性生活の盲点! クラミジア感染症に気づかず暮らしている人が約半数もいるってホント?
性感染症の典型ともいえる「クラミジア感染症」。国はその予防とまん延防止に力を入れているものの、一定の罹患(りかん)率が続いているようです。なぜ減らないのでしょうか? 感染のきっかけはどこにあるのでしょうか? 「かしわ腎泌尿器クリニック」の岸本先生が解説します。
監修医師:
岸本 幸一(かしわ腎泌尿器クリニック 院長)
東京慈恵会医科大学卒業。国立西埼玉中央病院勤務をはじめ、東京慈恵会医科大学および同大系列病院の泌尿器科教授、泌尿器科部長、副院長などを歴任。2018年には、千葉県柏市内に「かしわ腎泌尿器クリニック」を開院。人の思いに共感し、ともに歩む、「融和」をモットーとしている。医学博士。日本泌尿器科学会、日本低温医学会の各会員。
年間約25,000人以上が発症し続けているという事実
編集部
読者から、クラミジアについての問い合わせが多くなってきています。
岸本先生
正式には「クラミジア感染症」といい、日本で最も多い性感染症(STD)の一種です。性交渉の経験をお持ちの方なら“誰でも”かかる可能性があります。原因菌である「クラミジア・トラコマチス」は弱い菌なので、ヒトなどの体内から出ると生きていられません。ですから、基本的に性行為を通じて感染するものと考えられています。銭湯などでの自然感染は起こりません。
編集部
弱い菌なら、感染者数は少ないのでしょうか?
岸本先生
いいえ、その逆です。ヒトの粘膜組織と“仲良く”してしまうため、感染しても、約半数の方には自覚症状がないとされています。
編集部
えっ、私たちの半数がクラミジア感染症なのですか!?
岸本先生
違います。「日本人の約半数が自覚症状のないクラミジア感染症」という意味ではありません。あくまで、「感染した人の半数に自覚症状がない」ということです。間違いやすいので注意してください。
編集部
では、どのくらいの患者数がいるのでしょう?
岸本先生
厚生労働省が全国約1,000施設の医療機関から集めた報告(※1)によると、2018年単体の患者数としては、男性12,346人、女性13,121人、合計25,467人となっています。過去においては約15年前がピークで、1年あたり、男女合計で4万人以上の患者さんがいらっしゃいました。おそらく、コンドームの普及活動が功を奏したのでしょう。これにより一時的な罹患者数の減少が見られたものの、近年では「横ばい」の状態です。(※1)厚生労働省「性感染症報告数の年次推移」より
https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html
編集部
把握しきれていない「推定患者」もいるのですよね?
岸本先生
はい。医療機関からの「報告数」なので、受診していない患者さんは拾えていません。また、定点調査をした約1,000施設“以外の”医療機関の患者さんも含まれません。
編集部
男女比や年代などの傾向について教えてください。
岸本先生
では、国立感染症研究所の統計(※2)を見てみましょう。女性では10代に始まり、20代前半がピークで、年代を追うにつれ急速に減少していきます。男性も10代に始まりますが、20代全般がピークで、以降は比較的緩やかに減少していきます。(※2)国立感染症研究所「性器クラミジア感染症の年齢群別発生状況(感染症発生動向調査)」より
https://idsc.niid.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_08/kansen01.gif
生まれたての赤ちゃんに感染するケースも
編集部
クラミジア感染症を放置していると、どのような症状が出てくるのでしょう?
岸本先生
女性なら「おりもの」の増加、男性なら性器のかゆみや痛みに加え、「亀頭からの膿」などですね。性交渉の内容によっては、のどの腫れや痛み、咳などを生じることもあります。
編集部
クラミジア感染症が「自然に治る」ことはないのですか?
岸本先生
「ない」と考えたほうがいいでしょう。前述したように、原因菌がヒトの粘膜組織と仲良くしてしまうため、攻撃されにくいのです。弱い菌なりに「やっかい」な存在といえるのではないでしょうか。
編集部
クラミジア感染症は合併症を起こすこともあるのですか?
岸本先生
女性の場合は腹膜炎、子宮頸管炎(しきゅうけいかんえん)、子宮内膜炎、卵管炎、不妊症などですね。また、産道感染をおこすと、生まれたての新生児が感染し、結膜炎などを発症しかねません。ちなみに、妊婦さんの約2.4%が感染していたというデータもあります。一方の男性は精巣上体炎、前立腺炎などが考えられます。
編集部
自覚が難しいとなると、何をしていいのかわかりません。
岸本先生
心当たりがあったら、保険適用になる場合もありますので、自主的な検査を受けてみてください。検査費用は、保険の3割負担を前提として、2,000円から2,500円前後です。女性の場合は妊娠時検査などで発覚する場合もあります。
「禁欲」以外に有効な予防法はない
編集部
クラミジア感染症の検査方法について教えてください。
岸本先生
男性は尿検査で、女性は性器から分泌物を採取して遺伝子検査をおこないます。なお、淋病(りんびょう)の検査もセットでしています。両者を合併している例が約3割あるためですね。また、咽頭部の検査は、男女とも「うがい液法」で検査します。
編集部
陽性となった場合の治療方法は?
岸本先生
「アジスロマイシン」という経口薬なら、1回の服用で済みます。7日間飲み続けるお薬もあるのですが、1回でもサボると効果が薄れるため、あまり処方していません。
編集部
性交渉をしている限り「再発するもの」と考えたほうがいいのでしょうか?
岸本先生
そうですね。パートナーが感染していたり、パートナーが変わったりすると、その可能性は大いにありえるでしょう。ご自身だけの問題ではないと思います。
編集部
ほか、特に注意したい点はありますか?
岸本先生
もしパートナーに感染が確認されたら、ご自身も受診すること。もちろん、逆の場合も同様です。固定のパートナーがいらっしゃらない方は、不特定多数との性交渉をなるべく控えてください。経口感染も含めると、コンドームだけでは予防しきれないでしょう。実際、罹患者数の「横ばい」が起きていますしね。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
岸本先生
クラミジア感染症は「5類感染症」に分類され、その発症数を保健所に届け出ることが義務付けられています。つまり、国が発生動向の調査をおこない、発生・まん延の防止に注力しているということです。それだけ重大な病気なので、受診をお願いします。
編集部まとめ
「自覚や具体的な症状が伴わないから何もしなくていい」。この考え方は、性感染症に関していえば、誤りといえるでしょう。クラミジア感染症の撲滅を阻害する、大きな要因にもなりえます。パートナーへの「横感染」や、子どもへの「縦感染」を防ぐためにも、自主的な検査が求められるのではないでしょうか。オトナとしての責任を持ち、社会と関わっていってください。