今季のベルギーリーグ開幕を、先発メンバーの一員として迎えた日本人選手は10人(開幕直後に移籍したゲンクのFW伊東純也を含む)もいた。DF町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サンジロワーズ)が負傷していたこと、MF本間至恩(クラブNXT)は2部リーグ開幕がまだだったことを思うと、出場機会の可能性のあった選手は全員、レギュラー格として新シーズンを迎えたことになる。


今季早くも2ゴールを記録しているSTVVの林大地

 ベルギーリーグで初めて成功した日本人選手は、GK川島永嗣(リールセ→スタンダール。現ストラスブール)。FW久保裕也(ゲント。現FCシンシナティ)がゴールを重ね、MF森岡亮太(ベフェレン→アンデルレヒト→現シャルルロワ)は創造力あふれるプレーで現地の人々を虜にした。

 日本企業DMM.comがシント・トロイデン(STVV)を買収し、その一期生のDF冨安健洋(現アーセナル)、MF遠藤航(現シュツットガルト)をビッグリーグに送り出し、FW鎌田大地は自信をつけて所有クラブのフランクフルトへ戻っていった。

 2017−18シーズンの後半戦でゲンクに加入したFW伊東純也(現スタッド・ランス)は圧巻のスピードとアシスト能力の高さで大活躍し、森岡とともに近年の『ベルギーリーグの顔』のひとりという高ステータスを得た。MF三笘薫(現ブライトン)は昨季の1シーズンだけベルギーでプレーしたが、それでもユニオンファンのみならず多くのベルギー人に強烈な印象を残していった。

 こうした積み重ねによって、ベルギークラブの補強担当者たちも「Jリーグでこのくらいのプレー、このくらいの成績を残せば、ここでも活躍できる」という物差しができたのではないだろうか。今季1部リーグを形成する18クラブのうち、まだ日本人選手を獲得したことがないのは、ルーヴェン、ズルテ・ワレヘム、ウェステルロー、セランのみ。このうち少なくとも2クラブはかつて、日本人選手にオファーを出したり、テストの場を設けたりしたことがある。

香川→橋岡→林でゴール

 現時点でベルギーリーグのクラブに在籍する日本人選手は11人。優勝候補、中堅、残留を目標とするチームまで、8クラブに散らばっている。このなかで複数人の日本人と契約しているのはSTVVのみ。GKシュミット・ダニエル、DF橋岡大樹、MF香川真司、FW林大地の全員が開幕からレギュラーを務めている。

 昨季、キャリアハイの11クリーンシートを達成したシュミットはハイボールの強さはもちろんのこと、決定機を阻止する場面も目立ち、チームに勝ち点をもたらす存在だ。フィールドプレーヤーの3人は開幕カードのユニオン戦(1−1)で鮮やかな連係を披露。右サイドを香川と橋岡が崩し、最後は橋岡のクロスを林がヘッドで決めた。林は翌節のゲント戦(1−1)でもヘディングシュートを決めている。

 香川は開幕から2試合、林と2トップを組んでいたが、初戦後には「やはりMFでプレーしたい。(ベルント・ホラーバッハ)監督にもその話はしている」と語っていた。その後、第3節のコルトレイク戦(0−0)で攻撃的MFとしてプレーした。

 アラベスからの期限付き移籍でSTVVに加入して昨季8ゴールを決めたFW原大智(今季は復帰)について、現地紙は「STVVはこの夏の市場での獲得をあきらめてない」と報じている。また、現在所属先のないFW岡崎慎司(前カルタヘナ)がコンディション調整のため、STVVの練習に参加している。

 STVVと第3節で戦ったコルトレイクにはCB渡辺剛がいる。第2節のセラン戦でセットプレーの混戦をボレーで蹴り込んでベルギーリーグ初ゴールを記録し、1−0の勝利に貢献している。

 コルトレイクは昨シーズン、終盤11試合を1分け10敗という散々な結果だった。そのため開幕のルーヴェン戦で決定力不足が響いて0−2で負けた時には、カリム・ベロシン監督の解任をサポーターが訴えていた。ベルギーの新聞では「渡辺のゴールは指揮官を救った」と記されていた。

三好康児はブレイクの兆し

 渡辺は今年1月、チームが不振にあえいでいた時期にFC東京から加入。昨季は出たり出なかったりを繰り返して出場7試合に終わったが、今季は3戦続けて先発している。

 今季Jリーグの得点王争いで首位を走っていたFW上田綺世は、この夏、鹿島アントラーズからセルクル・ブルージュに移籍。ドミニク・タールハンマー監督は「上田はコンスタントに裏を狙うタイプ。ケビン・デンキーは強靭なターゲット型ストライカー。ふたりをローテーションすることはできるが、共存も可能。上田はトップ下もできる」とシーズン前に語っていた。

 開幕戦はデンキーがストライカー、上田がトップ下という形。第2節は上田がストライカーとして先発、第3節はデンキーが先発し、上田はトップ下として途中から出場した。タールハンマー監督のコメントどおりのことが起こっているが、上田にとってもデンキーにとっても中途半端だ。

 第2節のアンデルレヒト戦で上田はシュートをネットに揺らしたが、味方のファールをとられて幻に。しかし、ここまで3試合を振り返ると、チームの仕上がりは程遠く、前線で上田が身体を張ってルーズボールを競ってマイボールにしても孤立してしまう状況だ。

 ベルギーリーグ4季目となるMF三好康児には、今季ブレイクの期待がかかる。なかなかアントワープでレギュラーの座を奪えなかった三好だが、マルク・ファン・ボメル新監督からの信頼は厚く、開幕からしっかり右ウイングのポジションを掴んでいる。公式戦6試合で3アシストと結果が出ているうえ、プレッシングにチェイシングと、エネルギッシュにピッチを駆け巡っている。

 しかも今季のアントワープは、クラブ・ブルージュ、ゲント、アンデルレヒトとともに優勝を争うと目されている好チーム。昨季加入のMFラジャ・ナインゴラン、今季加入のCBトビー・アルデルワイレルトは地元で生まれ育ったビッグネームということもあって、ファンの期待は高まるばかり。優勝を目指すチームのなかで、三好の奮闘を楽しみにしたい。

絶対の信頼がある森岡亮太

 セレッソ大阪からのレンタルでオーステンデに移籍したMF坂元達裕は、1月のデビューマッチで得意のドリブルからアシストを記録。結局、昨季はこの1アシストにとどまったものの、プレーの質に対するクラブの評価はものすごく高く、5月下旬に完全移籍を果たした。

 今回の契約後、ゴーティエ・ガナイェ会長は「タツ(坂元のこと)はスピードがあってドリブルがうまい。さらにとてもポリバレントなプレーヤーだ。言語、文化に馴染むのがものすごく大変だったにもかかわらず、タツはうちのチームのプレーに即座にインパクトを与えた」と現地紙に答えている。

 オーステンデでサイドアタッカー、2トップの一角、シャドーストライカー、左ウイングバックなどをこなす坂元は、第2節こそケガで招集外だったが、ここまで2試合に出場。第3節のシャルルロワ戦ではミドルパスで今季初アシストを記録した。

 今年31歳になったMF森岡亮太は実績十分。ベフェレン、アンデルレヒト、そして現在所属するシャルルロワと移り、今季がベルギーリーグ6季目となる。

 中盤のあらゆるポジションをこなす44番のテクニシャンは、昨季4ゴール10アシストを記録。ベルギーリーグ1年目(2017ー18シーズン、ベフェレンとアンデルレヒトでプレー)以来、久しぶりにアシストの数をふたケタに乗せた。守備面での貢献も、ベルギー国内では高く評価されている。

 第2節のユニオン戦を見るかぎり、まだ本調子とは言いがたい。第3節のオーステンデ戦では前半いっぱいでベンチに退いている。だが、彼ならこの先、しっかり調子を上げていくだろうという信頼がチーム内にはあるはずだ。それだけのステータスが、ベルギーでの森岡にはある。

 24歳のDF町田浩樹は左利きの大型CBということもあり、「将来の代表に」という声も聞こえてくる。今年1月に首位を走っていたユニオンに加入すると、リーチの長さとスピードを生かした守備で素質の高さを見せつけた。昨季のプレーオフ時にはレギュラーに定着し、ビッグゲームで戦い続けた。しかし、プレーオフ第4節のクラブ・ブルージュ戦で退場したのはもったいなかった。

 今季はケガで出遅れた。開幕戦でチーム広報に聞いたところ、「もうコウキは全体練習に戻っている。次節にはベンチに入るだろう」と語っていた。実際、レンジャーズとのCL予選3回戦第1レグでは、ベンチに座る町田の姿があったが、その後また負傷したようで、今は我慢の時だ。

2部からスタートの本間至恩

 今年7月にアルビレックス新潟からクラブ・ブルージュに移籍した本間至恩は、まずはリザーブチームのクラブNXTの一員として、ベルギー2部リーグからスタートする。

 トップチームのカール・フーフケンス監督は、リザーブチームとトップチームをリンクさせる仕事をしていた時期がある。そして、クラブ・ブルージュはフーフケンスも交えて『ザ・プラン2023』という計画を策定し、「2023年にはアカデミー出身の選手が4〜5人、トップチームでプレーする」という目標を掲げている。

 現在のトップチームのメンバーにもアカデミー出身の選手は複数いるが、ポジションを掴んでいるのは準レギュラーのひとりだけ。要はその質を上げて、シャルル・デ・ケテラーレ(ACミラン)のような傑作をトップチームに送り出したいということだろう。

 アカデミーを知り尽くし、リザーブチームへの関心も高いフーフケンスがトップチームの監督を務めるだけに、本間のチェックも念入りに行なわれるだろう。