『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』その後 相次ぐ路線廃止で年々難しく 特に厳しい県境越え
テレビ東京系列の人気番組『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』シリーズは、これまで15年間、40本以上が放送されてきました。その中で廃止された路線はエリアをまたぐ路線に集中しています。
「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」新作放送!過去を振り返る
2007(平成19)年にテレビ東京系列「土曜スペシャル」特番として放送を開始した『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』は、後継番組の『ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z』も含めてこれまで40本以上が放映されてきました。そして2022年8月20日、最新作となる“Z”シリーズの第19弾「群馬県・谷川岳〜山形県・銀山温泉 人情ふれあい珍道中」が放送されます。
これまで15年間で約1100本のバスを乗り継いできた同番組ですが、放送後に路線の廃止やコミュニティバスへの転換が行われた場合も多く、すでに同じルートでの乗り継ぎを行えないケースも。その歴史を振り返りつつ、廃止などの変化が訪れた路線を辿ってみましょう。
鳥海山麓の鉾立バス停。山形・秋田県境の乗り継ぎ拠点だったが、両側の路線とも予約制乗合タクシーに変わった(宮武和多哉撮影)。
次に来た時は廃止済み! 「県境・自治体境跨ぎ路線」
番組の登場後に廃止となったバス路線の中でも、特に目立つのが、都道府県や自治体境をまたぐ路線の廃止や区間短縮です。各回で旅のキーになった路線も多くあります。
●熊野交通(現・熊野御坊南海バス) 新宮潮岬線:第21弾(2015年9月放送)
新宮潮岬線はその名の通り和歌山県新宮市と紀伊半島の南端、串本町の潮岬を結ぶ長距離路線でした。しかし串本町が補助金の拠出に難色を示したことから、放送直後の2015年9月に廃止。その後、2020年放送の“Z”15弾は潮岬が目的地として設定されたものの、既に路線は自治体ごとに途切れ、最終バスにタッチの差で間に合わず乗り継ぎ失敗。田中要次さん、羽田圭介さんコンビは、キートン山田さんのナレーター卒業を成功で飾ることができませんでした。
●庄内交通「鳥海ブルーライン快速バス」/象潟合同タクシー「鳥海ブルーライナーバス」:第7弾(2010年9月放送)
山形県と秋田県にまたがる鳥海山の登山口がある「鉾立」まで夏季限定で運行されていた庄内交通・象潟合同タクシーの路線が相次いで撤退。酒田駅と象潟駅へ早朝に到着していた寝台特急の廃止後に乗客が激減したそうで、現在はどちらも予約制乗合タクシーに転換しています。
さらに庄内交通は2022年3月に酒田市の路線バスをほとんど廃止しているほか、秋田県境に近い遊佐町の朝晩のみ走る町営バスに乗れたとしても、県境部では長い徒歩連絡を要するなど、この日本海側の山形〜秋田県境部の乗り継ぎは困難さを増しています。ただしこの区間は、酒田市から秋田県本荘市まで一般道を走行する東京発着の高速バス「夕陽号」があり、今後とも番組に登場する可能性はあります。
区間短縮・コミュニティバス転換
●秋田中央交通 五明光線/秋北バス 五明光線:第7弾(2010年9月放送)
秋田県中部の乗り継ぎ拠点「五明光」バス停(秋田県男鹿市)も、男鹿市側から乗り入れていた秋田中央交通の路線が2011年に市営バスへ、北の三種町側から乗り入れていた秋北バスの路線も2019年に末端が町営バスに転換。バスポールの撤去などもあり、予備知識がないと乗り継ぎが難しくなっています。ただ三種町側は、町営バス転換後、細かく集落を回るルートになったことから、1年で乗客が倍増したのだとか。
●JR四国バス 久万高原線(愛媛県):第17弾(2014年4月放送)
もともと松山と高知を内陸経由で結ぶバスルートの一部であるJR四国バスの久万高原線は、2017年に末端の久万高原〜落出間を短縮、落出で接続をとっていた高知県側の黒岩観光バスも川渡〜落出間を廃止したため、乗り継ぎができなくなってしまいました。
落出バス停に到着する黒岩観光バス。過去作品に登場した。2015年(宮武和多哉撮影)。
●祐徳バス 太良線(佐賀県):第23弾(2016年6月放送)
佐賀〜長崎県境の乗り継ぎが可能だった祐徳バス太良線は、2019年に竹崎入口から、長崎県境を目の前にした「県界」までのあいだを区間廃止しています。
バス会社ごと撤退、乗り継ぎ困難に
バス事業者が撤退したことによる廃止もあります。
●井笠鉄道(井鉄バス)倉敷線:第3弾(2009年3月放送)
井笠バスは放送終了後の2012年に会社を清算、全路線撤退を打ち出しました。その後広島県側に本拠地を持つ中国バスなどがいったん路線を引き受け、主要路線は新会社「井笠バスカンパニー」に引き継がれたものの、番組に登場した倉敷線(倉敷駅〜矢掛)はそのまま廃止されました。
その後、2016年放送の第24弾では、太川陽介・蛭子能収コンビが前回利用した路線が既にないことを知り、笠岡市〜寄島町の別ルートで約4kmを徒歩移動することに。途中で時刻表付きのバス停を太川さんが発見、狂喜乱舞したところ地元の人に「もう廃止されている(撤去されていないだけ)」と教えられ、憮然とする場面も見られました。
また第22弾と“Z“13弾に登場した長野県佐久市、第7弾に登場した新潟県胎内市(旧・新潟交通中条営業所管内)など、地域の路線バスそのものの消滅で、番組のルートとしての再登場が難しそうな地域も増えてきました。
乗り継ぎが困難になったルート
関越交通の猿ヶ京温泉車庫、過去作品に登場した(宮武和多哉撮影)。
●関越交通 高崎駅〜渋川駅〜沼田支所〜猿ヶ京温泉:第13弾(2013年1月放送)
●名鉄バス・岐阜バス「川島」「川島松倉」乗り継ぎ:第23弾(2016年6月放送) ほか
順調にバスを乗り継げていたルートでも、第13弾に登場した高崎市〜みなかみ町ルートのように、沼田市内の区間の大幅減便で、途中の「上野入口」で乗り継げなくなった場合も。また過去に複数回登場している岐阜県川島町の「川島松倉」バス停では、岐阜県側のバスのルート上にあった木曽川に架かる川島大橋に傾斜が見つかり、全面通行止め・架け替えのためJR岐阜駅方面の路線が廃止。代わって名鉄笠松駅方面への路線が開設されたものの、バス路線が集中する岐阜駅方面への乗り継ぎは迂回が必要です。
このほか、長野県塩尻市の自治体バス「すてっぷくん」全路線が2024年までにAIデマンドバス(予約制・AIでルートを決めて運行)に転換される見込みです。諏訪地方と松本の中間にある要衝・塩尻市から路線バスが消滅すると、甲信越地方でのルート設定が今後かなり難しくなりそうです。
新作・第19弾の見どころ!
各地で環境が変わる中で、最新作の“Z”第19弾は群馬県・谷川岳ロープウェイ〜山形県・銀山温泉間を4日間で移動します。なお前回(第18弾・石川県・輪島〜静岡県・御前崎)は失敗に終わっているため、連敗の場合は番組ルールに基づき、田中要次さん・羽田圭介さんのコンビは即引退となります。
もし今回、福島県内を「中通り」(内陸部・東北本線沿い)に郡山市〜本宮市〜二本松市と移動するのであれば、第5弾に登場した本宮市生活広域バス・岳温泉方面が2022年に廃止となっているため、徒歩は必須となります。しかしその一方で郡山市から商業施設「フェスタ」を経由して本宮市を直接結ぶバス路線が2019年に開業しており、第25弾で太川さん・蛭子さんが4km歩いた郡山・本宮の市境越えは、この路線を探し当てることができれば必要ありません。
なお郡山市〜二本松市中心部の知られざる乗り継ぎ経路として、郡山駅から磐越東線 引駅、二本松市百目木、小浜と4回乗り継ぐルートも。ぐうの音も出ないほどの遠回りですが、接続が良ければ3時間ほどで移動でき、長い徒歩連絡の必要ありません。こういった“抜け道ルート“を探りつつ「あぁ田中さん羽田さんそっちダメ!」とテレビの前で勝手に突っ込むのも、番組の楽しみとして“アリ“でしょう。
野辺地駅前のバス乗り場と松浦食堂(左奥)は、番組に何度も登場した。2015年(宮武和多哉撮影)。
この他にも東海道線沿いでは番組に登場した富士急バス・遠鉄バスの廃止が相次ぎ、この後も青森県東北町で路線バスの廃止が検討されるなど、実際に追体験できるルートは減少していきそうです。番組に何度も登場した青森県・野辺地駅前の「松浦食堂」閉店など、バス以外の地域の環境も刻々と変わりつつあります。地域の風景・歴史を振り返る意味でも面白いこの番組、ロケ地を放送後に後追いで巡ってみるのも一つの楽しみかもしれませんが、くれぐれも、行くならお早目に。