塗料大手の日本ペイントが「自動運転」市場に参入。道路に塗るだけで自動運転インフラが作れるという特殊塗料を開発しました。従来方式と比較して、大幅なコスト減を実現していますが、そもそも自動運転バス、いつ実現するのでしょう。

自動運転用塗料「ターゲットラインペイント」とは

 塗料大手、日本ペイントグループの日本ペイント・インダストリアルコーティングスが「自動運転」市場に参入、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスにて走行路に施した特殊塗料と、そこで運行される自動運転バスが2022年9月6日に報道陣へ公開されました。


自動運転バスが走る道路の中央に「ターゲットラインペイント」が施工されている(中島洋平撮影)。

 同キャンパスでは5月より、一部公道を走るキャンパス内の循環バスにマイクロバスを改造した自動運転車両を導入し、実証実験を行っています。運行は神奈川中央交通が担当。運転手は乗っていますが、基本的にボタンを操作するのみで、操舵や発進・停止は全て自動です。

 この走路に施工されたのが、日本ペイント・インダストリアルコーティングスが開発した特殊塗料「ターゲットラインペイント」です。車線の中央部に、アスファルトとほぼ同色の破線(50cm間隔)がペイントされています。これは自動運転車のセンサー(LiDAR)に対して「光を返しやすくする」ペイントなのだとか。

「(自動運転車が位置測位に用いる)GPSの精度を上げることができます。GPSは木やビルが立ちならんでいると、うまく入らないことがあります。ペイント単体でも自動運転インフラとして成立しますが、いくつかのシステムと組み合わせることで、冗長性を確保することができます」(日本ペイント・インダストリアルコーティングス 新規事業創出グループ 八幡修平さん)

 プロジェクトにかかわる慶応義塾大学 政策・メディア研究科の大前 学教授によると、自動運転車は人身事故は少ないものの、「道を外れて進んでいく」ことは多いのだとか。「木が多かったり、近くで何か電波を発していたり、草刈り機が動いていたりしても、GPSに影響を与えます」といいます。

 ターゲットラインペイントは、いわば“塗料のレール”となり、自動運転車がGPSの範囲外でも、それに沿って進むことができるというわけです。

整備コストは大幅減! でも、それだけじゃダメ?

 こうした自動運転車のレールにあたるインフラは、従来、路面下に埋め込む球状の磁気マーカーや、電磁誘導線といったものが使われてきましたが、路面に塗るだけのターゲットラインペイントは、導入コストを従来の3分の1以上に削減できるのだとか。メンテナンスコストについては5分の1から10分の1になるのではないか、ということでした。

 とはいえ、塗料による自動運転車向けのマーカーも一部で実績があります。ただ、白や色付きのマーカーでは、他の道路標示と誤認する恐れがあることから、大々的に施工するのは難しかったといいます。大前教授は当初、「透明の線を」と日本ペイント側にオーダーしたものの、機能性を確保するうえで、アスファルトとほぼ同色になったそうです。

 この塗料は日本ペイントにおける新規事業創出の一環として開発されました。国は2025年ころまでに、レベル4の自動運転サービスを40か所以上で展開することを目指しており、同社もその市場を見据えています。


自動運転バス車内。上のモニターは、ターゲットラインペイントが施工された路面を映し出している(中島洋平撮影)。

 大前教授によると、自動運転サービスを本格的に営業運行するには、何重もの仕組みにより堅牢なシステムを構築し、信頼性を確保する必要があるといいます。今回の塗料による自動運転インフラは、自治体の導入ハードルは確かに下がるものの、日本ペイント・インダストリアルコーティングスは、「他のシステムと共存できれば」としていました。