2022年のドラフト会議が終わったということは、2023年のドラフト戦線が始まったことを意味する。例年、秋の段階では「来年のドラフト1位候補」と言っても、数名しか挙がらないことも珍しくない。だが、2023年のドラフト候補は有望な選手の名前が次々にあがる。まさに「大豊作」の予感が漂うが、中心人物になりそうな逸材を10人ピックアップしてみよう。


昨年から甲子園を経験している大阪桐蔭のエース・前田悠伍

前田悠伍(大阪桐蔭高/投手/179センチ・75キロ/左投左打)

 泣く子も黙る「勝てる投手」だ。川原嗣貴、別所孝亮ら実力派の3年生を押しのけ、大阪桐蔭の実質的なエース格に君臨していたのがこの左腕。ストレートのキレ、変化球の精度、コントロール、マウンド度胸、思考力と投手に必要な要素をすべて備える。大阪桐蔭の巨大戦力に守られ、高校野球で酷使されていない点もプラスポイント。左腕という希少性を含め、ドラフト戦線では人気を集めそうだ。

 完成度が高いがゆえ、不安視されるのは伸びしろがどれくらい残されているか。とはいえ、今冬を越えて来春にスケールアップした姿を見せられれば、そんな声も吹き飛ぶことだろう。今夏の甲子園準々決勝で下関国際に苦杯をなめた経験を、さらなる飛躍への糧にしたい。


高校通算100本塁打も目前に迫っている花巻東のスラッガー・佐々木麟太郎

佐々木麟太郎(花巻東高/一塁手/183センチ・117キロ/右投左打)

 入学直後から注目された怪童の高校通算本塁打数は90本を超え、清宮幸太郎(早稲田実→日本ハム)が持つ史上最多の通算111本塁打超えも視界に入ってきた。バットの真芯で捉えた打球は、轟音を残してスタンドへと消えていく。レフトからライトまで全方位に本塁打を打てる能力は、高校生打者として過去最強かもしれない。

 あとは故障の多さ、一塁以外の守備位置の選択肢、140キロを超える速球への対応といった課題がクリアされるか。今秋の東北大会は初戦敗退に終わり、来春のセンバツ出場は絶望的。残されたラストチャンスに甲子園に戻ってこられれば、注目度はさらに増すはず。1年間の成長を見守りたい。


「広陵のボンズ」の異名をとる真鍋慧

真鍋慧(広陵高/一塁手/189センチ・89キロ/右投左打)

 佐々木麟太郎、佐倉侠史朗(九州国際大付)、明瀬諒介(鹿児島城西)と一塁手の高校生スラッガーが多いのが2023年ドラフト戦線の特徴だが、確実性を併せ持つという意味でスカウト陣に評価されるのはこの選手かもしれない。身長189センチ、体重89キロと長身の強打者ながら、ヒットゾーンに運ぶ技術もある。ツボにはまればどこまでも飛ばす長打力、一塁以外をこなせる基礎的な守備能力もあるだけに、ひと冬の成長次第では最終的に佐々木を上回る評価を勝ちとっても不思議ではない。


最速155キロを誇る東洋大・細野晴希

細野晴希(東洋大/投手/180センチ・83キロ/左投左打)

 2023年ドラフトの主役になりうる大物サウスポー。東亜学園高2年時まではドラフト候補と言えるような存在ではなかったが、体に力をつけて大変身。今や最速155キロをマークし、スカウトから「今年のドラフトでも1位指名されていた」と評されるほどの存在になっている。わかっていても引っかかってしまう一塁牽制も隠れた武器。現在は東都2部リーグで戦っているが、早く佐々木朗希(ロッテ)や宮城大弥(オリックス)ら同世代のスターと腕を競わせたい逸材だ。


ケガの影響もあって登板機会は多くないが、最速152キロが魅力の青山学院大・常廣羽也斗

常廣羽也斗(青山学院大/投手/180センチ・73キロ/右投右打)

 好投手揃いの2023年大学球界だが、終わってみればこの投手が最高の評価を受けているのではないか。そう思わせるだけの高い資質の持ち主である。指先でパチンと弾かれた好球質のストレートは、捕手のミットを突き上げるような球筋。1球見ただけでしびれるようなボールなのだ。故障もあって確固たる実績は残せていないものの、最終学年でラストスパートできれば今年の荘司康誠(立教大→楽天1位)クラスの評価を勝ちとってもおかしくない。同じくドラフト候補になる下村海翔らと形成するハイレベルな投手陣は、全国の大学チームにとって脅威になるだろう。


変則サイドから繰り出されるクセ球が武器の名城大・松本凌人

松本凌人(名城大/投手/183センチ・89キロ/右投右打)

 来年は東海地区の大学生に好素材が多い。実戦性と馬力を兼ね備えた磯貝和賢(中京大)、身長195センチのロマン型右腕の赤塚健利(中京学院大)。そして筆頭格はこの松本だ。両腕だけ先にひねる始動からして独特な変則サイド投法だが、全国の舞台でも圧巻のパフォーマンスを見せてきた。横手から繰り出される140キロ台後半のクセ球に、横にも縦にも勝負できる球種がある投球は初見では攻略困難。先発もリリーフもどちらも高い適性を示している。


最速152キロのストレートに加え、縦に落ちる変化球も秀逸な大阪商業大の上田大河

上田大河(大阪商業大/投手/181センチ・85キロ/右投右打)

 今年の大学選手権で最速152キロをマークするなどインパクトを残し、大学日本代表にも選出された。どんな状況でも冷静に実力を発揮するクレバーさと強心臓が最大の武器。縦のスライダー、フォークと空振りを奪える変化球も複数あり、実戦での強さは白眉だ。ストレートにもう一段上の球威が出てくれば、鬼に金棒。高太一との左右二枚看板は、関西大学球界の大きな話題になるだろう。


アマチュア球界屈指の強肩を誇る上武大・進藤勇也

進藤勇也(上武大/捕手/182センチ・88キロ/右投右打)

 今すぐプロに入れても球界トップクラスになれる「爆肩」の捕手。筑陽学園高時代から注目されたが、上武大入学後も順調にステップアップ。個性の異なる投手の長所を引き出すリードで実績を残し、大学日本代表にも選ばれた。3年生以降は地肩の強さを誇示するような二塁スローはなくなり、力感なくコントロール重視の実戦的な送球を身につけている。昨春の大学選手権では慶應義塾大戦で満塁本塁打を放ったように、パワーを生かした打撃も目を見張る。現時点でドラフト戦線の最前線にいる捕手なのは間違いない。


確実性と長打力を併せ持つ明治大の強打者・上田希由翔

上田希由翔(明治大/三塁手/182センチ・90キロ/右投左打)

 キュートな名前(きゅうと)とは裏腹に、攻撃的なプレースタイルの強打者だ。ツボにはまればスタンドに放り込む長打力と、安定して高打率を残す確実性を併せ持つ。勝負どころで結果を残す際の強さに加え、盗塁可能な意外な俊足も。守備面は勉強中ながら、二塁もこなす融通性がある。東京六大学リーグには、ほかにも廣瀬隆太(慶應義塾大)、今泉颯太(法政大)と好素材の内野手がいるが、総合的にさらなる伸びしろが見込める上田の評価が高騰するとみる。


今夏の都市対抗で4本塁打を放ち、橋戸賞を受賞したENEOSの度会隆輝

度会隆輝(ENEOS/外野手/183センチ・83キロ/右投左打)

 来年の社会人球界の目玉になるのは、この強打者だろう。今夏の都市対抗では4本塁打を放ち、MVPに相当する橋戸賞を受賞。横浜高時代はアベレージ型のイメージが強かったが、年々たくましさを増して今では長打も打てる万能型に進化した。天真爛漫なキャラクターもプロ向き。ライトからのスローイングでもスタンドを沸かせられるようになれば、来年のドラフト1位指名はぐっと近づくだろう。