一幡と善哉(公暁)だけじゃない!源頼家「第3の女」が産んだ栄実と禅暁【鎌倉殿の13人】

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第2代鎌倉殿・源頼家(演:金子大地)の妻と言えば、正室つつじ(演:北香那。辻殿)と側室せつ(演:山谷花純。若狭局)が登場。それぞれ善哉(演:長尾翼⇒高平凛人)と一幡(演:相澤壮太)を産んでいます。

既に母子とも殺された一幡に対して、母と共にひっそりと暮らす善哉は、やがて成長・出家して公暁(演:寛一郎)と改名しました。

大河ドラマだと頼家の息子はこの二人だけしか登場していませんが、実は頼家にはもう一人側室がおり、二人の男児が産まれています。

幼くして父と生き別れた、彼らの運命やいかに(イメージ)

その名は栄実(えいじつ)と禅暁(ぜんぎょう)。源氏の血を引く彼らは実朝暗殺後、なぜ鎌倉殿となれなかったのでしょうか。

今回は頼朝の遺児・栄実と禅暁の悲劇を紹介したいと思います。

栄実(えいじつ)

栄実は建仁元年(1201年)、頼家と一品房昌寛女(いっぽんぼう しょうかんのむすめ)の間に誕生しました。

一品房昌寛は故・源頼朝(演:大泉洋)の右筆(ゆうひつ。書記官)を務め、鎌倉幕府の草創期に重大な役割を担った功臣です。

幼名は千寿丸(せんじゅまる。『北条九代記』などでは千手丸)。元久元年(1204年)に父が暗殺され、尾張中務丞(おわり なかつかさのじょう)に養育されたと言います。

しかし建暦3年(1213年。建保元年)2月、泉親衡(いずみ ちかひら)によって謀叛の旗印に担がれ、捕らわれてしまいました。

栄実の師となった栄西(画像:Wikipedia)

まだ幼いため命だけは助けようと同年11月、祖母である尼御台・政子(演:小池栄子)の命令で出家。臨済宗の祖・栄西(えいさい/ようさい)に弟子入りして栄実(実は実朝からか)と改名します。

そのまま仏門に帰依して安らかに暮らすかと思ったら、建保2年(1214年)に和田義盛(演:横田栄司。前年に討死)の残党に担がれて六波羅襲撃を画策。返り討ちにあって自害したのでした。享年14歳。

ただし『尊卑分脈』などでは建保7年(1219年。承久元年)10月6日に自害したとされています。

禅暁(ぜんぎょう)

禅暁は生年不詳。ただし同母兄とされる栄実が建仁元年(1201年)生まれで父の頼家が元久元年(1204年)に暗殺されているため、建仁2年(1202年)〜元久元年(1204年)の間に生まれたと推定されます。

父の暗殺に伴い、出家して京都・仁和寺へ。母は三浦胤義(演:岸田タツヤ)と再婚しました。

物心つかない内から両親と引き離され、孤独な少年時代を過ごした禅暁。修行三昧の日々を送っていた建保7年(1219年)1月27日、叔父の源実朝が異母兄の公暁に暗殺されると、共謀の疑いをかけられてしまいます。

凶行に及んだ公暁。親の仇とは言うが、逆恨みもいいところである。

「……お迎えに上がりました」

同年閏2月5日、上洛した二階堂行光(にかいどう ゆきみつ。二階堂行政の子)に伴われた禅暁は、どこへともなく「下向」していきました。

……二月廿六日前信濃守行光入洛閏二月五日召具禅暁闍梨 故頼家卿息 下向……
※『光台院御室伝』建保7年(1219年)2月26日〜閏2月5日

【意訳】2月26日に上洛してきた二階堂行光(前信濃守)は、閏2月5日に禅暁阿闍梨(頼家の遺児。闍梨は阿闍梨の略=同義語)を連れて下向した。

この時、行光が禅暁をどこへ連れ去ったのかは分かりませんが、翌承久2年(1220年)4月14日、禅暁は東山の辺りで殺されたということです。

十四日…(中略)…今夜禅暁阿闍梨 故頼家卿息 於東山邉誅之
※『仁和寺御日次記』承久2年(1220年)4月14日条

仁和寺を去ってから1年以上。殺すならさっさと殺せばいいものを、しばらく期間があいたのは、もしかしたら母&三浦胤義による助命運動があったのかも知れません。

しかし抵抗も空しく禅暁を殺され、悲しみにくれる妻のため、胤義は鎌倉≒執権北条氏への復讐を誓うのでした。

終わりに

禅暁の死によって根絶やしにされてしまった頼家の男児。このことはまた、頼朝と政子の血を引く男児が死に絶えたことも意味します。

※頼朝の男児としては、大進局(だいしんのつぼね)との間にもうけた隠し子・貞暁(じょうぎょう/ていぎょう)がまだ残っており、寛喜3年(1231年。享年46歳)まで生き延びました。

命を永らえ、功徳を積んだ貞暁(イメージ)

暗殺された実朝に男児がおらず、また北条氏が宮将軍(皇族からの派遣)を当てにしていたことから根絶やしにされた頼朝の男児たち。

はっきりと謀叛を起こした(担ぎ上げられた)栄実はともかく、禅暁を第4代の鎌倉殿としていれば、もう少し穏やかな展開を迎えられたかも知れません。

果たしてNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に栄実・禅暁は出てくるのでしょうか。キャスティングや設定描写なども、楽しみにしています。

※参考文献:

『光台院御室伝』新日本古典籍総合データベース『仁和寺御日次記』新日本古典籍総合データベース藤原公定 撰『尊卑分脈 九』吉川弘文館、1904年6月五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡 8承久の乱』吉川弘文館、2010年4月