「CSR企業ランキング」1〜10位

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NTTの島田明社長(撮影:尾形文繁)

『週刊東洋経済』2022年3月5日号で300位まで発表した「CSR企業ランキング2022年版」。今回は上位500社までを発表する。なお、『CSR企業白書』2022年版には上位800社まで掲載しているのでそちらも参考にしていただきたい。


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CSR企業ランキングは2007年に開始し、今回で16回目。『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)(ESG編)』2022年版に掲載している1631社を対象にCSR154項目、財務15項目で総合評価を行った(ポイント算出方法など、ランキングについての解説はこちら)。

なお、この評価は2021年6月〜10月にかけて行った調査データに基づいて作成している。今年8月締め切りの2022年調査データ(2022年11月下旬に発売予定の『CSR企業総覧』2023年版掲載)でない点にはご注意いただきたい。

トップは日本電信電話(NTT)

では、ランキングを見ていこう。トップは昨年2位から上がった日本電信電話(NTT)で580.7点。人材活用3位(97.1点)、環境10位(96.3点)、企業統治+社会性2位(99.4点)、財務11位(287.9点)だった。

CSR活動のマテリアリティ(重要課題)では17の重点項目を設定。ICT(情報通信技術)を使った社会や環境への貢献やダイバーシティ推進等を掲げている。

ロボットやICT技術を活用して超省力・高品質生産を実現するスマート農業を推進。社会課題解決を主テーマとした事業立案コンテストの開催など、社会課題解決と事業の両立を積極的に進めている。インドで貧困家庭の女子生徒を支援する教育プログラムの実施といった社会貢献活動も国内外で幅広く行っている。

環境面の取り組みも数多い。自社グループによる社会でのCO2排出の削減貢献量を、自らが実際に排出した量の10倍以上にするという高い目標を設定。グループ各社のデータセンターで太陽光発電システムの導入を推進する。データセンターや通信ビルなどでは、中水・雨水利用による飲料可能な上水の使用を削減。顧客に提供する製品等でのプラスチック使用もできるだけ回避している。

人材活用面も高いレベル。有給休暇取得率82.9%、法定を大きく上回る産前11週・産後13週間の産前産後休暇(産休)、最大1年6カ月まで取得可能な介護休業など高い数値や制度が並ぶ。

障害者雇用率は2.69%と法定雇用率2.3%を大きく上回る。特例子会社・NTTクラルティでは、四肢・内部・精神障害者は電話応対・電子化業務、知的障害者が紙すき事業、視覚障害者はWebアクセシビリティ等に従事。それぞれの強みを生かすことで、高いレベルの障害者雇用を実現している。

2位は同じくNTTグループのNTTドコモで579.0点。昨年6位からトップ3に返り咲いた。各部門は人材活用13位(95.2点)、環境10位(96.3点)、企業統治+社会性15位(96.6点)、財務3位(290.9点)とバランスよく得点した。

CSR中期計画でICTによる社会・環境への貢献、コーポレートガバナンスの強化、人権と多様性の尊重、気候変動への対応と資源の有効利用など8つの重点課題を示し、幅広い取り組みを進めている。

太陽光パネルや大容量蓄電池を導入したグリーン基地局の展開や、全国47都道府県に49カ所(総面積210ha)設置している「ドコモの森」など、環境問題の改善に積極的に取り組んでいる。モバイルICTやIoTを活用したビジネス展開も行い、社会課題解決の意識も高い。

期間限定で他部署の業務を副業として行える「社内ダブルワーク」、国内外の他企業に社員を派遣し、社内では得られない能力をつけさせる「国内・グローバルOJT」といった人材育成制度も個性的だ。

2年連続トップだったKDDIは3位に

3位は昨年まで2年連続トップだったKDDI(578.3点)。人材活用23位(94.2点)、環境28位(95.1点)、企業統治+社会性4位(98.3点)、財務4位(290.7点)とバランスよく得点したが、上位2社に及ばなかった。

活動のマテリアリティには「安全で強靭な情報通信社会の構築」「エネルギー効率の向上と資源循環の達成」などを掲げる。専任のサステナビリティ担当役員が会社の課題を幅広く見渡しながら取り組みを進める体制を整備している。 

企業活動で人権に関して悪い影響を与えないよう予防や軽減策を行う人権デューデリジェンスを実施。サプライヤーと連携した紛争鉱物の取り組みやCSR調達に関する取引先へのアンケート実施など、サプライチェーンでの人権問題等が起きないよう取り組んでいる。

海外での活動も幅広い。モンゴルで光ファイバーネットワークによる地域ネットワーク構築、ネパールではコロナ禍でのタブレットを活用した自宅学習支援を行っている。

社内公募制度や企業内ベンチャー制度など従業員のやる気を引き出す制度も幅広く整える。


三井物産が総合商社で初めてベスト10位入り

4位は総合商社で初めてベスト10位入りした三井物産(573.0点)。昨年64位から大きく上昇した。得点は人材活用96.2点(8位)、環境96.3点(10位)、企業統治+社会性95.5点(26位)、財務285.0点(39位)。

非電化地域のインド農村などで太陽光発電や蓄電池を組み合わせた分散型電源事業を展開。社有林「三井物産の森」から創出されるカーボンオフセット・クレジットを適用し実質CO2フリー化を達成するなど、多方面の環境取り組みを行っている。

同社はサステナビリティ委員会が方針を策定し、社内全組織でサステナビリティ経営に取り組むなどもともとレベルは高かった。だが、一部ネガティブ項目の非開示があり得点が伸び悩んでいた。それが今回、回答レベルが上がることで一気にトップクラスになった。

5位は富士フイルムホールディングス(571.7点)が昨年3位から一歩後退。人材活用得点がトップクラスに比べて若干劣っている点が影響した。

6位は中外製薬の571.6点が昨年25位から急上昇。学識経験者で構成されるサステナビリティ・アドバイザリーコミッティでCSR活動全般にアドバイスを受ける。もともと高い企業統治+社会性に加え、生物多様性保全プロジェクトの活動拡大などで環境得点の上昇が寄与した。

以下、7位JT(571.2点)、8位サントリーホールディングス(570.3点)、9位トヨタ自動車(569.0点)、10位花王(568.8点)と続く。

今回、上位で大きく順位を上げたのは145位→67位の東京ガス(541.0点)、356位→98位の日本ペイントホールディングス(530.2点)など。いずれも回答レベルが大きく向上し、順位が上がった。

101〜200位では、LIXIL(529.3点)が325位から105位に上昇。254位から149位に上昇した太平洋セメント(516.9点)も大きく順位を上げた。

ファナックが641位から204位に上昇

200位台では、204位ファナック(498.2点)が昨年641位から上昇。工作機械用NC(数値制御)装置で世界首位の同社は高い利益率を誇る。平均給与の高さなど従業員の待遇の良さも以前から有名だ。

新卒3年後定着率97.2%や有給休暇取得率86.0%など各指標も良好。本社を山梨県忍野村に置き、職住近接の職場は新時代の働き方のモデルになる可能性も。ESGにも本格的に取り組みを開始し、将来トップクラスとなる潜在力は十分にありそうだ。

ほかに208位のHOYA(497.6点)、265位ピジョン(488.1点)、280位のアルバック(484.3点)などが順位を100位以上上げている。

301位以下は総合ポイントのみを紹介する。312位に東急不動産ホールディングス(477.4点)が初登場。346位サンケン電気(471.0点)、390位ZOZO(459.0点)、439位ペプチドリーム(447.4点)、471位オオバ(438.7点)など個性的な企業が順位を着実に上げている。











評価項目の各部門トップは、人材活用が三菱UFJフィナンシャル・グループ。女性の育児休業取得率99.0%など女性が働きやすい環境であることを示す指標は多い。男性も取得率100%を目指し取り組んでいる。「インクルージョン&ダイバーシティ」を掲げ、多様な価値観が尊重される職場づくりも進めている。すでに女性管理職21.8%(724人)と高い水準。さらに外国人管理職も756人存在する。多様性ある職場創出が実現しつつあるようだ。


環境はトヨタ自動車とJ.フロント リテイリングの2社。トヨタは中部電力などと「トヨタグリーンエナジー」を設立し、再生可能エネルギー事業に参入。グループ会社へのクリーン電力の供給を目指す。J.フロントは、2021年3月に衣服のサブスクリプション事業「アナザーアドレス」を開始。アパレルの大量廃棄問題の解決を新業態で挑戦している。


企業統治+社会性は昨年に続きオムロンがトップ。コロナ禍ながら、ボランティア休暇の利用者は年間4828人と高い水準を維持。新型コロナ関連の寄付や自社製品・人材提供を国内外で実施するなど、社会課題の解決に取り組んでいる。


CSR3部門の合計は総合ランキングも1位のNTT。昨年まで4年連続首位だったSOMPOホールディングスは僅差で2位となった。


財務部門では東京エレクトロンが2年連続トップ。総合でも38位とトップクラスを狙える位置にいる。


さて、現在、『CSR企業総覧』2023年版(2022年東洋経済CSR調査)の作業は終盤となっている。掲載社数は初めて1700社を超える見込みだ。CSR評価データも着々と完成形に近づいている。

この最新データに基づいた2023年版CSR企業ランキングは2023年2月頃の発表を予定している。

(岸本 吉浩 : 東洋経済『CSR企業総覧』編集長)