのですか?
成瀬先生
目の状態や疾患によりますが短くて1日、長ければ2週間程度とお考えください。特に、網膜剥離や黄斑円孔の治療のために硝子体手術を受けた方は、うつ伏せの姿勢をしっかり守ることが重要です。網膜剥離が再発し、再手術ということにならないよう、きちんと医師の指示を守ることが大切です。
網膜硝子体手術後の生活はいつまで注意・安静が必要? 飲酒解禁はいつ? 飛行機に乗れないのはなぜ?
編集部
硝子体手術後、すぐに仕事や日常生活に復帰することはできますか?
成瀬先生
硝子体手術直後から1週間くらいまでは、感染症を発症するリスクが高い時期といわれています。その期間はできるだけ外出を控えるとともに、目に負担をかけない生活を心がけましょう。目に汗などが入らないようにする、シャワーや入浴は首から下だけにするなど、目の衛生を守るために注意も必要です。
編集部
仕事にはいつから復帰できますか?
成瀬先生
硝子体手術後、だいたい1週間経ったら仕事や家事に復帰しても大丈夫でしょう。デスクワークであれば、手術翌日から復帰される方もいらっしゃいます。ただし、体に負担のかかる作業は控えるようにしましょう。また、医師から処方された薬や点眼薬は必ず使用するようにしてください。
編集部
飲酒や車の運転はいつから可能ですか?
成瀬先生
硝子体手術後1週間程度は、飲酒を控えるようにしましょう。車の運転を再開するのも、手術後1週間くらいが目途になります。しかし、車の運転には両目で0.7以上の視力が必要です。安易に自己判断で運転再開せず、運転が可能かどうか、必ず医師に確認するようにしましょう。
編集部
ほかに注意点はありますか?
成瀬先生
硝子体を除去し、空気やガスなどに置き換えた場合には、飛行機での旅行や標高1000m以上の高地への旅行は一定期間禁止となります。これは、気圧の変化により空気やガスが膨張して眼圧が高まり、危険な状態になるためです。場合によっては高層ビルのエレベーターでも症状が出ることもあるので、必要に応じて医師に相談しましょう。
編集部
飛行機や高地では、どんな症状が現れるのですか?
成瀬先生
一瞬視野が暗くなったり、目の後ろが重くなったり、目や頭が痛くなったりします。
編集部
どれくらいの期間、旅行や飛行機を控えた方が良いのですか?
成瀬先生
空気を充填した場合には1~2週間、ガスを充填した場合には1~2か月程度控えましょう。ただし、シリコンオイルを充填した場合には、そのような制限がありません。
編集部
ほかに注意点はありますか?
成瀬先生
ガスを充填した場合、しばらくは笑気ガスを使った治療を受けるのも危険です。歯科の治療などで、ときどき笑気ガスを使うことがありますが、ガスを充填した場合には1~2か月控えてください。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあれば。
成瀬先生
硝子体手術の後には、目の状態や疾患によっては眼内に空気やガスを充填する場合があります。その場合は、行動の一部が制限されることもあるので必ず医師の注意を聞くようにしましょう。自己判断で高地へ旅行に出かけたり、飛行機に乗ったりすると、最悪の場合失明してしまうこともあります。稀に手術が終わるとそのまま通院しなくなってしまう方がいらっしゃるのですが、予後をよくするためには医師の指示に従うことも重要です。手術効果を高めるためにも、必ず指示を守るようにしてください。
編集部まとめ
網膜剥離や糖尿病網膜症などに有効な網膜硝子体手術。近年では術式が洗練されてきたことにより、手術の安全性そのものはだいぶ高くなってきました。しかしその一方、手術後に医師の注意を守らないために、せっかく手術が成功したにもかかわらず、目を危険な状態にさらしてしまったり、失明してしまったりする人がいるのも事実。手術が終わっても医師の許可が出るまではしっかり指示を守るようにしましょう。
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