妊娠中に公務員の夫が浮気…専業主婦ライフを満喫していた女性が30歳目前の離婚で選んだ"人生逆転プラン"
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんのもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■公務員と結婚してなんの心配もしていなかったが……
大学を出て就職し、寿退社して子どもを持つ。そんな“往年の既定路線”を歩んでいた専業主婦が突然、シングルで子育てをすることに。仕事や家計管理に無頓着だった彼女は離婚を機にガラリと変貌を遂げます。いつ、何が起きるかわからない時代にもっとも必要な「力」を彼女から学んでいきましょう。
その女性、村瀬幸さん(仮名/32歳)は25歳のとき、3歳年上の地方公務員と結婚しました。当時は正社員として330万円ほどの年収がありましたが、寿退社して専業主婦に。夫の年収は約500万円と、ハイクラスではないものの二人で暮らすには十分な額でしたし、なんといっても「公務員」の安定感は抜群です。
収入にしては、高い家賃のマンションで暮らしていて、家賃代が多少家計を圧迫していましたが、勤め先が潰れる心配がないわけですから、村瀬さんは大船に乗ったような気持ちで、「自分が働かなくてもなんの心配もしていなかった」と語っていました。
■育児で外出もままならない時期に、夫の浮気が発覚
そして20代の二人は、「子どもがいない時期は思いっきり楽しもう」と、後先考えず散財を繰り返します。グルメサイトで高評価の店を探しては週に何度も外食をし、休みになれば旅行へ。おしゃれな村瀬さんは、常にファッションもトレンドに合わせた服を毎シーズン新調。とにかく、夫婦揃って浪費家だったのです。
健康でお金に困っていない若夫婦は、公務員という安定感の中で新婚ライフを満喫。そして3年後、村瀬さんが28歳のときにお子さんが誕生します。しかし、赤ちゃんのお守りで彼女が自由に出歩くことができなくなった頃、夫の浮気が発覚しました。
■浮気相手へのプレゼントを買うためにキャッシングしていた夫
社交的でアウトドア派の村瀬さんは家にこもるような生活を送ったことがなく、勉強も嫌い。コツコツと物事を続けることが苦手で飽きっぽい彼女は家計簿もつけたことがなければ、貯金という概念も持っていませんでした。
それが、妊娠をきっかけに趣味の飲み歩きもできなくなり、心身の不調が続いたこと、また何より赤ちゃんができたことで外に向いていた意識が「家の中や自分自身に向くようになった」と言います。それが浮気を発見するきっかけになり、同時に夫の借金にも気づいたのです。
「金遣いのあらい人だとは思っていましたが、私自身も散々好きなものを買っていたのでとがめることもできなくて……」
浮気相手へのプレゼントをキャッシングで買ったり、趣味のアウトドア用品や時計など、身の回りのものはすべてハイエンドなもので揃えたがる人だったらしく、村瀬さんが彼の借金を知ったとき、返済残高は300万円に膨れ上がっていました。
■30歳目前でシングルマザーになって人生を再設計
堅実だと思っていた公務員の彼が借金まみれだったとは思いもよらず、妊娠中から裏切られていた事実も相まって、夫婦関係は修復不能に。村瀬さんがシングルマザーになったのは30歳目前のタイミング、子どもは1歳でした。
私のところに相談に来てくれたのは、離婚して半年が経った頃。ここまでの話だけ読むと「手に職もないままシングルマザーになってしまったアラサー女性」ということで、悲壮感たっぷりに思えるかもしれません。でも、実際に会った彼女は意外に前向きで、むしろ私にはキラキラして見えました。
明日の食費や家賃などについて村瀬さんは深く考えることもなく、誰かがなんとかしてくれるもの、と思っていたそうです。「シングルになって爪楊枝がなくなったとき、はたと『これも自分で買わなきゃいけないのか!』とあらためて気づいたんです」と、恥ずかしそうに打ち明けてくれました。シングルマザーになって貯金残高とにらめっこする生活をはじめたことから、彼女の人生設計が再スタートします。
■公的制度を片っ端から調べて必要なサポートを確保
浪費家夫婦だったので貯金はゼロ。借金まみれの彼から慰謝料をもらえるわけもなく、養育費としてお願いしていた月5万円の振り込みも公正証書をとっていない口約束だったため、もらえた金額は0円。
資金も収入源もない村瀬さんは実家に身を寄せましたが、実家に余裕があるわけでもなく、両親もまだ現役で働いているため、子育ても頼れません。村瀬さんはまさに「ないない尽くし」の再スタートを切りました。
そんな彼女がまずとった行動は、役所へ行くこと。シングルマザーが受けられる支援・手当を片っ端から調べ、子育て支援団体を紹介してもらい、子育てに必要な「お金」と「人手」を得る努力をしました。そして懸案事項の仕事は、あえて今はパートをしながら貯金を続ける選択をしました。村瀬さんは30歳から勉強をはじめ、看護師になろうとしているのです。
■子育てをしながら働ける看護師の資格取得を目指す
かつてモデルの経験があり、結婚中もたまにバイトでイベントコンパニオンの仕事をしていた村瀬さんは、パートと並行して単発でモデル仕事も入れ、月15万ほど稼げるようになったそう。2、3年はそうして学費を貯めながら、受験のための勉強を続けると言います。
離婚直後はホステスの面接に行こうかと思ったそうですが、コロナ禍で水商売が打撃を受けていた時期でもあり、中長期的に子どもを育てながら働き続けることを考えた結果、看護師という仕事に行き着いたそうです。「またコロナ禍のような事態が起こったときにもクビや廃業になりにくい仕事を考えた」とも話していました。
村瀬さんの選択は決して楽な道のりではありませんし、今すぐお金が稼げるわけでもありません。それでも彼女は長く安定して働き続けられる仕事を求め、今は勉強に時間を使おうと思ったそうです。つみたてNISAもはじめて、月1万円の積立をせっせと続けています。
■楽な方に流されていた人生を反省
村瀬さんは現在32歳。それまでの自分のことを「楽な方にただ流されるまま生きていた」と話していましたが、たしかにその分、貯金やキャリアがなく、人よりスタートは遅れてしまったかもしれません。
そこはご本人も後悔ポイントとして自覚されていました。しかし、彼女はまだ若い。いくらでもやり直しがききますよ、と私からもアドバイスをさせていただき、看護師になった後のマネープランも一緒に考えています。
■高収入の30代女性がこぞって早期退職を望む、その理由とは
仮に村瀬さんのような離婚がなかったとしても、夫が病気になるような不測の事態は誰にでも起こり得ますから、やはり一馬力の子育てはハイリスクです。
会社の給料も上がらず、福利厚生も貧弱になっている現代において、男性一人の肩に家族の生活がすべてのしかかるプレッシャーは並大抵のものではないのでしょう。
そういった意味で、キャリア志向の女性なら自然と共働きになるのでリスクヘッジになるわけですが、今私が危機感を感じているのが、高収入の30代女性たちがこぞって早期退職を望んでいることです。次回はそんなFIREについて掘り下げていきたいと思います。
----------
高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
----------
(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)