「路線バス」が変わっていく 地域まるごと廃止 別の交通に転換 鉄道と手を組む… 進む再編
鉄道・バスなどの交通機関が厳しい状況に置かれる中で、バス会社どうしの共同運行化や車両の変更、予約制の導入などが見られるようになってきました。各地の動きを見てみましょう。
地方銀行と共に国の「再編促進」ターゲットに 変化をはじめた路線バス事業者
鉄道・バスなどの交通機関が厳しい状況に置かれる中で、2020年11月に施行された独占禁止法の改正をきっかけとしたバス事業者どうしの連携、再編が目立つようになってきました。2021年4月には熊本市内のバス5社が共同経営化、その後は岡山市、前橋市などで同様の動きが続いています。この法改正は、今や救済が必要となっている交通事業者の再編を視野に入れたものです。
旧熊本市営バスを引き継いだ熊本都市バス。2021年にはさらに市内のバス5社とで共同経営化が実現した(宮武和多哉撮影)。
戦後の鉄道・路線バス事業は収益の高い“既得権益“でもあり、運賃引き上げなどを避けるため提携や合併が厳しく規制されてきました。しかしこの”カルテル規制“(不当な取引・談合の制限)を名目とした公正取引委員会の動きが、過去には民間主導で進められていた広島、沖縄などのバス業界再編を頓挫させる一因となるなど、その実態は時代にそぐわないものでした。
この改正では「重複地域」「過疎地域」などの条件付きで鉄道・バス事業者を独占禁止法の適用から除外し、同様に再編の必要が叫ばれていた地方銀行と共に、合併や共同経営などの再編を柔軟に行えるようにしました。
事業者や路線の再編だけではありません。「決まった地点を決まった時刻に巡る」「大きなサイズの車両で多量輸送」という、既存の路線バスの在り方を変えるケースも増えてきました。中には路線バスの枠組みを取り払い、補助金頼みの体質から脱却し、自由度の高い“無料バス”に転換した事例も。各地方で行われている路線バス再編の状況を見ていきましょう。
〈パターン1〉競争から競合へ!昨日の敵と手を組む?
●とりあえず競合ストップ!
長崎バス・長崎県営バス:2022年4月1日、共同経営体制に移行、路線再編。
長崎市内およそ120kmのバス路線のうち、長崎バスと長崎県交通局(長崎県営バス)で約7割が競合し、そのネットワークはあまり効率的とは言えません。2012年には東長崎・日見地区の県営バスエリアに長崎バスが進出、その2年後には長崎バスのエリアである滑石・女の都に県営バスが進出するなどしました。現在では、これらエリアでの赤字が2者で単年5億円近くまで膨らんでいます。
そこで長崎バスと県営バスは2022年4月、民営・公営の組み合わせとして初めての共同経営化を実施。東長崎・日見地区は県営バスに、滑石・女の都地区は長崎バスに運行を集約し、地区によっては2〜3割程度の減便も行われました。10月には県営バスの4路線をコミュニティバスに転換(引き続き県営バスが運行)の上で短縮、郊外の路線と中心部へ向かう路線の乗り継ぎを行う体制とし、本数の削減を図ります。なお「nimoca」ポイント還元による乗り継ぎ割引を予定しているとのことです。
競合や重複状態の解消を目指す共同経営化のきっかけとなったのが、コロナ禍の影響です。特に県営バスは、空港連絡バスの乗客が8割以上減少したほか、高速バス路線も軒並み減収となるなど、収益の柱を絶たれていたのです。
長崎県は、十八銀行・親和銀行の統合が独占禁止法に阻まれている間に、両行とも疲弊してしまった、という苦い経験があります(2020年に統合、「十八親和銀行」に)。坂が多く道路網も複雑な長崎の街ではバス利用者の多さも目立ちますが、市内中心部で市電も通る新浦上街道に往復3000本以上のバスが集中するなど、交通網の効率化の余地はまだありそうです。
長崎県営バスターミナル前。この通りは長崎バス、県営バスともに路線が重複し、本数が多い(宮武和多哉撮影)。
●全国初! 鉄道・高速バスが手を組んだ
JR四国「牟岐線」・徳島バス「エディ号」:2022年3月、共同経営体制に移行
JR牟岐線と高速バス「エディ号」(室戸・生見・阿南大阪線)が並行する徳島県阿南市から海陽町までの区間で、並行する鉄道・バスどうしの相互利用が可能に。同時にJR阿南駅で鉄道・バスが接続できるようダイヤ改正が行われました。多量輸送が必要とされる朝晩は鉄道、日中は高速バスという棲み分けが、少しの工夫で可能だったといえます。
鉄道とバスとで運賃も平準化される阿南駅〜浅川駅間では、鉄道が1日10往復、高速バスが1日4往復。沿線では高校の再編により海陽町から阿南市内の高校への通学も生じていますが、高速バスはその通学時間に合った便がありませんでした。鉄道にとっては閑散とした日中の運行をバスに任せることができ、高速バスも阿南以南で空席が目立ち、対策を迫られていたので、この連携は両社にメリットのあるものとなりました。
〈パターン2〉使えるものはどんどん使え!路線を残してカタチを変える
地域によっては大きなバス車両で運行するメリットも薄れ、かつ大型免許を持つドライバーも年々不足しています。そのなかで車両を変更したり、あえて路線バスの枠組みから外れるケースもあります。
●路線バス→無料バス、自治体にとってもおトク?
北鉄奥能登バス・珠洲市営バス:2022年3月28日、2事業者計8路線を無料バス「すずバス」に転換
石川県珠洲市では、市外からの路線を除く北鉄奥能登バス・市営バスの計8路線を“路線バスとして”廃止するも、市が運行を担う無料バスとして運行を継続しました。
これらの路線は収支率が平均して約10%と低迷し、珠洲市・石川県が北鉄奥能登バスに拠出していた約5000万円の補助金では、損失を補填しきれない状態に陥っていました。その代替を担う市営の「すずバス」は平日のみの運行となるものの、運賃は無料。市内の2か所(狼煙・大谷)に乗り継ぎ拠点を設けて重複区間を解消しつつ、ダイヤや運行ルートはほぼ引き継がれました。
無料化は一般路線バスの枠組みから外れるため、国や県の補助も対象外になります。その代わりに朝晩のみの利用であったスクールバスを日中に活用したり、小型バスやワゴン車などを導入することで、ランニングコストを従来の補助金以下に抑える見込みです。
珠洲鉢ヶ崎で発車を待つ北鉄奥能登バス(宮武和多哉撮影)。
●バス路線はワゴン車で維持、大型車両は通学用に維持!
因の島運輸→因の島バス(アサヒタクシー傘下):2022年6月、事業継承
広島県の因島でバスを運行する因の島運輸は、コロナ禍による乗客の減少に加えて、運転手の高齢化や、経年したバス車両の更新も課題となっていました。かつ尾道市・福山市から島の中心部である土生地区への路線は、本四バス・おのみちバスとの共同運行で、島内ローカル路線をおもに担う因の島運輸の環境は厳しさを増していました。
そこで同社は福山市を本拠地とする「アサヒタクシー」に全事業を譲渡、アサヒタクシーが設立した子会社「因の島バス」が路線の運行を維持しています。
ただ因島は幼稚園・小学校の統合が進み、小学校だけでも児童100人以上が4台のバスで登下校を行うなど、サイズの大きな路線バス車両がまだまだ必要です。通学用に路線バス車両を維持しつつ、定員が少なく大型免許の必要がないワゴン車との併用を検討しています。
〈パターン3〉路線バスの「予約制」への転換、けっこう人気?
「決まったルートを決まった時間に運行」という路線バスの形態を予約制(デマンド)に変更し、利用者の呼び出しに応じAI(人工知能)が最適なルートを弾き出して運行する「AIデマンドバス化」の波も進んでいます。
●市内バス路線を一気にデマンド化!
島鉄バス(長崎県)島原市内6路線:2021年10月、「たしろ号」に転換
庄内交通・平田るんるんバスなど(山形県)酒田市内5路線:2022年8月、「酒田市デマンドタクシー」に転換
アルピコ交通バス(長野県)茅野市内13路線;2022年10月、「のらざあ号」に転換
さとバス(千葉県)富里市内2路線:2022年10月、新デマンド交通に転換
予約状況によって最適なルートで運行するという「AIデマンドタクシー」なら、バス停の有無にかかわらず乗降できるスポットを増やすことができます。例えば茅野市では、「のらざあ号」への転換で、乗降スポットの数が既存バス停を含め1000か所以上と大幅に増加し、自宅から乗降場所への距離も軒並み近くなります。一方で課題としては、予約システムが使えない高齢者や、定時運行を求める声への対応などがあり、この解決のために転換が数か月遅れたようなケースも見られます。
なお上記で挙げた4地区は、路線ごとではなくエリアごと、街ごとの大幅なデマンドバス転換の事例です。バス運行の拠点となっていた酒田庄交バスターミナルや島鉄バスターミナル(島鉄バス)の閉鎖などが影響しているケースもあります。
ただ各地とも、市外への路線はおおむね維持されています。また庄内交通のエリアでも、隣接する鶴岡市では湯野浜温泉などに向かう観光路線がそれなりの成績を上げており、拠点となる「エスモールバスターミナル」も2017年に全面改修を行ったばかり。市もバス路線の活性化に積極的で、酒田市とは対照的に今後の運行は維持されそうです。
茅野駅前で発車を待つアルピコ交通のバス。茅野市内の路線の多くが廃止となるものの、このバスを含め観光路線は存続(宮武和多哉撮影)。
●予約制タクシーが乗客激増、バス廃止の引き金に?
南山城村営バス(京都府)高山大河原線:2022年4月、「村タク」へ転換
京都府南山城村では、前年にサービスを開始した予約制タクシー「村タク」の利用者が村営バスの3〜4倍にのぼり、早期にバス廃止、村タク転換の決断が下されました。
この「村タク」は予約が必要であるものの、村内移動なら1人あたり300円と手頃で、何より1系統しかない路線バスより乗降場所がはるかに多く、利用者の反応も上々。現在では東隣の笠置町も「村タク」参画に興味を示しており、今後の状況次第では周辺自治体を含めた広域の路線バス再編に発展するかもしれません。