崩御のエリザベス女王由来の“軍艦”はある? 戦艦&空母「クイーン・エリザベス」の真相
イギリス史上最長の在位期間を誇るエリザベス女王(エリザベス2世)が2022年9月8日に崩御しました。イギリス海軍は君主や著名人の名前を艦名にする慣習があり、空母「クイーン・エリザベス」も存在しますが、どういう経緯でこの名がついたのでしょうか。
空母「クイーン・エリザベス」の由来は誰?
2022年9月8日、イギリス女王エリザベス2世が、夏の静養のため訪れていたスコットランドのバルモラル城で亡くなられました。
享年96歳。1952(昭和27)年の即位以来、イギリスの歴代君主のなかでは史上最長の70年にわたり王位にあられ、第2次世界大戦中は、王女としての慰問活動に加えて、大戦後半には入隊年齢に達したことにより補助地方義勇軍(婦人部隊)で活動されるなど、軍務経験もある世界的に見ても稀な女性君主でした。
イギリスのみならず全世界で愛された女王エリザベス2世が、どうか安らかな眠りにつかれますよう、お祈りいたします。
イギリス海軍史上最大の軍艦、空母「クイーン・エリザベス」(画像:アメリカ海軍)。
エリザベス女王、すなわち「クイーン・エリザベス」と聞くと、2021年9月4日に神奈川県の横須賀港に姿を見せた、イギリス海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を連想する方も多いのではないでしょうか。「クイーン」の名が冠せられているので、一見すると亡くなられたエリザベス2世の名前にちなんだ艦名と思われるかもしれません。
空母「クイーン・エリザベス」は、2009(平成21)年7月7日に起工、2014(平成26)年7月17日に進水し、2017(平成29)年12月7日に就役しています。エリザベス2世は、進水式を始めとして、同艦をたびたび訪れていたことから、イギリス海軍史上、最大の軍艦である正規空母の1番艦ゆえに、イギリス王国の象徴である偉大な女王陛下の名前を付けているものと思ってしまいます。
しかし、空母「クイーン・エリザベス」は彼女の名前が由来ではありません。
実はイギリス史には、もうひとりエリザベスの名を持つ女王がいるのです。それが、16世紀に女王だったエリザベス1世。前出の空母は、こちらのエリザベス1世にちなんで命名されています。
約70年前に存在 初代英軍艦「クイーン・エリザベス」
また、イギリス海軍には、いまから70年余り前にも「クイーン・エリザベス」の艦名を持つ軍艦が存在しています。過去「クイーン・エリザベス」と呼ばれたのは、姉妹艦が計5隻建造されたクイーン・エリザベス級戦艦のネームシップ(1番艦)で、同艦もまた、16世紀に君臨したエリザベス1世にちなんで命名されています。
2021年5月、イングランド南部のポーツマス海軍基地に停泊する空母「クイーン・エリザベス」を、女王エリザベス2世が訪問した時の様子(画像:イギリス海軍)。
1912(大正元)年10月21日にポーツマス工廠で起工、1年後の1913(大正2)年10月16日に進水し、1914(大正3)年12月22日に就役した戦艦「クイーン・エリザベス」は、第1次、第2次の両世界大戦に参加した殊勲艦で、就役から30年以上を生き抜き、1948(昭和23)年に除籍されました。
エリザベス2世が即位したのは、前出のとおり1952(昭和27)年のため、さすがに彼女に由来したとは思えないものの、この戦艦「クイーン・エリザベス」が存在していたことから、空母「クイーン・エリザベス」はその名を受け継いだ2隻目の軍艦ということができます。その意味では空母の方も2世であるといえなくもないでしょう。
ただ、ひょっとしたら今後、亡くなられた女王エリザベス2世の名前を冠したイギリス軍艦も登場するかもしれません。もし、その時に空母「クイーン・エリザベス」が現役で運用されていたとしたら、エリザベス1世とエリザベス2世、それぞれの名が由来のイギリス艦が並存することになるのでしょうか。
そして、もしそうなった場合、艦名にどのような工夫をして両艦を区別するのか、興味深いところです。
なお、ご崩御されたエリザベス2世の御母堂、故ジョージ6世のお妃も同じくエリザベスでした。彼女の名はエリザベス・ボーズ=ライアン。こちらを由来とするのは、イギリスの船会社キュナード・ラインが所有の客船「クイーン・エリザベス」ならびに「クイーン・エリザベス2」です。