カタールW杯の開幕日変更が正式発表。日々変化するルールと冷めた市民…開催100日前の現地でいま何が起きているか
W杯の歴史上、カタールW杯は最も準備に時間をかけて行なわれる大会だ。なぜなら2011年のFIFA理事会で、2018年大会(ロシア)と2022年大会の開催国が、同時に決定されたからだ。それまで一大会ずつ決められていたものが、なぜこうなったのか、その話をし出したらきりがないのでここでは触れないが、とにかくカタールは、11年という長い時間をかけてW杯の準備をすることとなった。
中東初の大会でもあり、カタールは国の威信をかけて準備を進めてきた。その結果、(労働者の多くに犠牲者を出しながらも)スタジアムや交通、空港などは、かなり早い段階で完成していった。また、ことあるごとにイベントを行ない、大会への興味をかき立てようとしてきた。
2020年2月25日、カタールは大会1000日前のイベントを開いた(1000日前を祝ったのはカタールが初である)。世界中から大会アンバサダーが集まり、カタールで初めてクラブW杯が開かれた。
W杯500日前の2021年7月9日。カタール政府はこの日を祝日とした。また、スタジアム建設のために過酷な労働が強いられているという批判を封じるかのように、W杯では可能な限りプラスチックを使用しないことを発表、解体可能なスタジアムなどエコロジーでモダンなリノベーションをしているとアピールした。
2021年11月21日、大会1年前。海沿いの遊歩道に設置されたデジタル時計がカウントダウンをはじめ、W杯のテスト大会ともなるアラブカップが開催された。ただし、一部の試合にしか観客は集まらず、見に来ているのはドーハに住む外国人か、サウジアラビアかドバイから来たサポーターのみ。W杯にやってくるサポーターの数とは比べものにならず、本当の予行演習にはならなかった。
どうにか盛り上げようと、組織委員会は今年5月5日に200日前のイベントも行なった。カフーがゲストに招かれ、本物のW杯のトロフィーが各会場で巡回展示され、花火が打ち上げられた。
出場32チームの国旗を掲揚するイベントが行なわれたカタール photo by Reuter/AFLO
ただ、翌日にはW杯の話題は聞かれなくなった。生粋のカタール人はサッカーに興味がない。またカタールの人口の多くを占める外国人労働者もインド、スリランカ、パキスタン、バングラディッシュの出身で、どちらかというとサッカーよりクリケットに熱くなる人々だ。一部にサッカーファンはいても、高いチケットを買う金も時間もない。
私にとってカタール大会は人生10回目のW杯となる。これまで大会前には何度も開催国に足を運び「W杯がやってくる!」という熱気が高まってくるのを肌で感じるのが好きだった。カタールにも私はこれまで4度足を運んだが、そうした熱い気持ちは今のところまだ一度も感じることができないでいる。11年かけて、ハード面は立派なものが出来あがったが、人々のサッカーへの情熱だけはついに育まれなかった。
大会100日前となる今週末、カタールでは大きなイベントが企画されている。ただし今のカタールの気温は、日中は43度、夜も32度になり、イベントは屋外ではできない。そのため6つのショッピングセンターで、さまざまなボールを使ったゲームが行なわれ、一番高い得点をあげた者には開幕戦のチケットがプレゼントされるという。ただ、そんな猛暑のなかでも、労働者は昼も夜も働かされている。スタジアムやインフラは早く出来あがったが、それを大会まで保持するメンテナンスが必要なのだ。
開催時期や冷房のついたスタジアムなど、カタールW杯は従来の大会とは大きく異なる点が多いが、違うのは試合に関係することだけではない。
現時点では大会期間中、サポーターはチケット1枚につき、その試合前後の4日間のみカタールに滞在できることになっている。つまり開幕戦と決勝のチケットだけを持っている人はカタールに滞在し続けることはできないのだ。
また、この期間カタールに入国するには試合のチケットのほかに、宿泊施設の予約も必須だ。それを手配した後、「Hayyaカード(デジタルとカードの両方がある)」なるものを申請し、初めてカタールに入国できる。ロシア大会のファンIDのようなものだが、ファンIDはスタジアムに入る時のみ必要なものだったが、「Hayyaカード」はサポーターの宿泊施設の特定や出入国の管理まできるようになっている。ちなみにこのカードを持っていればカタールのメトロはすべて無料で乗ることができる。
開幕戦のカードが変更 カタール政府は大会中の治安にも気を使っている。そのため、パキスタンとポーランドから警備の人員を借りることにした。また、参加する32カ国すべてに警官を派遣してもらうことを打診している。もちろん日本も含めてだ(日本がそれに応じるかは別だ)。イングランドは20人ぐらいの人間を派遣する予定だ。ただこうした警備の強化はサポーターを守るというより、カタールを守るという役割が大きいのかもしれない。
組織委員会は、これからの100日はW杯成功に向けてのブラッシュアップの時期だと言う。裏を返せば、これからも日々状況が変わっていくということでもある。
今のところ、お酒は4つ星以上のホテル内か、認められたパブでのみで飲めるが、それ以外はダメだ。スタジアムでもアルコール販売はなし。大会スポンサーのバドワイザーが交渉しているところだが、ノンアルコールのビールだけは認められるかもしれない。
少し前まで、カタールへの日帰り旅行は禁止されていたが、2カ月前に政府はその方針を180度転換し、今は逆にそれを推進している。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、オマーンの近隣の4カ国から「マッチデー・シャトル」という飛行機が飛び、「Hayyaカード」を持っていれば日帰りも可能になった。ドバイとの間には1日60本が飛ぶと言う。政府がこれを許可したのはホテル不足を解消するためだろう。
恋人たちが屋外でキスをしたら、同性の恋人同士が手をつないだら、女性が露出度の高い服を着て歩いたら......どうなるか、今はまだわからない。しかしたとえそれが許されても、翌日には真逆のルールに変わる可能性もある。
この原稿を書いている間にも、それを物語るニュースが飛び込んできた。開幕戦は11月21日、グループAのセネガル対オランダ戦だったが、カタールが急遽、カタール対エクアドルの試合を開幕戦にすると言い出し、開幕日を1日前の20日にすると正式発表したのだ。本来なら開幕戦を戦うはずのカタールが、なぜその日の第3試合になっていたのかは謎だが、とにかく11年も準備期間がありながら、100日前になっての日程の変更である。これによって他の試合のスケジュールも変わってくる可能性があるし、チケットを持っている人々は飛行機やホテルを予約し直さなくてはいけない。
これからの100日間、その"変化"はより激しくなるだろう。