プロペラ機によるフライトは、「揺れやすい」と昔から言われますが、実際はどうなのでしょうか。窓の外がずっと雲で覆われた悪天候のなか、北海道内を結ぶ航空路線に乗ってみました。

ANAの「DHC8−Q400」で道内を

 プロペラ機によるフライトは、「揺れやすい」と昔から言われ、不安がる人もいますが実際はどうなのでしょうか。ANA(全日空)グループのANAウイングス運航便で、北海道内を飛ぶ短距離航空路線に乗り、その“リアル”を知ることができました。


中標津空港に到着したDHC8−Q400(相良静造撮影)。

「プロペラ機が揺れやすい」と昔から言われている理由は、一般的にジェット旅客機のように雲の上へ抜ける高い高度を飛ぶケースが少ないこと、そしてジェット旅客機と比べ機体が小さいことがあげられるでしょう。また、プロペラ機はジェット旅客機より歴史も長いため、過去のフライトを想起させることも「揺れる」という印象を持たれる一因といえるのかもしれません。

 今回は、新千歳空港から中標津空港までをフライト。この日は秋雨前線により、北海道は太平洋側を中心に雨に見舞われました。出発した羽田空港は晴れ間がのぞいていましたが、新千歳空港は雨が斜めに振り付ける土砂降りで、始終、雲中飛行です。なお搭乗機はカナダのボンバルディア・エアロスペース社によって製造された「DHC8-Q400」です。

 このDHC8-Q400も、かつての「揺れるプロペラ機」の時代からはずいぶん進化した機体であるといえます。エンジンは昔ながらのピストン・エンジンではなく、コアの部分においてジェット・エンジンの機構と同じものを採用している「ターボ・プロップ」に進化しており、それは他の現代プロペラ機も同様です。そのエンジン性能は「短中距離のフライトではジェット機に匹敵するスピードで飛べる」と公式ページで紹介されるほどで、巡航速度は650 km/hにものぼります。

 また、機内の快適性向上のため、機体からプロペラ音の周波数を打ち消す音波を出すことで、騒音や振動を小さくすることができる「NVS(Noise and Vibration Suppression)」という設備があります。

 このように進化を遂げているDHC8-Q400ですが、悪天で飛ぶとどのような感じなのでしょうか。

プロペラ機での道内路線、どんな感じ?

 新千歳空港出発時、大柄の旅客機であれば、まず牽引車に押される「プッシュバック」方式で駐機場を出ますが、DHC8-Q400は乗客を乗せ終えエンジンを始動すると、その場で右にターン。窓から地面が近くに見えるためでもありますが、まるでレーシングカートカーのような軽快な速さで滑走路に入ります。離陸も「軽く」という表現が似合うほど短い滑走距離で飛び立ちました。


新千歳空港で。手前が中標津空港へ出発するDHC8−Q400(相良静造撮影)。

 中標津空港までの飛行時間は予定通り(時刻表上では50分)。離陸後約1万7000フィート(約5400m)の巡航高度に達すると、冷たい飲み物のサービスが行われます。直線距離にして約280km、羽田〜中部空港くらいの距離の道内路線ですので、10分ほど後には降下のアナウンスが流れました。

 フライトを通して地上の景色が見えたのは、離陸直後と、着陸へ車輪を下げたあたりと、本当に一瞬です。手の届きそうなところを流れていく雲は厚い形をし、濃い乳白色に視界は終始遮られていました。地上の景色は一切見えないなか、最終進入中にやっと赤い屋根の家を見つけて、ようやく地上を確認できる状態での着陸でした。

 飛行中の揺れをチェックしましょう。試しに、空になった紙コップをテーブルへ置いてみると、細かくわずかに震えていました。ただし、意識して気づくかどうか、というくらいの話です。

 一方、気流に起因する大きな揺れについては、気流の乱れは感じるものの、びっくりするような揺れはありませんでした。ちなみにDHC8-Q400搭乗前に羽田から新千歳まで、最新ジェット旅客機のひとつであるボーイング787に乗っていましたが、降下し雲を通過する際は-Q400と同じような感じで揺れました。

 もしかすると「プロペラ機は揺れる」という概念は、もう過去のものなのでしょう。でもできることなら、天気がいいときに乗って、空から北海道の雄大な大地を眺めながら空の旅を楽しみたかったなとは思います。