経口内視鏡と経鼻内視鏡、どちらを選べばいいですか?
監修医師:
里村 仁志(里村クリニック 副院長)
検査なら「鼻」から、手術なら「口」から
編集部
口から入れる経口内視鏡と鼻からの経鼻内視鏡、実際のところどちらが苦しくないでしょうか?
里村先生
通常の経口内視鏡よりも経鼻内視鏡のほうが「苦しくない」とされていますが、経口でも鎮静剤を使うところが増えているようですので、「苦しさ」のみを比較するのであれば、あまり変わらなくなってきていると思います。もちろん、麻酔の有無と種類は、検査前に確認してみてください。患者さん側から要望を出してもいいでしょう。
編集部
実質的な差はないということですか?
里村先生
そうではありません。経鼻内視鏡の特徴は、検査中の会話が可能ということです。もともと経鼻内視鏡のほうが苦しくないので、鎮静剤や全身麻酔を用いなくても済みます。つまり、意識がはっきりしているということと、口に異物が入らないことから、普段通りの会話をおこなえるのです。
編集部
そう聞くと、経鼻内視鏡を選びたくなってきます。
里村先生
ところが経鼻内視鏡は、経口内視鏡に比べ、画像解像度が落ちるのです。鼻から通すため、管の直径は最大でも5mm程度と経口内視鏡の約半分。これだと経口と同じ解像度のカメラを搭載することができないのです。ただし、経鼻だと画像が粗くて見落としが出るということではなく、検査には十分耐えうる解像度は確保されています。ですが、精密な内視鏡手術を前提とした場合、経口内視鏡でおこなわざるをえません。「患者さんが選ぶ」という視点ではないので、参考情報に過ぎませんが。
編集部
経鼻内視鏡では手術ができないのですか?
里村先生
一般的なクリニックの経鼻内視鏡では、原則としてできません。技術というより、やはり管の細さから手術用の鉗子(かんし)を挿入できないためです。ただし、経鼻内視鏡でも、組織の一部を検査用に摘出することはできます。
経鼻内視鏡の注意点
編集部
鼻から入れると「痛い」「鼻血が出る」という話を聞きます。
里村先生
鼻の穴は細いですから、血管収縮剤などの前処置や、内視鏡を通す“腕”の差によっては、粘膜を傷つけてしまうことがあるでしょう。出血を伴う場合も起こりえます。また、鼻道が狭いなど、患者さんの鼻の穴の形にもよりますよね。経鼻内視鏡固有のデメリットというより、医師と患者さんの個人差によるものだと考えます。
編集部
先ほど、検査中の「会話が可能」と伺いましたが?
里村先生
あくまで当院の場合ですが、観光ガイドのようなイメージで、画面に見えてくる情報を解説しています。質問もその場で受け付けていますしね。そのほうが、患者さんの気も紛れるようです。9割以上の方は、何かしらの会話をします。
編集部
経鼻内視鏡が「嫌だ」という人はいるのでしょうか?
里村先生
初めて経鼻内視鏡を受ける方の中には、「怖い」とおっしゃる方もいますが、受けたあとではいないですね。これも当院のケースですが、検査を前提として約95%の方が経鼻、残りの約5%が経口といったところ。お好きなほうを選んでいただいています。
経口内視鏡の注意点
編集部
経口で用いる麻酔について教えてください。
里村先生
部分麻酔は、経鼻でも経口でも使用します。その点は間違えないでください。そのうえで経口の場合、医院によっては「苦しさを軽減する」ための処置をします。当院では意識のしっかりした麻酔を使いますが、半分眠ったようになる鎮静剤を用いるところもあります。
編集部
経口内視鏡だと、会話はできないんですよね?
里村先生
全身麻酔や鎮静剤を用いると、そうなります。意識のしっかりした麻酔の場合、はっきりとした「言葉」は難しいですが、声や動作によるコミュニケーションの疎通ならできます。また、モニターを見ていただくことも可能です。
編集部
鎮静剤や全身麻酔の希望は出せるのですか?
里村先生
医院にもよります。全身麻酔のリスクを回避する先生がいらっしゃるからです。加えて、検査後に麻酔が切れるまで休んでいただくスペースも必要になります。その間、万が一を想定して、スタッフを付けておかないといけませんよね。施設や人に余裕がないと、希望を出しても受けいれてもらえないのではないでしょうか。
編集部まとめ
内視鏡の「口からか鼻からか」問題には、医療機関の設備や担当医師の考え方、それに検査か手術かという視点が関係してくるのでした。ただ、両方を選べる「里村クリニック」では、約95%の方が経鼻内視鏡にしているとのこと。「まず経鼻を受けてみて、満足できなかったら、次の検査は経口」という選択が順当なのではないでしょうか。