カタールW杯まで100日〜杉山茂樹×浅田真樹(前編)

 急遽、日程が変更し、11月20日の開幕となったカタールW杯まであと100日。ヨーロッパサッカーは新シーズンに入ったところだが、そのシーズンの真っ只中に行なわれる前代未聞の大会となる。もう準備期間はほとんどない。日本代表はそのカタールW杯にどう向かっていくのか。これからできることはあるのか。サッカージャーナリストの杉山茂樹氏と浅田真樹氏が語り合った。

――カタールW杯は開催時期から何から、いつもと違うW杯になります。それ自体、各チーム、特に日本にどんな影響があるのでしょう。

杉山 僕も想像するしかないですが、カタールは欧州に近いし、大会も欧州の日程に沿う形で行なわれる。感覚的にはヨーロッパの大会です。欧州のリーグ戦をやっている最中に、瞬間的に組み替えて戦いの舞台をカタールに持っていくような感じです。となるとやはり、欧州でプレーする選手のほうが対応しやすい。実際、日本代表も8割ぐらいは欧州でプレーする選手になるでしょう。初の試みとなるW杯で、ものを言うのは監督力になると思います。瞬間的に組み替わる舞台のムードに対応できるかどうか。

浅田 やってみないとわからないというのが正直なところですが、あえてひいき目に、日本にアドバンテージがあるかもしれないという見方に立つと、誰もやったことがないということは、経験の差が出にくいということはあります。クラブでのシーズンが終わって、代表に集まって、何試合かやってW杯やユーロの本番へ......というパターンに慣れた欧州の選手にとっては、もしかしたらシーズン真っ只中に突然開かれるW杯は切り替えが難しいかもしれません。

杉山 弱者である日本がヘマを犯しても、世界的には大きな話題にはならないけれど、強者がヘマをする可能性もあるわけで、そこに日本はつけこまなければならない。日本とドイツ、スペインの間には、そもそも戦力に差があるわけだけど、本来0−2の差が0−4になってしまう可能性もある反面、1−2、もしかしたら1−1になる可能性もあるということですね。

欧州組のコンディションを見極められるか

浅田 希望的観測だと言えばそれまでですけどね。

杉山 シーズンの真っ只中ということは、すべては選手のコンディション、調子に深く関わってくると思います。その意味で、欧州でプレーする選手たちの今季の出来はきわめて重要になってきます。これは日本に限った話ではありませんが、開幕後にレギュラーをとれていない選手、出場機会を減らしている選手、逆に使われすぎてすり減ってしまった選手をどう見極めるか。

 これまで代表の中心だった選手や名前のある選手でも、コンディションを落とす選手は必ずいるでしょう。特にアタッカーは調子優先で選んだほうがいい。シーズンが始まったら森保一監督はずっとヨーロッパにいたほうがいいぐらいです。

浅田 いつものW杯だったら、シーズン中にあまり試合に出ていなくても、代表に合流して何試合かやるなかで、コンディションやゲーム勘を上げていくことができたけど、リーグ戦最後の試合から10日後にはW杯第1戦という今回は、そういうわけにはいかない。リーグ戦で試合に出てないと苦しいでしょうね。これまで主力として起用してきたけれど、シーズンが始まったら試合に出れなくなった欧州組の選手を、森保監督が切れるかどうかというのもポイントになりそうです。

杉山 その勇気があるどうか。

浅田 日本はW杯の最終予選を、少なくともホームのオーストラリア戦以降はメンバーを固定して戦いましたから、そのメンバーがクラブで試合に出れなかったらどうするのかは心配です。それ以前に、そもそもメンバーを固定したのが良かったのかという問題もありますが。

杉山 これまでのW杯を見ていると、日本はW杯を前に、ドタバタした時のほうが本大会の成績がいいんです。同じメンバーで悪い意味で安定していたジーコやザッケローニの時はダメでした。基本的に、予選終了後からメンバーがある程度、変わっていないダメなんだと思います。そこに今回はコンディションの問題が加わってくる。

 イメージとしては11のポジションのうち3つぐらいは変えたほうがいい。代表チーム内で、レギュラーとそうでない人がはっきりしているのもよくない。2試合目、3試合目と試合数が増えると、中3日で行なわれる今回はとりわけ、選択肢に行き詰まるんです。

新鮮なパワーを発揮できる選手がいないと勝てない

浅田 日本代表の6月の4試合を見ると、主力組中心の試合は内容があまりよくなかったし、メンバーをちょっと入れ替えるとうまくいかなくなるところがありました。W杯最終予選の最後のベトナム戦で、メンバーを入れ替えてひどい試合をした流れが続いています。それもふまえると、森保監督がメンバーの入れ替えに積極的になるとは思えません。


欧州組を含めた直近の代表戦では、チュニジアに0−3で敗れている日本

杉山 変えにくい感じが出てしまっているのは確かです。なによりそれは森保監督が作り出したムードなのですが、そこを壊せるか。いずれにせよ、監督力の占める比重が高まっているのは間違いありません。

浅田 変えたほうがいいというのは賛成です。杉山さんが、大会の前にバタついた時のほうが成績はいいと言いましたけれど、言い換えれば、実績とは関係なく調子がいい選手を選ばざるを得なかった時のほうが成績がいいということ。南アフリカW杯を前に、岡田武史監督がそれまでチームの中心だった中村俊輔を外した時はまさにそうでした。

杉山 説明が難しいのですが、その新鮮さが新たなエネルギーを生むのです。

浅田 もちろん、あの時の本田圭佑や前回大会の乾貴士のような選手が今シーズン、出てくるという保証もないですが、瞬間風速的にとてつもないパワーを発揮する選手を生かさないと、実力的に劣る日本がまともにやっても勝てません。

杉山 ただ今回の日本代表は、これまでにないほど、メンバーに実力差がほとんどないと思います。E−1選手権は国内組だったとはいえ、直後に橋本拳人がスペインに行ったように、いつ欧州に行ってもおかしくない欧州組予備軍のようなもの。10段階で8の選手はいなくても、6、7の選手はいくらでもいる感じです。つまり、絶対に代表に入らなくてはいけない選手は実は少なくて、せっかく枠が26人に増えたのだから、その分、上がり馬的な選手、藤田譲瑠チマのような20歳そこそこの若い選手を積極的に抜擢したほうがいいと思います。

浅田 難しいのは、本番までのテストマッチが非常に少ないので、選手を入れ替える根拠を見つけにくいことです。たとえば、E−1選手権の韓国戦で見られた、コンビネーションでサイドを崩すようなプレーは、海外組では難しいと思うんです。その点だけに関して言えば、国内のメンバーのほうがよかったとも言える。

 ではW杯のスタメンに横浜F・マリノスの選手が5人まとめて入るかと言ったら、そんなことはあり得ない。では、ひとりかふたりピックアップするにしても、今度は個で海外組を上回るだけの選手がいるかと考えると、入れ替えにくくなる。そもそもE−1選手権が参考材料になっているのかどうかさえ、わからないところがあります。
(つづく)