W杯まで100日の日本代表を総点検。左SB、CF…手を加えるべきポジションは?
カタールW杯まで100日〜杉山茂樹×浅田真樹(後編) 前編「日本代表と森保一監督にいま求められることは何か」を読む>>
――具体的に、日本代表でこれから変更がありそうなポジション、変更すべきポジションがあれば挙げてください。
杉山 個別のポジションで言うと、たとえば左サイドバック。ここ最近の日本代表は右サイドに比べて左サイドの連係が明らかによくありません。サイドバックの選手でいうと、右は酒井宏樹、山根視来がいるけど、左はあいかわらず長友佑都だけ。その長友と南野拓実の連係がうまくとれていない。直すとしたらまずここなんだけど、森保一監督は積極的に手を打ってきませんでした。さすがにドイツはそのあたりを研究してくるはずなので、穴になってしまう可能性が高いと思うのだけど、手を加えないまま本番を迎えるのではないかと心配になっています。
浅田 6月になって初めて左サイドバックで伊藤洋輝を試しましたが、それまで放置されていた。もっといろいろと試して、最後はやはり長友になるのと、長友しか使わないで長友になるのとでは、違うと思うんです。
杉山 ファンの納得度がね。それは選手も同じことで、誰も絶対口にしないけれど、心のなかではわかっていると思う。6月の代表戦では実際、長友がフリーでいるにもかかわらずあえてパスを出さないというシーンがありました。
ここまでメンバーをほぼ固定して戦ってきた日本代表の森保一監督
僕はドイツ戦に関しては、サイドバックが生命線だと思うんです。ドイツが嫌うのは小柄ですばしこいサイドバック。それも中盤的で、周囲との連係でじわじわとつないでいける選手がいい。対スペインはちょっと違うかもしれないけど、日本はドイツに体力、走力で対抗するのではなく、パス回しで対抗すべきです。
もし日本とドイツの差がつまっているとしたら、それは技術。ドイツはひところより身体能力重視型のサッカーになっており、そこをつくのは、技術、パス回しをベースにした巧緻性、すばしっこさになる。いわゆる日本人らしさが発揮できればいい試合ができる可能性は増す。活路はサイドバックにあると考えます。
大迫勇也が必要な理由杉山 ドイツは初戦の日本戦、3−0や4−0を狙ってくると思います。これまでのW杯の初戦の戦いを見ても、2002年はサウジアラビアに8−0、2010年のオーストラリアには4−0、2014年のポルトガルにも4−0で大勝しています。初戦で大勝を狙い、相手を強引に潰しにかかってくるんです。これだけ差をつけられると、やられたほうは先が見えてしまいます。ドイツの強引さを逆手にとるのだったら、やはりカギはサイドだと思うんです。
浅田 もうひとつはセンターフォワードを誰にするか。考え方にはいろいろあるけど、ある程度そこでボールを収めてほしいというイメージなら、僕は大迫勇也しかいないと思っています。コンディションのせいかフルで試合に出られていないので、現状のままでは厳しいものがあるけど、動ける状態にあってあの役割を求めるなら大迫。あとは発想を変えるしかない。
杉山 最低3試合、そしてさらにベスト8を狙うと言うなら、センターフォワードは3人必要だと思います。だとしたら、そのなかに大迫は入る。交代枠5人制では、早い時間に交代の対象になるポジションですから、3試合で時間にして半分ぐらい出てもらいたい。あとは鎌田大地をコンバートするとか、町野修斗を抜擢するとか。選択肢を増やすことが急務です。森保監督はスピード系の選手をしきりに試していますが、彼らが中央で構えると、ボールが収まらずバタつく感じになります。
浅田 実際、古橋亨梧、浅野拓磨、前田大然を使って、ピタッとハマった感じの試合はありませんでした。
杉山 そこにスピード系を据えるなら、トップ下にボールが収まる選手、それこそ大迫みたいなポスト系の選手がいなければいけない。その意味で適任は鎌田なんだけど、これまで森保監督は鎌田をあまり使ってこなかったし、そもそも4−3−3にはトップ下がない。インサイドハーフだとトップとの距離が離れてしまう。だからトップにスピード系の選手を置くなら、布陣を4−2−3−1にしてトップ下に、ボールを収める力のある選手を置くほうがいいのですが、そうしたコンビネーションは追求していません。
ボランチ、センターバックも盤石ではない浅田 あまり不安がないと思われている他のポジション、たとえばボランチやセンターバックには、人材はそれなりにいると思います。東京五輪からアジア最終予選にかけての話で言うと、遠藤航、吉田麻也、冨安健洋の3人は鉄板で外せない選手になっていました。実際、頼もしかったと思います。でも、中2日で6試合を戦う東京五輪では遠藤を使いすぎてしだいにパフォーマンスが落ちていき、最後の3位決定戦はひどい状態でした。
吉田にもそれは言えることだし、冨安にいたっては疲労からかケガが多くなってしまった。板倉滉が成長しているのは間違いなく、杉山さんが言う上り馬的選手かもしれませんが、ときどき軽いプレーを見せることがあって、1試合ならともかく、3試合、4試合となると不安があります。だからこそこれまでにもっといろいろなテストをしておくべきだったし、たとえば守田英正のアンカー起用というのもやっておくべきでした。
杉山 ディフェンシブハーフに関して言うと、4−3−3はアンカーがひとりで、4−2−3−1はボランチがふたり。僕は、4−3−3は交代5人制のサッカーには合っていないと思うんです。それは、4−3−3だとアンカー(遠藤)が代えにくいから。4−2−3−1なら、個人ではなく、ボランチ2人の組み合わせで"色"を調整できる。選手を使い回しやすくなる。
このまま遠藤ひとりでいったら、3戦目のスペイン戦の後半はガタガタになるのではないか。その時点で板倉をポンと入れても、うまくいくとは思えません。グラデーションをかけるように選手を使い回せるかがポイントになる。特定の選手に負荷を負わせないという意味では4−2−3−1のほうが適していると思います。1トップと1トップ下の関係も含めて、4−2−3−1の可能性をもう少し追求したほうがいいと思います。
――開催国カタールや日本以外の国についてもひと言、お願いします。
浅田 カタールというのは日本の選手にとってはなじみの深い国です。2011年のアジア杯に出場した選手はさすがに少なくなってきたけど、UAEなど近隣の国を含めれば、W杯予選や年代別の大会などで多くの選手が経験している。欧州や南米の選手より環境や雰囲気には慣れていると思います。ある種の地の利があるのだから、それを生かしてほしいです。あと、8つのスタジアムはほぼ新設なので、それも楽しみですね。今回は移動がラクだから、見ようと思えばすべて回れる。
杉山 何せ「ドーハの悲劇」の場所ですから、僕らもなじみ深い。南アフリカ、ブラジル、ロシアと、日本のサポーターがすごく少なかった。日本は応援で負けていました。1998年のフランス、2006年のドイツから比べると激減です。コロナも心配だしお金もかかるかもしれないけど、治安はいいし、国が小さいのでアクセスもいいし、お勧めします。まさに行き時だと思います。
浅田 ただしスタジアムでお酒を飲むことはできません。イングランドやウェールズのサポーターはどうするつもりなんだろうというのも、ちょっと見ものですね。
杉山 日本以外で言うと、ブックメーカーはブラジルを本命に押しているけど、あてにならないと思う。リオネル・メッシが最後のW杯になるであろうアルゼンチンもそう。逆にクリスティアーノ・ロナウドが最後となりそうなポルトガルはロナウドを代えることが可能なぶん、面白い存在。オランダが上り調子で、ベルギー、ドイツはやや落ちており、フランスは高位安定。結構、優勝争いも面白くなると思います。
浅田 やってみないとわからないW杯ですから、前回のクロアチアのように、小国がするするっと上がってくる番狂わせも期待できます。
杉山 日本だって、厳しい組み合わせになりましたが、監督采配が冴え、最大限うまくやれば、ベスト8は狙えると思うんです。